pdweb
無題ドキュメント スペシャル
インタビュー
コラム
レビュー
事例
テクニック
ニュース

無題ドキュメント データ/リンク
編集後記
お問い合わせ

旧pdweb

ProCameraman.jp

ご利用について
広告掲載のご案内
プライバシーについて
会社概要

コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第132回 池内宏行/プロダクトデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





兵庫県神戸市の港町に存在していた造船工房の跡地を再利用しているシェア工房「MAR_U」を拠点としている。モノが飽和している状況で、常に新しい可能性、常識を探究し、「思考を促す」ような問いかけるデザインを心がけている。

●試作の作れる環境

木工家具をメインに、大学院時代から自分で考えたものは自分で試作を作るスタンスでやってきた。独立して5年目になるが、今も変わることなくシェア工房で試作を繰り返している。シェア工房を拠点にしている理由は「デザイン:製作=8:2」くらいの割合がちょうどいいなという思いがあるから。

工房には古いが基本的な木工機械があり、作ることに不自由はしない。自分で試作を作る理由は、それが一番手っ取り早くかたちが見れるというのと、加工・構造に無理がないか、一貫して考えられる。加工工程も踏まえデザインだと思っているので、困難な場合どのような治具(加工の手助けをするガイド)があれば容易になるかも考える


▲シェア工房「MAR_U」。(クリックで拡大)







●建築板金を使用した家具「Fulcrum」

山口県柳井市で建築板金業を営む有限会社森元が、2020年に設立した家具ブランド「Fulcrum(フルクラム)」。

同社とは以前から仕事としてではないがお付き合いがあり、今回新規家具ブランドのデザインをしてほしいとコンタクトをもらった。どの業界も新技術や新素材を使わないものづくりは飽和していると感じていたので、異業種からの家具アプローチに可能性を感じ、ワクワクしながら携わることを決めた。

「折る」だけの鋼板は角が尖っているのでどう細部を収めるのかを考えつつ、メイン構造となるように進めた。こうしてできた「HI-SERIES」は座面下から起立した鋼板を要に成り立つスツール、ハイスツール、ベンチのシリーズ。「BAGUETTE SHELF」は4辺を2回ずつ折っただけの天板と脚を連結するだけで、2列3列と連結が可能なシェルフとなった。



HI-SERIES。Ph:Tomohiko Ogoihara。(クリックで拡大)





▲BAGUETTE SHELF。Ph:Tomohiko Ogoihara。(クリックで拡大)



▲SHELF5列連結。Ph:Tomohiko Ogoihara。(クリックで拡大)





●里山活用プロジェクト

里山には間伐材が放置してあり、家具に応用できないかと考えた。ただ商業用に育った木とは違い、割れがあったり、腐っていたり、虫食い穴があったりお世辞にも綺麗な材とはいえない。こういった材は安価だと思われがちだが、使える材になるまでのインフラが整っていないので実際は高価なものになる。

そこで「山のために1パーツから買える(支援できる)家具」があるといいなと思った。座面1枚だけ間伐材に変えられるよ!みたいな。それは以前から「長く使ってもらえるような家具が今の時代にできないか」という考えがあり、支援する気持ちを通して特別な家具になるのではないかと。

座面の割れは大きな面材として使うことによりカバーし、虫食い穴もそのまま使用。スツールもベンチも同じ構造で組立式なので、座面さえ変えれば置かれる場所に応じてサイズ変更ができる。破損してしまったらそこの部材だけを交換すればいい。



▲里山stool.bench。(クリックで拡大)








●考えることを共有する

基本的に「もので溢れかえっているのに、もう作らなくていいじゃない」という考えがある。これは生産することを否定している意味ではなく、模造品で溢れかえっていることに対して。その中で自分は何ができるのか。

僕は基本的に今も昔も構造美・機能美といった理にかなったものづくりを心がけている。だから機能や機構、細部から入ることが多い。強度に直結することだから完成するまでにはすごく時間がかかるが、クリアしてできたアイデアは汎用性が高く、理にかなったワクワクがある。

初めて見た人には「どうなってるの?」と聞かれることが多い。知ればたわいもないこともあるが、どうなってるか気になって考えることが大事だと思う。便利なものが増え、考えることが減った今、家具を通して誰かの思考を促すものができればと思い、自分の思考を常に促している。




池内宏行(Ikeuchi Hiroyuki):神戸芸術工科大学芸術工学研究科総合アート専攻修士過程修了。2012年4月、ELLE DECORATION25周年記念展示会「GENERATION DESIGN」招待出展。2022年10月 有限会社森元「Fulcrum」グッドデザイン賞受賞
http://hiroyuki-ikeuchi.com/




2023年4月7日更新。次回は石上諒一さんの予定です。



 


 


Copyright (c)2007 colors ltd. All rights reserved