リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第148回 代田遥紀/ファッションデザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
今までファッションデザインを学んで主に服作りをしてきましたが、最近はさまざまなデザインの仕事に参加したいと動き出しているところです。ここでは自己紹介を含め、自身を振り返るような気持ちで書かせていただきます。より多くの分野の方々との出会いのきっかけになれば嬉しいなと思います!。
●螺階の現時点
幼い頃から漠然とデザイナーを目指していた私は、高校を選択する時プロダクトなのか、建築なのか、ファッションなのかという学科の壁にぶち当たりました。その時一番熱が高かった服飾デザイン科に進学して、続いてパリの学校を卒業して今に至るまで、ずっとファッションの勉強をしてきたわけです。
名の通った大きなメゾンの専門職で働くことだけが、自分にとって素晴らしいように思えていたのですが、パリでの卒業コレクションをきっかけに、インターンやパリコレクションの現場で経験させていただく中で、自分の中の価値観や目標みたいなものも徐々に変化してきました。
はっきり言えば、ファッションの働き方に価値を見出せなくなっていました。そしてファッションを、服を、作らなければという謎の呪縛から解放され、別のものづくりやデザインに挑戦してみると、今度は改めて服を作る面白さが分かってきました。そこからまた別のアイデアを実現してみたい気持ちも生まれてきました。皆さんもご経験があるかもしれませんが、元いたところに戻ってしまったようで螺旋のように立体的にみればまったく違ったところにきているというような感じで、これからもぐるぐるしながら進んでいくと思います。
現時点での私は、デザイナーがどんな人間かは、そのデザインから透けて見えるものだと感じています。だから、地球やビジネスを考えることは前提として、より自分自身を深めることや世の中の大きな流れよりも、素直に自分にとって面白くて納得できるかに集中してみたいと考えています。そこから生まれてくる人間味のあるデザインには意味があると感じていて、何を作るにしても狭くて奥深いところを目指すのがやっぱり自分にはかっこよく見えています。
●ノマディズム <nomadism>
話は戻りますが、東京でプレタポルテ(既製服)の基礎的なことを学んでいくうちに、職人的な仕事やものづくりに興味が湧いて、クチュール科があるパリ校に留学してみました。パリではファッションウィーク期間以外で、東京ほど分かりやすく個性的で刺激的なファッションは見つけられなかったけど(個人の感想です)、生活の中でホームレスを含めそれぞれの生活感や着こなしで生まれる"こなれ感"の美学が少しだけ分かってきたときにやっと面白くなってきました。と同時に、伝統的で優雅な素材をふんだんに使うスタイルのクチュールというのは自分の肌身に合わないなと感じ、その悩みの中で製作したのがここでお話しするパリでの卒業コレクションです。
このコレクションでは「Nomade Flottant=浮遊牧民」をテーマに、移動性や浮遊感、あえてアクティブな服装スタイルやボリューム、機能性のディテールに着目しました。
それらの本来の目的に固執せず、ビジュアル的なデザインとして取り入れるという一種の機能性の無駄遣い的な意味でも非日常を表現したかった作品で、ノマディズム(非定住的、非定型的などの意)の精神に興味を持つきっかけの作品です。ムードは水中や水泳が大きなキーワードで、透明感や色彩では「ウミウシ」という数多くの種が存在し海を漂う小さな生き物たちからインスピレーションをもらいました。
素材に関しても、ニットや水着で用いられるようなストレッチ素材、クレープウールなど弾力があってとろりとした生地選びを徹底し、また、硬い骨組みに頼らず、生地の加工や、着た時にスポンジの弾力で身体から離れたボリュームを成立させています。
Look1:Gilet de sauvetage(ライフジャケット)、Maillot de bain en laine(ウールレオタード)
Look2:Robe sac ? dos(リュックドレス)
Look3:Anorak parachute(パラシュートアノラック)、Robe filet(ネット編みドレス)
Look4:Pantalon de ski(スキーパンツ)、Maillot de corp(ボディスーツ)、Soutien-gorge en verre(ガラスブラ)
Look5:Manteau sac de couchage(スリーピングバックコート)。(クリックで拡大)
Ph:Issei Suzuki
●-ified
私の実家はスプレーマム(スプレー菊)農家なので、大きなビニールハウスの中で家族が働く姿が印象的で、漠然と私の作品も花を育てるようにビニールハウスの中で展示していったらどうかななんて考えがありました。
少し前に、友人たちとhouse in da houseという音楽を含めた展示のイベントを企画したことがあり、実験的にですが少しだけハウスの会場が実現しました。実家で使われなくなって放置されていたハウスの骨組みを利用して、透け感のある布地でハウスを包み、スプレーマムのビニールハウスが立ち並ぶ中、ビニールハウス型の会場を作りました。
今回は田舎で野外ということもあり、仮設的な会場だったのですが、これから移動式にするなどブラッシュアップさせたいなと考えたりしています。また、新聞に取り上げていただき、意図せず地域の方々に共感して楽しんでいただけたことにも驚いて、とても勉強になりました。
▲「house in da house」。生地で包んだ会場。Ph:Asuka Yazawa。(クリックで拡大)
このようなことのきっかけは、また別の作品製作からのアイデアでした。
現在私がモデリストとして働かせていただいているBLESSは、インターンからお世話になっています。働き方やその精神など含め、いろいろな意味で大好きでとても尊敬しているブランドの1つなのですが、あるプロジェクトで、Dysonのレザー化を担当したことがありました。以前にも掃除機や箒、スプレーボトルやペットボトルなどさまざまなものをジーンズ化してきましたが、Dysonをレザーで包むというのはパーツのパターン作りから複雑でとてもやりがいがありました。
身体の形に合わせたものを作ることは服作りの基礎であり、より正確なボリューム作りには大事な技術だという考えもあったので、包むことや既存の形を模倣することは興味深いです。さらにカモフラージュや擬態といった、何かになりすます、乗っ取るなどアイデアが膨らみ、このように景色に溶け込む大きなものを包んでみよう! と挑戦したのでした。今後も私の中でキーワードになっていきそうです。
▲「BLESS N°78」。(クリックで拡大)
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▲「Leatherified Dyson」。(クリックで拡大)
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●manda mandala
現在進行中のプロジェクトでは「manda」というバンドの自主企画に向けて、チームで曼荼羅をデザインし、ライブ用背景美術としてタペストリーを製作しています。現在未完成、未発表なので写真はその過程になります。
曼荼羅とは簡単に説明すれば、円形の幾何学模様のことで、本来は仏教の中でも特に密教の世界観を図で表現したものを指し、その種類はさまざま存在しています。宗教や文化などの考古学的な歴史を調べるのが趣味なので、このリサーチは沼でした。
私たちは特に日本において有名な金剛界、胎蔵界曼荼羅の世界観から、シンプルに「中心から外側へのの字に広がる」意味合いを取り上げ、また宇宙や星の動き、メンバー3人の波紋が重なっていくイメージと合わせてマンダラのデザインにしていきました。
サンスクリット語でmanda=本質、心髄、醍醐(発酵の最上級)を意味すること、彼らの複雑で没入的な音楽のイメージからもヒントを得て、多くの生地を縫い合わせ1つにしながら模様を作りだすパッチワークを選択しました。デッドストック生地や古着、友人やさまざまなところからも生地の端切をかき集めながら製作しています。
さらにキルトにすることで凹凸の陰影を作り出し、ライブ照明を意識して、インドなどで伝統的な"ミラー刺繍"のように反射を施す予定です。また、実はこのマンダラタペストリーは、100枚分の7インチレコードケースになっていて、その後パーツごとにナンバリングし、mandaのレコードと合わせて100枚限定で販売を予定しています。
私は彼らの大ファンであり、尊敬する友人であり、このようにインスピレーションを受けている存在でもあります。彼らはまだ活動を始めたばかりですが、本当にかっこいい音楽を鳴らしているので、ぜひそちらもチェックしてみてください。
▲自宅にて。mandalaイラストと実寸製図。Ph:Asuka Yazawa。(クリックで拡大)
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▲生地とサンプル。Ph:Asuka Yazawa。(クリックで拡大) |
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代田遥紀(Haruki Shirota):デザイナー、モデリスト。1999年生まれ。ESMOD東京校、2022年パリ校Nouvelle couture学科卒業。2022年~BLESS parisインターンを経てモデリストを勤めつつ、フリーランス。Yamvicoに所属し活動中。
Instagram : @369_chocolat
2024年9月5日更新。次回は新宮夏樹さんの予定です。
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