リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第140回 廣門晴人/デザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
初めまして。廣門晴人と申します。東京を拠点に空間や家具に関わる仕事をしています。大学時代によく慕っていた先輩から本コラムのお話をいただき、多少恐れながらも、未熟なりに前向きに書き記します。
●憧れとコンプレックスから
順風満帆なキャリア形成とは言えませんが、直感と感性を足がかりに進んできました。今関わらせていただいているすべての仕事の契機なったのは、建築を志したことにあります。
京都市内の片田舎にある実家は、4人家族には窮屈な住宅でした。自転車で片道40分の高校に通う日々の中で、豪勢な住宅を見つけては部活終わりに寄り道してダイニングから漏れる光を眺めるような3年間を過ごしました。自分が経験し得なかった風景に対する強い憧れから、生活に対する漠然とした理想を抱き、大阪の大学の建築学科に進学しました。
大学では住宅設計の名手である建築家に教わりながら、同時に家具の工場で修行し、木工を中心とした家具の制作を学びました。大学を卒業後は、上京してインスタレーション作家のアシスタントを半年間しながら関西と東京に小さな依頼をいくつか受け持ち、そのまま東京を拠点になんとか3年が経過しました。家具や什器の依頼から、店舗のリノベーション、展示空間や映像背景の美術製作などが主な活動分野です。
企業に属した経験もなければ、何年も修行をしたわけでもありません。時期尚早に独立を経験したことにより、なんでもやってみる精神が関係を育て、さまざまな活動を継続できています。
●作ることが楽しい
世田谷区若林にオープンした服飾店舗のプロジェクトについてお話します。2区画あった事務所物件の間仕切り壁を解体し、大きく広がった空間を、可動式の什器で構成した店舗です。
クライアントを含む関係者とともに解体を行うことで、不完全さを持った各部分に対して、半透明な建材を用い、荒々しさを積極的に許容することで全体性を生み出しています。石膏ボードにあったカビや剥がしきれなかったクロス、面倒で取り外すことを諦めた非常灯など、本来はふかし壁と言われる手法を用いて覆い隠してしまうそれらを空間のひとつの要素として許容することの連続でできている空間です。
このような進め方は、解体屋さんに指示書を出し、実測して施工図を描き、大工さんに丁寧に作ってもらうことでは叶いません。この場所でこれから長い時間を過ごすスタッフの方たちが施工の一部始終に参加し、壊すように作っていくことで傷すらも愛おしく思えてくるのです。
このプロジェクトで行ったことはある一定の簡潔したフローの中でプロとして関わるだけでは到達しなかったように思います。リノベーションを手段ではなく行為と捉え、クライアントや周辺の人物を巻き込み、変容の軌跡を心身をもって経験することで身体感覚に馴染んでいく。それらの行為や裏付けは共感を生む材料になり、時間をかけ、周縁の人々に波及していきます。
。
▲床はタイルカーペットを剥がし、残った接着剤を飲み込むように塗膜を張って仕上げ、カウンターは素地とし汚れていくことも許容する仕掛けとしている。(クリックで拡大)
|
|
▲モルタルで囲われた鉄骨柱は途中まで解体。ボロボロの石膏ボード壁も半透明の波板を重ねることで風化を表現する要素になる。(クリックで拡大)
|
|
▲解体して現れたコンクリートブロックに距離を取りながらモザイクシートを垂らすことで荒々しさを調整している。(クリックで拡大)
|
●楽しさから脱する
前段で作ることの楽しさやその波及性について触れましたが、ここではある意味で矛盾した思考についても述べておきたいと思います。
1970年代にホームセンターが日本に誕生して以来、DIYという概念が一般化し、今ではSNSなどのHow To動画を参考にして、誰もが簡単にモノづくりが行えるようになりました。IKEAで購入した家具を組み立てるのが好きというのはよく聞く話だと思います。作ることの楽しさを誰しもが享受できる時代になりました。
ですが遊びの一般化が本能としての遊びを見失わされる現象を私たちはこれまで多く見てきているはずです。大衆化し、効率性のみが重要視されるようになってしまっては、本能を駆り立てる遊びには到達できません。だからこそ、私自身が作ることの楽しさからいかに逃れ、作品が自律的に振る舞うかということを意識しながら制作をしています。
ものを生み出すことは楽しくない遊びであると言えます。それくらいのアンビバレンスを持った作品の方が結果的に本来の楽しさを表現できるはずです。この辺りの感覚はこれから作品を通して表現できるといいなと思っています。
▲上野の駅直結の商業スペースで制作したパブリックアート。船を模した構造体に腰掛ける人々により完成する。(クリックで拡大)
|
|
▲花を販売するポップアップにて制作した什器。生花を採取するように手に取り購入できる仕掛けを川が店舗全体を流れる形式で表現した。(クリックで拡大)
|
|
▲京都の美容室に納品したディスプレイ家具。店舗名の由来であるVioletとBlueを素材の特性と構造で表現した。(クリックで拡大)
|
●最後に
大学の卒業制作で発表したのは、人が争えない災害に対して人間活動を続けるための勇敢な建築でした。社会に出てからの4年間はあらゆる常識が変容していったように思います。価値と手段に溢れ、ドラマティックに物事が更新されていく現代にこそ、論理の内外を行き来しながら人間的で勇敢な空間体験を求め、デザインとクラフトを続けていきたいと思っています。
廣門晴人(Hirokado Haruto):クラフツマン/デザイナー。1997年京都市生まれ。建築学科を卒業後、graf labo , 作家のアシスタントを経て、2021年よりフリーランスとして八王子のシェア工房“スタジオ発光体“を拠点に活動。建築のバックグラウンドを持ち、木工を中心とした制作を主軸に、店舗内装や什器,特注家具などのデザインだけに留まらず、展示設営や内装施工、アートプロジェクトのインストールなど幅広い分野でデザインと制作を横断したプロジェクトに携わっている。
2024年1月10日更新。次回は大澤さな子さんの予定です。
|