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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第149回 新宮夏樹/プロダクトデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





日用品を主軸に、ジュエリーやオブジェクト、家具、書籍など、領域を問わずに設計業務を行っています。拠点は関西ですが、全国各地のメーカーさんや職人さんのもとを訪ね歩く日々です。

●しごと

今回このコラム執筆のお話をいただき「どんなおもしろいことを書いてやろうか」と頭を捻らせていましたが、自分の仕事を整理すると、日々大切にしたいと考えていることって、特に斬新なことでも、独自性の際立ったことでもないな、というのが正直なところです。地味な内容になりますが、予めご了承ください。

自分自身、設計・デザインするにあたって大切にしたいと日々意識していることは、大きく3つあります。

(1)現場、案件ごとに学び、感じる「すごい」「たのしい」「きれい」のような単純で純粋な興味関心に嘘をつかず、素直でいること。
(2)つくってもらう人や協力してくれる人、依頼してくださった人の持つ「技」や「良さ」がきちんと活きる設計をすること。
(3)気持ちよくプロジェクトが進行できるように、心地よいコミュニケーションやきっちりした図面作成、プロトタイプを丁寧に作るなど、自分の仕事を責任を持って「ちゃんとする」こと。

どれも基本の「き」のようなことかと思いますが、クライアントワークにしろ、セルフプロジェクトにしろ、これらを常に意識して仕事をしています。このような基本が、最終的なプロダクトの「おさまり」のクオリティに反映されるんだと、信じています。


▲音響ブランド listudeと作成した「音を聴く」ためのノートブック。(クリックで拡大)




▲大阪中之島美術館「モネ 連作の情景展」にあわせて、モネの絶妙な色づくりを試行した靴下。Ph:Mai Murakawa。(クリックで拡大)



●自分のプロジェクト

ありがたいことに日々多種多様な仕事をさせていただいていますが、アシスタントをつとめたプロダクトデザイナー吉行良平さんに散々言われたことは「自分のプロジェクトを持つ」こと。

2024年3月に発表したセルフプロジェクト第一弾「eda」は、大阪府和泉市で色ガラス棒材を製造する、佐竹ガラスさんをリサーチしたプロジェクトです。

バーナーワークというガラス技法に欠かせない軟質の色ガラス棒材を昭和2年から製造している佐竹さん。シンプルなφ6~7mm程度のガラス棒材。機械から自動的にざーっと出てくるのかなと勝手に想像していたのですが、その製法は、私の想像とは大きく異なり、すべてが人の手によって作られているものでした。

佐竹さんでは、その棒材を使用して、伝統工芸品のとんぼ玉や、小さなガラスの置物なども製造されているのですが、棒材の製造風景を拝見した時の興奮をどうしても忘れられず、棒材を一度分割し、再度つなぎ合わせるというシンプルな工程で意匠を設計し、木の枝のような個性のあるプロダクトとして発表しました。


▲セルフプロジェクト「eda」。(クリックで拡大)




▲セルフプロジェクト「eda」。(クリックで拡大)


▲棒材の製造風景。約15mの耐火板に、ガラスの塊をスッーと垂らしてφ6~7mmの棒材が作られる。(クリックで拡大)


決して量産には向きませんし、お金に変わる仕事ではありませんが(むしろ赤字ですが)、イタリアの巨匠たちが言うように「project = 前に投影する」という思考のもと、大切な仕事だと考えて、これからも継続していきたいと考えています。

また、プロジェクトの「おさめかた」についても、プロダクトに昇華する以外に、「本」「展示」「オープンソース」などといった、プロジェクトごとに適正なアウトプットを見極めて、第2弾、第3弾と展開していきたいと考えています。

●生活する仕事

「仕事とプライベートをきっちり分けたい」という思想をよく拝見しますが、職業柄もあるのか、僕は今までそのような気持ちを抱いたことがありません。

例えば、月が明るい日の空の紺色に、数ある紺色の中で一番好きだなと思ったり、食卓では、いぶりがっこの断面パターンがこんなにも愛らしいものかと知ったり。より分かりやすい例でいくと、家事の中では皿洗いが一番好きなのですが、指が高台に引っかかる感じを確認したり、素材によって異なる重量を感じたり、毎度勉強になるな、と思います。

日々散歩したり、電車に乗ったり、映画を見たり、酒を飲んだり、たまに徹夜をしたりしながら、自分を含めたさまざまな人の、現在や未来の居心地の良さに頭と心をめぐらせて、これからも自分の仕事に真摯に向き合っていきたいと思います。


▲紺色。(クリックで拡大)







 

 


新宮夏樹(Natsuki Shingu):京都造形芸術大学空間演出デザイン学科卒業後、生活雑貨メーカーにてデザイナーとして勤務。2022年に退職後、製材所(Finland)、Gabriel Tan Studio(Portugal)での短期研修を経て、フリーランス。2019年から継続して、プロダクトデザイン事務所 吉行良平と仕事/Oy プロジェクトアシスタント。
https://shingu-natsuki.com/


2024年10月4日更新。次回はタテイワナナさんの予定です。

 


 


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