pdweb
無題ドキュメント スペシャル
インタビュー
コラム
レビュー
事例
テクニック
ニュース

無題ドキュメント データ/リンク
編集後記
お問い合わせ

旧pdweb

ProCameraman.jp

ご利用について
広告掲載のご案内
プライバシーについて
会社概要

コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第150回 立岩那奈/プロダクトデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●得意だと思うことの積み重ねで

今回コラムの話をいただき、まさか自分にそんな話が来ると思っていなかったので恐れ多いという気持ちでしたが、改めて自分のことをじっくり考えられる良い機会だと思って書いています。

デザイナーになるきっかけを聞かれると「何かを見て衝撃を受けたから」なんてことはなく、あまり面白みがないのですが少しだけお話しします。

母がグラフィックデザイナー、父が建築関係の仕事をしていたため、堅苦しさのない自由な家庭環境で育ってきました。サッカー、水泳、テニス、ピアノ、サックスなど、とにかくさまざまな習い事に通わせてもらい、中でもサッカーは小1から高3までやっていました。昔から勉強よりも運動や美術など、とにかく手や身体を動かすことの方が得意で、そういう得意だと思うことの積み重ねがこの道を選ぶきっかけにつながっていったのだと思います。

デザインを意識してものに触れるようになったのは桑沢デザイン研究所に入学してからで、それからはデザインとはなんなのか、目には入っていたはずなのに見ていなかった視点に気づき、見るものすべてに対する思考が大きく変わりました。でも恥ずかしながら、ものづくりに面白さや魅力を感じ、真剣に向き合えるようになったのは学校を卒業し実務に携わるようになってからだと思います。

専門卒業後は、イトウケンジさんと海野貴大さんのデザインユニットMUTEに加わり、現在はイトウさんが運営するデザイン事務所KIDのスタッフとして活動しています。

プロダクト専攻でしたのでプロダクトを担当することもありますが、事務所の仕事内容としてはディレクション業務の他、グラフィックデザインの仕事も多くあるので、イトウさんと一緒にプロダクトを考える傍ら、プロダクトまわりのグラフィックも多く担当しています。

事務所に勤めてもうすぐ5年が経ちますが、今思うとあっという間の時間で、目まぐるしく変わっていく身の回りの環境や仕事とともに、自分の考え方やものの捉え方もさらに変わってきたと思います。

●MOHEIM「SOF」

勤めて1年が経とうとしていた頃に初めて手がけたプロダクトです。それまでにもさまざまなプロジェクトに携わってきていたので、ある程度は理解できていると思っていたのですが、実際に開発を進めていく中で改めて部材の取り都合であったり、量産でできること/できないことなど、ものができるまでの過程でデザイナーが関わり考える必要があることを多く学びました。

開発の内容から、ある程度の形が決まったらモックアップを作って確認、改良して作り直してを何度も行い、提案が通ってからも実際に量産するための地道な調整を工場とともに繰り返し行います。当たり前のことですが、プロダクトができるまでに掛かる時間と労力を改めて実感しました。


▲MOHEIM SOF card case。(クリックで拡大)




▲1枚の革を折りたたんで、硬質パルプとゴム紐、最小限の縫製でできたカードケース。(クリックで拡大)






▲MOHEIM SOF utility case。(クリックで拡大)




▲1枚の革を折りたたんで、硬質パルプとゴム紐、最小限の縫製でできたユーティリティケース。(クリックで拡大)




●日本コパック株式会社「KIT」

業務用什器を主に製作している日本コパック株式会社が運営する「KIT」という家具ブランドです。

パイプをネジで固定するシンプルでアナログなジョイントシステムにより、コンパクトな収納性、組み立てやすさ、そして高い拡張性を実現しています。

ただ目新しい家具をつくるのではなく、クライアントの性質に合ったプロダクトを考えることで、その会社ならではの強みが生まれ、商品化以降も寿命の長いプロジェクトになっていくのだと考えています。

このプロジェクトではプロダクトももちろんですが、私は主にロゴやカタログなどグラフィックのデザインを担当しています。プロダクトは実際に使うまでその良し悪しを判断することは難しいですが、商品の見せ方、伝え方次第で、まずはそのプロダクトを知ってもらい実際に手に取ってもらうための入り口をつくることはできると思っています。決して誇張するのではなく、商品の魅力を素直に伝えることができる方法を模索しながら取り組んでいます



▲環境や目的に合わせてアイテムを選べます。(クリックで拡大)




▲発注時のサイズの調節や色変更など、少量生産だからこそ対応できる仕組みを取り入れています。(クリックで拡大)


▲(クリックで拡大)


●株式会社蒼島「AJI PROJECT」「READY MADE」「OMORI」

「AJI PROJECT」はイトウさんが10年前に関わっていたプロジェクトでしたが、ブランドの立て直しの依頼を受け3年前から改めてブランディングに取り組んでいます。

庵治石は、香川県高松市で採石される石で、石材業界では日本一高級な石と言われることもあります。目が細かく耐候性も高い石材で硬質なため、加工にも高い技術が必要です。NC切削などの加工環境はなくほとんど彫刻の域です。そのため、素材としての価格も高く、加工費用も高くなってしまうので日用品に置き換えようと思うと、用途と価格のバランスが取りにくく、プロダクトに用いるには、とても難しい素材だと感じました。石という素材に新たな役割や意味を与える方法を模索し始まったのが「READY MADE」と「OMORI」というプロジェクトです。

「READY MADE」は、産地の工場を周り、本来であれば捨ててしまう端材をコレクションし、展示、販売を行っています。製作工程で出る端材で偶然できた形状なのですが、そうとは思えない興味深い佇まいの物が多くあります。素材と形だけに向き合う時間が純粋な自分の価値観を知る機会になり、知識がなくても誰でも楽しむことができます。

「OMORI」は、2024年11月に発表される新たなプロジェクトで、国内外10名のデザイナーと製品を開発しています。ここでは、製品を作ろうと意気込んで素材を利用するのではなく、素材の原始的な性質に向き合って、その性質を活かしたり、そこからインスピレーションを得ながら素材に役割を与えるという意識で開発を進めています(11月13日~16日に(PLACE) by methodにて展示会開催)。


▲AJI PROJECT。(クリックで拡大)




▲READY MADE。(クリックで拡大)


▲OMORI (graphic by Mina Tabei)。(クリックで拡大)

単純に考えれば、自分が素直に欲しい、いいなと思えるもの、視野を広く持ち柔軟に考える、もう少し自信をもって苦手意識を持たないように、などいくらでも意識していることはありますが、今まで関わってきたプロジェクトを経て、ものができるまでの時間と労力、クライアント、素材や加工など、どれも必要不可欠で一方的にはできないのがデザインだなと思っています。

だからと言って与えられた制約にただ合わせて考えるのではなく、クライアントをより良い方向に導けるように視野を広く持ち、能動的に考え、素直に課題に向き合っていきたいと思っています。

 


立岩那奈(Nana Tateiwa):1998年生まれ。桑沢デザイン研究所でプロダクトデザインを学んだのち、2019年にMUTEに参加、2024年よりKID(Kenji Ito Design)デザイナー。日用品や工芸品などのプロダクトデザインおよび商品カタログやパッケージなどのグラフィックデザインを担当している。
Instagram:@nn_tate


2024年11月6日更新。次回は柴崎蓮さんの予定です。

 


 


Copyright (c)2007 colors ltd. All rights reserved