リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第132回 石上諒一/プロダクトデザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
●作り手から始まったものづくりの思考
大学を卒業して勤めた先は、京都で代々竹茶道具を製造する竹工メーカー。京都には竹にまつわる産業が数多く残っており、筍から始まり、寺社仏閣の竹垣、そして茶道具と、当時22歳の私がまったく触れてこなかった「素材と文化」だった。
下積みの3年間は企画やデザインの配属ではなく、茶道具に関する箱物製作の指物職人として自社の製品や、加工方法を1から学んだ。ある程度経験を積むと自ら商品企画をし、試作、製造することが増えていった。
作り手として製品を作る中で、素材のみならず加工の特性や効率性を学んだことは、独立した現在に生きている。素材特性を活かしながら、製造効率は良いか? 無理のない加工方法か? など、自身に問い掛けるようになった。
●蓄積から新たなアウトプットへ
独立後、少し特殊でもあった竹素材を扱う依頼をもらうようになった。竹は肉厚10ミリ程の筒形状で、繊維が縦方向に真っ直ぐ伸びており曲げに強い素材である。限られた肉厚の中で形状を考えることはとても楽しいものだった。
代表的なものとして、京都で開催されたイルミネーションイベントにて竹製のパビリオン「wave」を製作した。「竹が躍動する曲線の優美さ」をテーマに、湾曲するフレーム材へ等間隔に竹を配置し、躍動的な演出を行った。陽の光により黄金色に反射する美しい竹肌や、夜には格子から漏れる色とりどり街の明かりが楽しめるオブジェとなった。
▲「wave」 Ph:Yoshiyuki Imazawa。(クリックで拡大)
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▲「wave」detail1 Ph:Yoshiyuki Imazawa。(クリックで拡大)
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▲「wave」detail2 Ph:Yoshiyuki Imazawa。(クリックで拡大)
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●ユニットによって広がる素材と思考
メーカーに勤めていた2017年頃から、大学同期だった大津寄信二と自主制作を行い、展示会で発表する機会が何度かあった。その流れから2人の間でユニットで独立する話となった。大津寄とは、彼が他の美大へ編入するまでの約1年間という短い付き合いだったが、趣味嗜好が程よく合い、大学卒業前後もたびたび制作を共同で行う仲だった。
2021年より京都市内を拠点に、「PUBLIC SERVICE」を開業した。当時大津寄は東京でアウトドア・ドリンクウェアの企画開発を行っており、金属や樹脂素材による金型整形品の設計を手がけていたので、同業でありながらもまったく異なる素材の知識を持っていた。
実際自分だけでは受けることのなかった依頼がユニットによって可能となり、今まで触れてこなかった素材や製造技術を扱う機会が増えた。私にとっては新しいものづくりに出会う大きな機会ができたと考える。
このユニットは依頼に合わせメインとサブが入れ替わるという珍しい形態であるが、お互いの思考やプロセスを共有しながらサポートしあえば業務もスムーズに行える。現在の環境は、独立したての我々の状況にとてもフィットしてると考える。
ユニットでの初仕事は、富山県のアルミ製のフライパン、鍋メーカーからの依頼だった。富山が誇る高度な金属スピニング(絞り)技術が合わさった、食卓を彩るマグセットを制作した。底から口へ広くなる曲線型の上マグと、ストレート型の下マグの上下5セットが入れ子になって収納されている。飲み物や人数に合わせて好みのサイズを選べ、テーブルインテリアとしても愛らしいモチーフに設計した。
▲「MUGRYOSHKA」Ph:Rina Nozaki。(クリックで拡大)
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▲「HARUKA」Ph:Tayashikki。(クリックで拡大)
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▲「WALLMUG SHADE」 Ph:RIVERS。(クリックで拡大)
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●自分+という特性を活かして
PUBLIC SERVICEと名付けた理由をよく聞かれる。特に深い意味はなく、分野に関わりなく地域、メーカー、個人の相談についてサポートができればと心掛けている。名前をキッカケに、我々の活動やそれぞれの個性にも興味を持ってもらえれば嬉しい。
職人経験を通じて芽生えたものづくりに対する思考、知識やプロセスを共有できる環境など、フェーズを追って多くの変化が起きている。さまざまなプラスの付加が今後を形成していくとともに、その時々の自分を「ものづくり」を通じて伝えていきたい。
石上諒一(Ishigami Ryoichi):1990年静岡市生まれ、京都精華大学プロダクトデザイン学科卒。メーカー、大学職員を経て2021年11月に大津寄信二とPUBLIC SERVICEを設立。家具、生活雑貨、インスタレーションなどを手掛ける。
https://pb-sv.com/
2023年5月12日更新。次回は村山昭宏さんの予定です。
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