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イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第152回 六沼桃子/ジュエリーデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





現在は、株式会社ONE FIVEに所属し「h’eres」というファッションジュエリーブランドのデザイナー、プロダクトマネージャーとして、企画、デザイン、モデリング、生産管理までを担当しております。

私のデザインのインスピレーション、リファレンスとして、小説、詩、アンティークを用いることが多いのですが、今回は、主にアンティークとの結びつきについて書くことにします。

●ジュエリーとの出合い

まず、ジュエリーというものの種類として、クラシカルな価値観を含めると、その人の地位や家、所属を表すもの、記念品として、ファッションとして、さまざまなものがあります。現在私がブランドとして制作しているのは、限りなくファッションに近いもの。

どちらかというとアパレルのドメスティックブランドに並ぶような、オーセンティックな質とデザインを両立したものを目指し、ファッションを楽しむ人に向けて制作しています。

幼少期から絵を描いて、工作をして、内側に籠ってとにかく手を動かすことにばかり関心が向いていた私は、どこかファッションで輝くことに対して斜に構えていましたし、興味は薄かったように思います。

総合科の高校で美術を専攻し、桑沢デザイン研究所でデザインを学んでいましたが、その後、ジュエリーの修理業のスタッフとして働くタイミングがありました。

とにかく手を動かして内に篭れる仕事がないかと縋った先でしたが、その仕事の中でたくさんのジュエリーを見る機会に恵まれました。

ファインジュエリーからコスチュームジュエリー、作家もの、アンティークまで、さまざまなデザインとクオリティ、さまざまな素材が1日に何点も訪ねてくる機会は貴重なものでした。特にアンティークと素材、技術意匠に対する興味を増幅させる経験でしたし、ファッションに対する興味も変わった角度で湧いてきました。

その後の制作で、お客様の持ち込んだ古い修理品がインスピレーション、リファレンスになっている2点について紹介します

●象徴の自由のためのジュエリー

h’eresの23AWとしてリリースした、REVERSIBLE RINGは私の気に入っているデザインです。リングのフロント部分が回転する古いタイプのシグネットリングを資料に、プレートに動物のアイコン、その裏側にパターンを刻印したギミックリングです。

お客様の持ち込んだ修理品で、古い博物館のお土産なのか、ヒエログリフが刻印されたフロントが回転するリングがありました。これが全体のシェイプのリファレンスです。また、アンティークのもの、新しいブランドのもの、多くのシグネットリングもよく持ち込まれました。

しかし大抵は、もちろん伝統に沿って自分の家柄を表しているものを身につけているのではなく、不明な刻印が入ったものをアンティークショップで買ったものだったり、ブランドのロゴが刻印されたものでした。

ある意味で、自分の家や所属から解放された、ファッションの選択の自由さを感じました。コレクションでは「所属に縛られない自由な選択の時代になりましたが、結局、弱い私が一歩を踏み出すには、こころざしの象徴化、モチーフ化が必要なのだ」という思いから3対の動物のモチーフで表現しています。



▲「REVERSIBLE RING TYPE SWALLOW」表面の燕は、自由と旅人の象徴。(クリックで拡大)




▲「REVERSIBLE RING TYPE SWALLOW」裏面は波、風、花の紋様。(クリックで拡大)


▲h’eres 23AW COLLECTION LOOK。(クリックで拡大)


●プロダクト以上の深い世界観を

こちらもh’eresの24SSでリリースした商品群です。コレクションタイトルとして「Permanent With The Abyss Sea」(深淵の海とともに永久に)という小説のタイトルのような名前をつけています。

ある時、ジュエリーの修理で50代くらい女性が、子供の手作りのような、ビーズで作ったストラップを持ち込んだことがありました。決して安くはない修理代にも関わらず修復する理由として、東日本大震災の際の家族の遺品で、流された家の跡から見つかった数少ないものだそうです。

この経験から得ているのは、もちろんプロダクトの形そのものではなく、ジュエリーの持つ装飾品以上の意味合いの部分です。このような経験と、私自身の幼少期の海に関する記憶が混じり合って、このコレクションでは「海に関連した連続性」というイメージで制作をしました。

連なる鯨の背骨、連続する波と鱗模様、ウロボロスと水引。さまざまモチーフと詩的な文章表現と組み合わせて、今までになく感情的な表現をしています。このコレクション付近から、LOOKや付随した文章表現にも関わらせていただき、プロダクト以上に深い世界観の構築ができないかと模索し始めています。


▲「OUROBOROS SIGNET RING」ウロボロスと水引。(クリックで拡大)




▲「UROCO TWO FINGER RING」うねる波。(クリックで拡大)


▲「CETACEA BONE BRACELET」クジラの背骨。(クリックで拡大)



▲h’eres "Permanent With The Abyss Sea” COLLECTION LOOK。(クリックで拡大)







ファッションの潮流はあまりにも早いですが、古いものと新しいものが、流れの中で出会う瞬間があります。私はその瞬間のために、どちらかというと古いものを信じながら、上質と基本的なデザインを持って、ファッションに立ち向かうしかないと思っています。

また、アパレル業界に対してはあまりに弱々しい、詩的な表現と、海の向こうへ流されていってしまった子のことをずっと忘れないことです。



六沼桃子(Momoko Rokunuma):1998年生まれ。東京都出身。桑沢デザイン研究所にてデザインを学び、途中、ジュエリーの修理スタッフに。職人の師事の上、現在は株式会社ONE FIVE に所属し、ファッションジュエリーブランド「h’eres」のデザインから制作、生産管理を担当。




2025年1月15日更新。次回はEdward WooHyun Chungさんの予定です。

 


 


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