┏…・・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・…┓ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥       pdwebメールマガジン第33号・・・2012/12/25       編集制作:pdweb.jp編集部 http://pdweb.jp ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ┗…・・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・…┛ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ● pdwebメールマガジン第33号 目次 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ●連載コラム:西山浩平の空想デザイン 第19回:ギャラリスト ●リレーコラム:若手デザイナーの眼差し 第9回:工藤健太郎/delibab(デーリバーブ) ●編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■○■pdwebメールマガジンでは広告のご利用をお待ちしています。■○■ イベント/セミナーの告知や集客、新製品のご案内に。臨時増刊もあります。 ■○■お問い合わせはinfo@pdweb.jpまで。料金:1行6,000円〜。 ■○■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●連載コラム:西山浩平の空想デザイン 第19回:ギャラリスト ○知り合いのいないパーティ マダムMとは母校の先輩の紹介を通じて知り合った。先輩がホストを務めるそ の立食パーティーは、将来きっと役に立つから、と招待してくれた。行ってみ るとほとんどの出席者が60代で、知り合いはいなかった。僕は、しばらく壁際 に立って時間をつぶしていた。そんな僕をみて気を利かせなければ、思ったの だろう。先輩はワイングラスを片手につかつかと部屋の向こうからやってきて、 もう片方の手で僕の腕を取るなり、マダムMの前に連れだした。そのときマダム Mは会場の隅で誰と話すでもなく控えめに1人でニコニコしていた。 僕が何をやっているかを、先輩がいまだによく理解していないことは、マダム Mへの僕の紹介を聞いてよく分かった。ソフトウェアとデザインを売っている 青年実業家という、先輩なりの表現を聞いて、頭の中で台車に梨を載せて売っ ている江戸時代の商人になった気分になっていた。どう話をつむいでいけばよ いのか分からないままでいるのに、先輩は紹介が終わるなり、さっさとどこか に行ってしまった。そして途中、一度振り返って「がんばってね」と言わんば かりに、ニヤリとした表情をするのを忘れなかった。 ○マダムM マダムMは小柄でシックな装いの婦人だった。僕と同世代の娘さんがいるとい う。母親に近い年齢のはずだが、どこかエイジレスなところがあって具体的な 歳を考えさせないところがあった。改めてお互いの自己紹介を簡単に始めた。 なるべく簡単にしようと思って、インターネットを使って新商品の予約を集め る仕組みを開発しているという話をしたが、先輩の説明も説明だったので、マ ダムMの理解もそのレベルのままだった。彼女はそれ以上知りたいとも思って もいないようだったので、僕の仕事はソフトウェアとデザインを売る人のまま にしておいた。 マダムMは、1980年代に辣腕バイヤーとしてデパートの売り上げを支えていた と言う。最近は気が向いたときだけ自分のギャラリーの仕事をしているようだ った。当時の買い付けの話を聞いてみたくて話を向けてみたが、答えは娘さん たちの話になって返ってくるばかりだった。その日はそれ以上でもそれ以下で もない会話を交わしただけだった。だから先輩が何を期待して2人を紹介した のかは分からないままだった。 ○轆轤をまわす 高校時代、僕は学校を終わると陶芸家の自宅件作業場に通って、来る日も来る 日も轆轤(ろくろ)を回していた。イギリス人のその陶芸家はもったりとした 作風の持ち主で、大きな陶器の作品を作るのを得意としていた。陶器は使って も楽しいが作っても楽しい。粘土の扱いに慣れるのに時間がかかるが、腹に力 を入れて、脇を締めて 手首と指をしっかり固定して土に臨めば、土は生き物 のように中心から外へ、そして上へと伸びていってくれる。 大物の場合は、少しのムラが命取りになる。回転する轆轤の上でバランスを欠 いた粘土の回転体はやがて、どんどんバランスを欠いていき、必ず途中で支え きれなくてちぎれてしまう。理想のかたちに仕上げるには、頭の中にイメージ があるだけでは不十分で、手がかたちを覚えていないと思ったとおりに身体が 動かず、土もついてきてくれない。どこか会社の経営に通じるところがあって、 バランスよく、会社を成長させられていないなあ、と思うときは頭の中で、空 想上の轆轤を回して会社の経営のどこかバランスが欠いているところがないか をよく想像してみている。 磁器よりも白磁はもっと扱いが難しい。磁器は薄く作るので精度がいる。特に 大物は、陶器と同じだけの粘土のボリュームがいるのに、薄く繊細に仕上げな ければならないので相当な鍛錬と集中力が要求される。だから白磁の磁器の大 物を見ると、作家がどういう呼吸をしながら腹の力を持続させて粘土を取り回 したのか、バランスの取れたカーブを出すのに、どうやって均等に腕をそして 体重のバランスを動かしていったのかが気になってしまう。特に会社の経営で 悩みを抱えているときは、ヒントをつかみたい一心で磁器をみる。 ○作家Kの器 マダムMの名前を聞いたのは、それからしばらくしてからだった。これからの 取引を開始しようとしていた会社の社長の応接室に立派な作家Kの器があった ので、思わず話を振ってみた。 「これ、作家Kさんのですか?」 「へえ、分かるの?」 「ええ、好きなんです。ですがとても高くて手が出せなくて…」 「銀座のメインギャラリーは、相場を維持しようと、大物しか作家Kさんに作 らせなかったからね。でも、小物も扱うようにとどこかのギャラリーが作家K さんを説得したらしいよ」 その数日後、マダムMから作家Kの小さい作品を扱います、というギャラリーの 案内がメールで届いたときはビックリした。 ○ギャラリーの奥 都心ではあるけれども、なかなか足を運ばない住所にあるそのギャラリーは、 住宅とオフィスの間にちょこんとあった。高杯、蕎麦猪口、小皿、角皿などの、 小さな作品が、さらりと展示してあるだけだった。しかもどこにも作家Kとは 書いてない。ふらりと入った人には、割高な磁器を扱っている趣味のお店にし か見えないだろう。 マダムMは僕がお店に入ってきたのを見ると、あたかも来るのが分かっていた ように、こんにちはと言って、お茶を出してくれた。とにかくお店は狭くて、 そのままそこでお茶をいただくと、マダムMと顔を付き合わせる格好になって しまった。なんだかもじもじした気分になったので、展示に目を向けて、立っ たままお茶をいただくことにした。 「偶然、知り合いから作家Kさんの小物も手に入るようになったと聞いた矢先 だったんです。だから案内をいただいたときはビックリしました」 「あらそう。偶然ね」 「……」 「食器だものね、銀座みたいな値段で売ってばかりいたらだめよ、と作家Kさ んをしかったのよ」 「とても手が出ないと分かっていても、銀座には僕、好きでよく見に行ってい たんです」 「作家Kさんも使える食器を売りたがっていたから、ちょうど折り合いがつい て、こうなっただけなのよ。この蕎麦猪口なんていいでしょ。まっすぐな形で」 「…はい。作家Kさん、轆轤で直線が出せる人ですからね。大きいほうが、直 線が映えてやっぱりかっこいいんですよね」 「……」 「あなたお金持ってるの?」 「えっ? いいえ。でも稼ぐつもりです」 「あらそうなの」 マダムMは、そう言うと、奥に引っ込んでしばらく出てこなかった。奥の方が 店より大きいことは、奥から聞こえて来る音で分かった。しばらくして大きな 箱をもってきてマダムMは出てきた。そして、目の前に、大きくてまっすぐな 月見杯を出してくれた。人目みて、いい作品だと分かった。作家が頭に描いた イメージが素直に形にできていた。精緻なのにノビがあった。マダムMはじっ とこちらの表情を見ていたのだろう。 じっとためた息を静かに使って、マダムMはこう言った。 「あなたこれ買いなさい。10万円」 本当の値段はいくらだったのかは、知る由もないが、その声を聞いて、買わな い道は残されていないことを知った。ただ縦に首を振って、取りに来る日だけ を伝えて店を後にした。 その数日後に、件の社長から取引を開始したいという連絡が入った。どこまで 先輩が見通していたかは分からないが、頭の中で、また、先輩がにやりと笑っ たような気がした。 西山 浩平 Linkedin : Kohei Nishiyama Twitter : Kohei Nishiyama ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●リレーコラム:若手デザイナーの眼差し 第9回:工藤健太郎/delibab(デーリバーブ) 〇ほにゃららデザイナー デザインには、プロダクト、ファッション、グラフィックなど、さまざまな分 野がありますが、私のデザイン分野を括るとしたら、おそらくインテリアデザ イナーということになるのだと思います。なぜ純粋なプロダクトデザイナーで もない私が、この場所に寄稿させていただいているのでしょうか? 私は桑沢デザイン研究所という専門学校で空間デザインを学びました。目的は もちろん子供の頃からのゆ…いや、インテリアデザイナーになるためです。当 然クラスメイトたちも同じ思いで入学してきているのだろうと思い込んでいた 当時の私には、卒業後に異なるデザイン分野に進んでいくクラスメイトたちの 気持ちがうまく理解できませんでした。せっかく空間の勉強をしたのに、もっ たいないとすら思ったものです。MOTTAINAI!! そんな才能溢れるクラスメイトたちがさまざまな分野で開花していく中、真面 目で平凡な私は、当初の目的遂行のため、当たり前のようにインテリアデザイ ン事務所に入所したのです。 〇インハウスデザイナーの憂鬱 インテリアデザイン事務所では主にブティックのインテリアデザインに携わり、 大変ながらも刺激的な毎日を過ごしました。その後、自分自身がまともに社会 に出ていなかったこともあり、いわゆるアトリエ系のデザイン事務所から企業 のデザイン部に転職することにしました。そこは楽しい職場ではありましたが、モ ノ作りという観点に限って言えば刺激のある環境とは言えませんでした。 うー、デザインがしたい!デザインがしたい!と、デスクに頭を擦り付けなが ら悶々とした日々を過ごす中、とある営業さんから「こんな公募コンペがある から出してみれば?」と言われました。それは私の専門分野のインテリアデザ インではなく、“自転車の駐輪ラック”という都市計画とプロダクトの合わせ 技のようなデザインコンペでした。このままデスクに頭を擦り付け続けるわけ にもいかないので、学校の課題をやるような気持ちで公募コンペに応募するこ とにしました。 〇花が咲くとき 駐輪ラックのコンペのデザイン案は「芽」を模した形状にしました。その上に 自転車を停めることで車輪の花が咲き、花畑が拡がるように街の風景を変える ことができないかと考えました。幸いにもこの案で最優秀賞をいただくことと なり、これをきっかけに自分の中の何かが確実に変わったことを今でも鮮明に 覚えています。クラスメイトたちが開花させていた他分野の花が、車輪の花と ともに私の中でも開花したのです。これからは“インテリアデザイン”という 分野に囚われずほんの少しだけ自由にやってみよう、そしてデスクに頭を擦り 付けるのはもう止めよう、と。 翌2007年、デザインユニットdelibab(デーリバーブ)を結成することとなりま した。 〇二兎を追う者は何を得るのか 企業でインハウスデザイナーとして働く傍ら、デザインユニットとして展示会 やデザインコンペに参加するという状態が3年間続きました。その間に、モノ 作りの周辺にある“モノの伝え方”や“モノの売り方”、“継続する大切さ” を学びましたが、何よりも今の私の財産になっているのは2009年に同じ展示会 に出展していた、建築家、インテリアデザイナー、プロダクトデザイナー、グ ラフィックデザイナー、家具職人、木工職人、金属加工職人など、多分野に渡 る人たちとの出会いでした。 各自でモノを作ることはできる。だけど、これだけの分野の人間が集まればモ ノだけではなくコトも作れる! という思いから、2010年、DESIGN HEART と いうトータルデザインソリューションユニットが始動することになりました。 〇ほにゃららデザイナーと兎の行方 今では念願だったインテリアデザイン事務所として独立し、デザインユニット としての活動も並行して続けています。デザイン分野を越えることは良い側面 も沢山あると思いますが、その一方で簡単に侵してはいけない領域が存在する のも確かだと思っています。それに気付くことができたのも、二兎を追った結 果出会えた他分野のプロフェッショナルである仲間たちが身近にいるお陰です。 ただ分野を超えるだけではなく“インテリアデザイナー”という立場から“イ ンテリアデザイン”という分野に囚われず自由にやってみよう。私が捕まえら れない兎は他の誰かが捕まえてくれるし、他の誰かが捕まえられない兎は私が 捕まえられる。そんなことをぼんやり考えながら、フラフラと兎を追いかける 毎日が続いています。 工藤健太郎 delibab http://www.delibab.jp FOG design Co.ltd. http://www.fogdesign.co.jp DESIGN HEART http://www.designheart.net ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●編集後記 「ボーダーレスで行こう!」。そんな気分の2012年、年の瀬です。デザインの 世界、プロダクト、インテリア、グラフィックなど、あるいはデザインとエン ジニアリングの間を普通に横断しているデザイナーは少なくないです。写真の 世界もスチルとムービーの壁がどんどん低くなってきています。そして編集の 世界もメディア問わずが求められています。昔の言葉で言うと「ワンソース・ マルチユース」に近いのかもしれませんが、もっと、自分のアイデンティティ を広げてしまうような、それでいてコアをしっかり表現できるクリエイティブ が、今っぽいかなぁと思っています。(M) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■取材・執筆・DTPデザイン・印刷物納品を行います! カラーズ(有) ■企業のユーザー事例、パンフレット、Webコンテンツなどの制作を行います。 ■お問い合わせはinfo@pdweb.jpまで。お待ちしています。■■■■■■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ pdwebメールマガジンNo.33 2012年12月25日発行 2,700部配信 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓   pdwebメールマガジン登録変更および解除のご案内 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ※このメールに返信はできません。配信アドレスの変更や停止を希望される 方は、pdweb.jpのトップページ右側の登録フォームにて操作をお願いいたし ます。 http://pdweb.jp ┏…・・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・…┓ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥   編集・制作:pdweb.jp編集部   〒151-0071 東京都渋谷区本町1-20-2-909 カラーズ有限会社   お問合せ先 info@pdweb.jp   Copyright(C) Colors.,LTD. 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