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コラム

神が潜むデザイン

第69回:言葉と絵の神様/根津ゆきこ

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト[プロフィール]
根津ゆきこ(ねづゆきこ):オランダ在住建築家、Urbanberry Design主宰。1971年東京生まれ。1996年東京都市(旧武蔵工業大学)大学院修士課程修了。オランダ国費留学生で渡蘭。2000年ベルラーヘ・インスティチュート大学院修了。2005年オランダ建築家登録をして活動開始。SeARCH、Inside Outside、OMAなどでフリーランスを経て、Urbanberry Design設立。スタートアップのコンセプトづくりを得意とし、建築、インテリア、まちづくり、都市計画などのあらゆるスケールのプロジェクトを展開。主な作品に、スキポール空港120部屋のスタッフルームリノベーション、フロリアーデ世界花博日本館。主な受賞に、IFDesign award金賞など。
https://www.urbanberry.com/



●オランダの土壌

干拓した土地は国土の40%におよび、水位を制御しつつ多くの海面下の土地で文化と経済行為を育んできたオランダに、私は長年住んでいる。異文化が混流する大陸で建築デザインを学ぶことを目指し、英語教育のベルラーヘ・インスティチュートで学位を修めた。大学院での教育は建築を軸に、都市計画、ランドスケープデザイン、データスケープなどスケールが大きく、個の建築だけでなく、社会や環境の中にある建築と生活について考えさせられた。

「世界は神が創ったが、オランダはオランダ人が造った」と言われる。そのためか、この国の建築デザインは土木から発展してきたように私は思う。ある意味ラフで機能的なデザインは、日本の職人技とはかけ離れ、資源がほとんどないこの国では、粘土土壌から焼煉瓦が発達した。土地を守るための堤防や対岸へ渡る橋などの技術も同時に発展した。

現在、複雑化した建材の流通が見直される動きが、マテリアルパスポートや増える木造建築などで見られるが、世界に誇るオランダの建築デザインは常にコンセプチュアルなアプローチが醍醐味で、材料の質やディテールより、用途配置をどうプログラミングするかであったのではないかと思う。

●戦後建築

アムステルダムのニューウエストと呼ばれる街区は、戦後の都市部の人口増加に伴い50年から60年代にかけて、1935年に発表されていたアムステルダム総合都市拡張計画をベースに作られた。中心部とほぼ同じ面積の街区をスキポール空港に近い西側に設け、住と職の充実を図った。その形態と配置は日本の戦後住宅と類似し、緑豊かな田園都市が手本となっている。

時は過ぎ社会は大きく変わり、住宅の老朽化や家族構成の変化で、デベロッパーによる取り壊しと新築高層ビルの建設などの大規模な介入計画が話題となった。しかしそれに対して住宅公団と市議会がまったく異なる見解を示した。かつて非難された19世紀の地区が、今では人気の住宅地になっており、戦後の住宅地にも、多少なりとも修復的な性格を持つリノベーションという成功の方程式を適用すべき時が来ているとした。

計画の見直しが図られ、展示、会議スペースを備えたミュージアム構想が関係者の間で進められ、国立文化遺産庁と住宅、空間計画、環境省の代表団により状況が伝えられた。そして2010年に当時の都市計画家の名をとったファン・エーステレン・ミュージアムが建設された。

●ニュー・バビロン

ファン・エーステレン・ミュージアムでは今年、地域で活動する人たちの作品を集めた展覧会Nieuwelingen展が行われた。私も友人の建築家ヨライン・ファルク(Urban Echoes)と進める地域の住宅リノベーションのケーススタディーを発表した。オランダのアーティストのコンスタントが発表したニュー・バビロンは、すべての仕事が自動化され、人間は浮遊し遊ぶだけとなる未来都市を構想している。

彼のユートピア構想がインスピレーションとなった私たちのケーススタディーは、既存の力強さ、アイデンティティ、美しさを活かしつつ、近隣の起爆剤となるような付加価値を加えている。そこに集い、生活する人々は、誰も他人ではなく、人々が積極的な役割を果たす世界を創造する。それを私たちは古いものと新しいものの間の移行を象徴する梯子という形で具現化したが、同時に自由と創造性を達成する手段でもある。

●梯子

ニュー・バビロンは、自由、創造性、集団生活を中心とした新しい革命的都市のユートピア・デザインである。梯子には複数の意味が込められている。「移行と移動」。梯子は、都市内の異なる空間や階層間の移行と移動を象徴する。「自由と創造性」。梯子は、自由と創造性を象徴する。住民は自分の環境を変化させ、構成する自由を持つ。またこの可能性へのアクセスを表す。「垂直移動」。スペースが水平方向だけでなく垂直方向にも構成されているため、重要なコンセプトである。

●Warm Hart

ファン・エーステレン・ミュージアムの傍らにあるスロータープラスという湖はニューウエスト地区の真ん中に広がる静かな湖だ。今年そこを舞台に市民が作り出したプロジェクトで、Warm Hartフローティングサウナが始動した。チケットの代わりに地元や環境に貢献することで、サウナを利用できる仕組みになっている。近くにある難民収容所で生活する人たちと共にサウナを建設し、100人以上ものボランティアで運営している。来年はアムステルダム誕生750年記念に伴い、Podcastも始まる。

アムステルダム市のまちづくり課の人は、自分の職業やできることのほんの数パーセントを地元に生かすことで、街は豊かになると語っている。建築家や社会学者が使う言葉や絵といった触媒は、実現に向けてアイディアを共有し、実現へ向けて人々を扇動する。




(2024年12月20日更新)


▲北海とアイセル湖を仕切る、全長32キロメートルある締め切り大堤防。水位の差が見られる。 (クリックで拡大)


▲1935年に発表されたアムステルダム総合都市拡張計画。(クリックで拡大)


▲ニューウエストの住宅地区。(クリックで拡大)


▲Nieuwelingen展の様子。(クリックで拡大)

▲ニュー・バビロンのケーススタディ。(クリックで拡大)


▲Warm Hartフローティングサウナ。(クリックで拡大)


▲Warm Hartのオープニングに集まる市民。(クリックで拡大)





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