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コラム

神が潜むデザイン

第63回:ちょうどいい和風の逆輸入/小谷和也

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト[プロフィール]
小谷和也(こたにかずや):1975年生まれ。工務店勤務ののち2006年に独立。「木のマンションリノベーション」を専門に手掛ける。床の遮音性能やマンション特有の結露、カビ対策、断熱改修にも取り組み、関西、関東で幅広く設計活動や講演、社内研修などを行っている。デンマークを中心とした北欧家具、たためる家具のコレクターでもあり、オリジナルデザインの家具や雑貨、建材も手掛ける。
http://reno.mpl.co.jp/



●吉村順三の設計

住宅の設計をしている中で、「和風」という言葉との向き合い方を考えさせられることがある。神が潜んでいるかどうかはさておき、この和風というものをキーワードに少し書いてみたい。

日本の木材を使い、引戸や障子を多用した住まいが自分の得意とする設計ではあるが、クライアントから「和風ですね」なんて言われると、「ウッ」となる。いや、そんなつもりないし、障子が付いた部屋の床はカーペットだったりするし、何なら正式な和室作れ、って言われてもちょっとよく分からないし…。

団地住まいで戸建てに住んだことのない私、畳はただの床仕上げだったし、戸はすべてふすまで、窓には障子が付いていた。当時の団地の仕上げはみんなそうだった、だからといって和風が好きになるわけでもない。そんな私と同じような境遇で育った、ちゃんとした和室って一体何なんですかね? という設計者にとって、目指すべき日本の住まいのあり方を分かりやすく提示してくれる建築家の代表が吉村順三ではないかと思う。

で、いざ吉村順三の設計を見てみると、和室はあまり多くない。以前、吉村の設計した河庄という寿司屋(博多)を見学させてもらったが、客室はすべて畳の和室だったものの、どちらかというとモダンな畳の部屋といった趣きだった。

吉村はアントニン・レーモンドに師事したこともあって、当時の日本人にはとてもモダンな住宅であったはずである。しかし、正しい和室を知らない我々世代は、とても日本的な住まいであると感じる。それは軒の深い外観であるとか、有名な吉村障子から感じられるものなのかもしれないが、お手本にさせてもらうのにとても都合のよい、「ちょうどいい和風」なのだなと思う。

●アルヴァ・アアルトの建築

そんな吉村は北欧建築の造詣が深かったことでも知られる。数年前、スウェーデンとフィンランドを巡る建築旅行に参加、アルヴァ・アアルトの建築を体感する機会に恵まれた。アアルトは来日の経験はないものの、日本の建築書籍などを参考に引戸や障子のような和の設えを建築に取り入れていたのは有名な話だ。

彼の代表作であるヴィラ・マイレアでは格子戸で囲まれたようなサンルームや、リビングの壁一面が引戸で全開放する仕掛けがあったりして、日本的要素が独自解釈されて取り入れられているのが非常に面白かった(実際、虫が多くてほとんど使われることはなかったらしい)。

ヘルシンキにあるアアルトの自邸でも、アトリエ部分とリビングを仕切るのは大きな引戸。そしてダイニングの収納にも引戸が付いていて、その扉の引手の溝の形状や寸法が、いつも自分が使っている、吉村順三につながる建築家たちが好む納まりと酷似していて驚いた。アアルト自邸の建設は1936年、1908年生まれの吉村順三は当時28歳、独立したのはその5年後。そんな吉村につながる建築家たちが好む納まりが、すでに90年近く前に遠く北欧の地で生まれていたことに少なからず感動を覚えた。

書物などの少ない情報から遠く極東の島国の建築に思いを馳せ、独自解釈で北欧の住まいに取り入れたアアルト。そんな北欧のフィルターが掛かった和の解釈が、現代の日本の建築家にとって「ちょうどいい和風」となっている。知らずのうちに輸出された和風が、ちょうどいい感じになって逆輸入されたといってもいいかもしれない。

この数年、我が国ではサウナが大流行、裸の付き合いである日本の銭湯文化と、水着で仲間と語り合うフィンランドのサウナ文化の共通点もこの流行の根底にあるのだろう。建築についても、アアルト建築のファンが日本に多いことをみても、北欧と日本には共感に通じる何かがあると思う。ひょっとしたら、似たような神さまが潜んでいるのかもしれない…(笑)。


(2024年6月14日更新)



▲吉村順三設計の博多の寿司屋「河庄」(1959年)の2階客室。(クリックで拡大)


▲「ヴィラ・マイレア」。リビングを外からみる。このガラス全体が1枚の引戸になっている。(クリックで拡大)


▲アアルト自邸のダイニング。件の収納は左手に少し映っているもの。(クリックで拡大)


▲アアルト自邸ダイニングの収納引戸。引手は木材に溝仕上。(クリックで拡大)


▲設計事例の引戸。溝の寸法や止め方、素材の色感まで似ていてビックリ…。(クリックで拡大)






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