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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第143回 藤咲 潤/デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●居心地

どこ出身ですか? という質問にいつもぱっと答えられない。生まれはアメリカだが4歳の時に日本に戻ってきたのでアメリカでの記憶は少ない。その後も親の仕事の都合で外国に移り住んだ。生まれ育った場所が散らばっていてどこか特定の地元や故郷と呼べる場所がない。慣れ親しんだ街や環境は生活に安心感を与える土台になると思う。自分にはその土台がない分、昔から自分の周りの空間の居心地にこだわりをもっていたと感じる。良いインテリアを揃えたいというよりは、どれくらい物に囲まれて安心感があるか、それと同時に外の世界とのつながりも感じられるか、どんな気分にも順応できるレイアウトかなどのバランスを大切にしていたと思う。

2020年に勤めていた建築設計事務所を退職した。コロナウイルスが猛威を振るい始めるのと同時に自分は部屋にこもってフリーランスのデザイナーとして活動を始めた。建築現場で働く職人を見て自分の手で物を作れる人がやっぱり尊いと思ったことが独立のきっかけであった。まずはできることからと思い「Ball」という屋号で家具や什器のデザイン、製作活動を開始した。

部屋の模様替えをすると、同じ部屋なのに新しい居心地にワクワクする感じがとても好きだ。自分でより自由に居心地の良い空間を演出できる家具を提供したいと思い、上下左右前後と向きを変えて使用できる家具シリーズを発表した。

SNSが普及してから個人の表現や経済活動がより自由になってきたが、個人の居場所の獲得自由度はそれほど高くなかった思う。同じような間取りのクリーニングされた部屋に引っ越し、量販店で必要な家具を手早く入手し多くの人が同じような空間に身を置いている。しかしコロナ禍を経てようやく自分の心地の良い空間を作ることへの関心が高まってきたように感じる。多様な表現が可能な現代において、自分の居場所を創造することも表現であり、身体的にも精神的にも自身を守る場所をつくる役割でもあると考えている



2020年に発表したTime MachineシリーズのTM1。(クリックでGIF動画)





同シリーズのTM2。(クリックででGIF動画)




同シリーズのTM3。(クリックででGIF動画)







2023年に発表したSpecial EffectsシリーズのSFX1。(クリックでGIF動画)





同シリーズのSFX2。(クリックでGIF動画)




同シリーズのSFX3。(クリックでGIF動画)




●共感

建築業界という畑から出て家具を作り始めてから、インテリアやプロダクトデザインの奥深さをより知りはじめた。そうするうちに自分独自の作品を作らなければいけないという思いが生まれてきた。東京でフリーランスとして3年間活動したが、また新しい環境に身を置き自分自身を見つめ直して作品に反映したいと考え、昨年の9月からオランダの大学院に留学をしている。

日本で生活していた時とは違い、海外の公共施設や交通機関を使っていると、共通の文化や言語がない人と同じ空間を共有することがある。そんな時でも思いやりの優しさや笑顔などの表情でコミュニケーションをとれる瞬間がある。海外にいるとそんな些細な気持ちの共有ができると嬉しくなることが多い。綺麗事かもしれないが世界ではいまだに価値観の違いからいろいろな争いが続いているが、このような瞬間を体験すると少しだけ希望を感じる。

そんなことから今は言語や文化の違いを超えられるような、本質的に共感できるものを自分の作品に加えることができないかと漠然と考えるようになった。優しさ、ユーモア、綺麗な物、音、ノスタルジー、はたまた孤独。バックグラウンドの違う人と共感できるものに出会うたびにメモを取るようにしている。

このコラムを書いていて昔に買った『地球家族』という写真集を思い出した。報道写真家のピーター・メンツェルとジャーナリストのフェイス・ダルージオが共同で制作した写真集で、世界中の中流階級と呼ばれる家庭で1週間共同生活をした後に、その家の中の物をすべて外に持ち出してカメラに収め紹介した作品である。外に並ぶ家財道具を見るだけで世界にはこれほどに多様な普通の暮らしがあるのかと驚かされる。ただ一番強く印象に残っているのは外に佇む家具類によって生まれた空間である。天井も壁もないがそこには各家庭の暮らしが滲み出ており、家具自体がもつ居場所を作る力が解き放たれているように感じた。

建築とは違い地面に固定されない家具にとても自由を感じる。そんな自由さと居場所を与える力をもちながらもいろんな暮らしと共感できるそんな未知の造形を探っていきたい




藤咲 潤(Jun Fujisaku)慶應義塾大学政策メディア研究科修了後、建築設計事務所に勤務。2020年から自身の家具ブランドBallを開始。2023年9月からオランダ・アイントホーフェンのDesign Academy Eindhoven Master Contextual Designプログラムに入学。居心地をつくる新しい造形を模索している
Instagram:@junfujisaku
Instagram:@ball_furniture




2024年4月5日更新。次回はstudio TRUE松岡大雅さんの予定です



 


 


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