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インタビュー

日本国内のスマートフォン市場においてiPhoneに続くシェアを持つソニーのXperia。Androidスマートフォンはデバイスが均質化する中で国内外のメーカーが競い合っている。その中でXperiaが輝いているカギは、デザインにあるのは間違いないだろう。今回はソニーの商品企画部の矢部氏とXperiaデザインマネジメントの飯嶋氏に、Xperiaにおけるソニーデザインについて話を聞いた。

ソニー株式会社
クリエイティブセンタースタジオ5NPデザインチーム1統括課長
飯嶋義宗氏
ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
商品企画部門 商品企画部 商品企画課 矢部 椋氏




Xperia、2008年から2018年の歩み

--携帯電話がスマートフォンにシフトして約10年が経ちます。まずXperiaの初期から現在に至るまで、デザインを軸に歩みを振り返っていただけますか?

飯嶋
:10年前の2008年、2009年頃はまだまだフィーチャーフォン隆盛で、iPhoneも登場したばかり。ソニーは当時、非常に小さなXminiやCyber-shot携帯など、さまざまな独自性を追求してきました。

矢部:2010年頃から日本でも本格的にスマートフォン時代がやってきて、ソニーも「X10」(※)という初めてAndroidを搭載したXperiaを日本に投入しました。それまではカメラ携帯、音楽携帯などさまざまなタイプの携帯がありましたが、Androidベースでそれらの機能が1つに集約されていきました。
(※海外で2009年に発売したXperia X10は、国内では2010年に商品名「Xperia」SO-01BとしてNTTドコモより発売)。

飯嶋
:当時からXperiaとしましては、競合他社もある中で独自性の追求を行ってきました。まず初代のXperia「X10」では、「Human Curvature」というキーワードを掲げ、人に寄り添うデザイン、背面にカーブを付けて手に持った時の持ちやすさを追求しました。

2012年頃からスマートフォン隆盛期になり、「Z」シリーズを投入。さらなる独自性、ユーザビリティの追求ということで「Omni Balance」をキーワードに、360度同じデザイン処理が施され、どこで持っても手当りの良いボディデザインを開発しました。同時にCMF(COLOR、MATERIAL、FINISHING)の重要性にも着目し、Zシリーズからは独自のカラーバリエーションを展開しています。最初の紫の「Xperia Purple」は非常に好評で、Xperiaを象徴するメモリアルなカラーになりました。

そして2016年から「XZ」シリーズとなり、デザイン言語は左右のコーナーを背面まで丸め込んだ「Loop Surface」にリフレッシュしました。2017年には「Loop Surface」の1つの完成形として、筐体すべてが一つながりの金属を押し出したような形状の「XZ1」をリリースしました。また「XZ」シリーズのCMFは深みのある青を特徴とした「Blue Story」となっています。

2018年に新たなデザイン言語「Ambient Flow」を元に人に寄り添うデザインということで「XZ2」そして最新モデルの「XZ3」を開発しました。CMFは「Flow of Light」という、光の流れを表現するような処理を施しています。例えば、ただのホワイトボディではなく、光の反射を受けて、虹色に見えるなど、光の変化を楽しむような表面処理を施しています。

--2010年の「Human Curvature」と今回の「Ambient Flow」の違いは何ですか?

飯嶋:ボディサイズの大きさが当時と違います。X10の頃は手のひらの中に収まりましたので、横方向のカーブで馴染みやすくしました。今回も同様にエルゴノミクス的デザインですが、現在のスマートフォンは画面サイズが6インチ前後となり、また横画面にして映像を観る利用法も増えています。横でも縦でも手に馴染みやすいデザインに進化させています。

--大容量バッテリーのスペース確保という意味合いはないのですか?


飯嶋
:もちろん両立させていまして、膨らんだカーブの内側がデッドスペースということではありません。カーブの中に階段状にデバイスが敷き詰められています。

--機能とデザインの両立において、エンジニアとデザイナーの間でせめぎあいなどはありませんでしたか?


飯嶋
:スマートフォンはコンマ1ミリ以下のレベルで設計されていきますから、デザイナー自身もエンジニアリングの知識を持っているレベルでないと、エンジニアとやり取りできないほどの領域です。実際の現場では、エンジニアとデザイナーが融合し、アイデアを出し合いながら進めていきます。

矢部
:企画はその間に挟まれてやっています(笑)。家電など他のカテゴリーの製品に比べて、スマートフォンはサイズが小さいですし、また1台当たりの出荷台数が数百万と非常に多い。ですので、ちょっとカーブの曲面を変更することで割れにくくなるとか、そういった強度的なメリットも考えています。それこそ100台くらい試作モデルを解析して、デザイナーが欲しいカーブと強度的に強いカーブのせめぎあいなどはありましたね。

--歴代Xperiaのデザインはそれぞれ特徴的ですが、落しどころのポイントはありますか?


飯嶋
:デバイスの進化、例えば大画面化やカメラの進化など、その時々の最良の素材をデザインで包んでいくというスタンスです。

--そういったデバイスの進化は、ユーザーニーズの反映でしょうか。


矢部
:スマートフォンは誰もが所有しているものなので、人それぞれいろいろな利用環境があります。そういった中で、時にはご不満だったり、ご要望だったりというユーザーの声を吸い上げて、デバイスメーカーともども次世代の開発へと動いていきます。

--特に最近のカメラ機能などはボケ表現など、ソフト的な進化もありますね。


矢部
:そうですね。一概に言えるわけではないですが、少し前までは、デジカメやDAPなど、いろいろなカテゴリーの製品や機能がスマートフォンに集約していった流れだと思いますが、ここ数年のトレンドでいうと、カメラの画像処理など、スマートフォンならではの機能が育ちつつあります。


ディテールの追求とCMFの価値


--各社同じOS、同様のデバイスを組み込んでいく中で、スマートフォンでデザインの差別化を行うのは難しい作業だと思います。そういった中でも、先ほどの10年近い歴史からも、Xperiaはソニーらしさをきちんと実現されていると感じます。ブランディングをキープするポイントはなんでしょうか?

飯嶋
:テレビなども同様の歴史を歩んでいるのですが、今やテレビはほとんど画面だけ構成されていて、デザインする場所がないのではないかと思われるのですが、それでも、背面やスタンドなどで独自性は出せます。

スマートフォンもほとんど画面だけになって、辛いところはもちろんあるのですが(笑)、例えば「Loop Surface」の時代でしたら、初代ではアンテナなどの問題で全部を金属で包み込めず宿題になった部分を、XZ1では一体感のある継ぎ目のないデザインを実現しました。そういった、細やかともいえる部分を少しずつ進化させることに心血を注いでいます。

またXZ3のボディの3D曲面の光沢は非常に難しく例えば蛍光灯が映り込んでも美しい曲面に見える様なレベルで形状には非常に神経を使ってこだわっています。こういったポイントは試作、モックアップの段階からいくつも作って検証しています。

さらにCMFですね。カラーバリエーション、カラーマテリアルにも非常にこだわっています。 XZ3のボディの3Dガラスの裏面処理なのですが、カラーによっては4段階以上の表面処理を重ねて、金属感のある深みのあるパープルやレッドの色合いを出しています。重ねていくと予期せぬ色が出てしまうこともあるのですが、そういったところも一層一層細かくコントロールしています。例えばボルドーレッドの場合、はじめにシルバー入りの蒸着処理、次の層が色の入った蒸着処理、次はメタリックなしの赤、最後に金属塗装を入れた4層になっています。

矢部
:サンプルを作ってみないと完成品が見えないです。デザイナーと打ち合わせをして試作を作っても、いざ出来上がった物が想定と異なり試行錯誤をするなど、本当にできるのか不安でした(笑)。

飯嶋
:モックアップで色が出ても工場で再現できないなど、そういった難しさもあります。

--何百万台の量産製品ですから、均質性を保つのも難しそうですね。

矢部
:デザイナーさんはいつも工場にいました(笑)。

--ソニーのカラーリングは渋めというか、大人っぽいですよね。


飯嶋
:そうですね、その辺も他社にないバリュー感と独自性を狙っています。ただ今はこうですけれど、ニーズによって別のカラーリングを検討することもあると思います。

矢部
:カラーバリエーションは、ビジネス的な観点やマーケティングで、営業が「今この赤が流行っている」といっても、作ってから販売するまでの時間があるので、今売れているカラーのビジネス的な数字の理論とデザイナーのトレンドの話、それと技術的な話の中で決まっていきます。

--これまでのXperiaの歴史の中でエポックメイキングなモデルはありますか?


飯嶋
:例えばZ5では初めてすりガラスを使用、XZ1では全周全部金属など、すべてのシリーズにおいて、チャレンジングなことを行っています。

矢部
:ボディ素材にガラスを使うか、金属を使うかでだいぶ変わってきます。金属だと通信系の干渉の難しさをクリアするなど、課題はぞれぞれあります。

--ちなみにiPhoneの動向は意識されていますか?


飯嶋
:そうですね、iPhoneは見ないわけにもいきませんので(笑)。デザインのやり方、デバイスの収め方、カラーバリエーションなどは、やはり確認しています。


最新モデル「XZ3」のこだわり


--XZ3は有機ELディスプレイを初搭載ですが、それに伴い、デザイン的な進化はどういった点でしょうか。


飯嶋
:XZ2からの進化点として、デザイン言語は踏襲していますが、まずスクリーンが5.7インチから6インチになりました。スクリーンは大きくなりましたが、狭額縁を実現して、横幅はほとんど同じ、約1ミリプラスで、高さ方向も5ミリ伸びただけです。厚みは11.1ミリから9.9ミリにスリム化しました。これは、金属フレームの幅をこの半年で3ミリと非常に細くできたからです。ここに基板が入り、ディスプレイとバッテリーで金属フレームを挟む構造です。

矢部
:有機ELの特徴は画面を曲がられるということですが、XZ3では左右だけでなく上下も曲げて、より大きな有効画面を確保しています。

飯嶋
:あとはカラーですね。先ほども説明しましたが「Flow of Light」をキーワードに独自のカラーバリエーションを実現しています。4層塗装による、シルバーも感じられるホワイト、漆黒の艶やかなブラック、そしてフォレストグリーン、ボルドーレッド。中でも緑と赤はユニークなカラーにできたのではないかと我々も考えています。

--カラーリングでターゲットの年齢層は意識されていますか?


飯嶋
:特にフォレストグリーン、ボルドーレッドの色を気に入ってくださった方の指名買いが多いと聞きます。

矢部
:そうですね、スマートフォンはいろいろな世代の方にご利用いただいていますが、XZ3の場合は30代より上の世代の方のご予約が多いです。約2ヵ月前に海外で先行して発売しましたが、従来よりもカラー系の売れ行きが良くて、日本でも初速時点ではカラー系が人気です。

--スマートフォンは今では人にとって一番身近なデバイスですし、色味は個人の感性にかなり寄り添いますから、CMFはデザインのなかでもかなり重要なポイントになりますね。


飯嶋
:そうですね、他にも別の色の候補がありましたし、ユーザーの意見も地域によって違いますし、それを4つに収束させていくのは、特に商品企画は大変だと思います。

矢部
:過去のラインアップでは例えば「ゴールド」がありますが、その場合、中東とアジアとラテンで、言っているゴールドの色合いが違っていて、トゥルーゴールドとシャンパンゴールドとピュアゴールドと実はかなりニュアンスが異なります。「赤」も幅が広いので、さまざまな意見を吸い取りながら、ファッショントレンドなど世界のトレンドもリサーチしつつ、新色を決めていきます。ボディサイズによっても色味の印象が変わりますので、ボディサイズが決まるあたりから同時にカラーも決定していく流れですね。

--スマートフォンのデザイン要素として、先ほどの筐体のデザインは当然のこと、カラーによる差別化も重要度が増していますね。


飯嶋
:スマートフォンの表面処理は重要です。本体のプロダクトデザインはまだまだ改善の余地が続くと思っていますが、プラスアルファの要素として、カラーの比重は高まってきていると思います。

--マテリアルはいかがでしょう? 筐体の材料は金属、ガラス、樹脂などですが、他の素材を検討されたことはありますか?


飯嶋
:内部構造を含めての話になりますが、初期検討の段階ではいろいろ考えてはいます。カーボンなど候補に挙がりますが、現時点ではコストや電波透過性の問題など課題はあります。

矢部
:例えばXZ3の金属フレームの場合、アルミニウムではあるのですが、XZ2からXZ3になり、7000番代の中でも新開発のアルミを採用しています。それにより強度が上がり、先ほどのフレームをより細くすることを実現しています。

飯嶋
:デザインとエンジニアリングはほとんど融合しているのですが、少しでも材料の強度を上げることができると、外観に大きな変化をもたらすことができますので、進化できる「とっかかり」を常に探している感じです。

--今は表面処理やテクスチャーもデジタル処理などがありますが、そういった試みはいかがですか?


飯嶋
:CMFチームがコンピュテーショナルデザインなどによるテクスチャーや柄などもシミュレーションしていますが、スマートフォンは万人向けの製品ですので、あまりクセが出ない様に注意する必要もあります。もちろん決めつけてしまうと進化が止まりますが、ユーザーにこの柄はヘンだなと思われてしまう危険性はありますので、常に最新トレンドを把握しておく必要がありますね。

--スマートフォンは尖がった表現が難しい製品ですね。


飯嶋
:開発としては切り捨てているわけではなく、常に様々なサンプルを用意はしています。昔では振り向いてもらえないようなことが今では受け入れられることはよくありますから、時代が変われば使える表現や技術も多いと思います。それまで寝かせておきます(笑)。


Xperiaのデザインワークフロー

--では最後にXperiaのデザインワークフローをご説明ください。


飯嶋
:まず企画から新デザインの依頼を受け、エンジニアからはサイズや厚みの話を受けます。そこでデザイナーは手描きのスケッチから始めます。最初から3D CADでスケッチし始めるデザイナーもいますけれど、多くのデザイナーは簡易的な手描きから始めます。その後3Dでデータを作成します。

3Dデータができたら最初はざっくりFDMタイプの3Dプリンタでサイズ感などを確認します。それが確定したらカラーバリエーションの検討にも入り、試作モデルの精度を高めていく作業です。試作モデルは無数に作り、どれがどれだか分からなくなるくらいの微妙な差をみんなで詰めていきます。その修正のループは数ヵ月になることもあり、長い戦いです。デザインの上層部の承認の段階でも、かなり厳しいチェックがあります。

矢部
:XZ3はカーブの曲面によってハイライトの入り方が変わってきます。そこもかなり修正が大変だったと思います。

--そういったディテールのこだわりにメーカーの気持ちが現れますね。神は細部に宿ると言いますか。


飯嶋
:そういってもらえると嬉しいです。ある程度のところで妥協するメーカーさんもあるのかもしれませんが、気になるところは全部直さないと。そこは我々のこだわりの部分です。

--XZ3に関してそれぞれのお立場から最後に一言ずつお願いします。


飯嶋
:デザインチームとしては、美しさと持ちやすさを追求した形状とこだわりのカラーバリエーションですね。ボディに反射する光の艶やかな動きを楽しんでいただきたいと思います。

矢部
:企画担当としては有機ELとそのためのエンジンを入れてかなりきれいな映像を実現しています。そういう面でもデザイナーさんにお願いして、横に持った時に映画などが見やすいデバイスにできたと思います。圧倒的にきれいな動画や映画を楽しんでいただきたいですね。

--スマートフォンのユーザーは、機種の選定にそれほどこだわりがない人も少なくないかと思います。こういったメーカー、デザイナーのみなさんのこだわりや想いがもっと伝わればよいなと思います。ありがとうございました。



(2019年1月1日更新)


話を聞いたソニー、クリエイティブセンタースタジオ5NPデザインチーム1統括課長の飯嶋義宗氏


ソニーモバイルコミュニケーションズ商品企画課の矢部 椋氏

 

歴代のXperiaシリーズ


Xperiaの誕生から現在までの歩み



2008年の「Xmini」(左)とCyber-shot携帯の「S001」



2010年の「X10」。デザイン言語はHuman Curvature



2012年からのZシリーズ。デザイン言語は「Omni Balance」


2016年からの「Loop Surface」をテーマにした「XZシリーズ」


「XZ3」。2018年からは「Ambient Flow」をテーマに

 

XZ3の塗装とフレーム
硝子のボディの内側に4層コーティングが施されたXZ3のボディ



幅3ミリを実現したXZ3のフレーム



この3ミリのフレームを軸に基板たディスプレイ、バッテリーが実装される































































































































































































 




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