「神は細部に宿る」とは本当に難しいテーマである。デザインをする際に一番大切にしていることは、「機能から生まれる形」。できるだけ不要な要素を削ぎ落としたものを作りたいという考えは、「神は細部に宿る」に通ずるのではないかと改めて感じた。
神が細部に宿った家具と言われて、一番に思い浮かぶのは、ポール・ケアホルムのPK51テーブルだ。コの字形に溶接したフラットバーを長辺と短辺で直交させて組み合わせただけの構造はミニマリズムの極致である。にもかかわらず、一目でケアホルムのものだと分かるフォルム。構造が形に現れるモノとしての存在感。必要最低限のパーツしかないこのテーブルには神が宿っているとしか考えられない。「機能から生まれる形」のゴールとも言えるこのようなデザインにいつかは辿り着きたい。
●小学校の椅子
私は「平山日用品店」というブランドでデザインを担当し、製作を担当する和彦とともに家具を中心としたオリジナルの日用品を手掛けている。またオーダーでの製作も行っているが、ある時、四角いテーブルに合わせた四角い椅子を作って欲しいというオーダーを受けた。
「四角い椅子」で、思い出したのは小学生の時に手に入れた昔の小学校の椅子。自分自身は小学校で、鉄のフレームに成形合板の座面と背もたれが取り付けられた、今でも主流の形の椅子に座っていたが、自宅裏の公園で山積みになって捨てられていたデスクとその椅子はすべて木製で、古びていたけれどもなんとなく可愛くて、すぐに連れて帰った。
まっすぐの4本脚に、5枚のまっすぐの板を釘で打ち付けて作った座面、後ろ脚に挟みこまれた、ただの板の背もたれ。けっして座り心地はよくないが、絵に描いたような「椅子」の姿に心打たれたのだと思う。体も大きくなり、椅子としてはほとんど使わなかったが、部屋の中で存在感を放っていた。このなんてことのない椅子を、なぜ当時の私がそんなにも好きだったのか、そして今でも心に残っているのかを考えた。
子供が座ることを想定した過不足のない部材構成による安心感、どこか愛らしいそのフォルム、そういったバランスやディテールに幼いながらに神を感じたのだと思う。またたくさんの子供たちに長年愛され使い込まれた風合いに「八百万の神」をも感じたのかもしれない。
この小学校の椅子をベースに、自分たちのオリジナルの椅子をデザインしよう。そしてでき上がった四角い椅子が「ゾロチェア」である。
椅子のデザインでもっとも大切にしていることは、座り心地。小学校の椅子をより座りやすく、より軽くすることを念頭にデザインを進めた結果、無垢材を積層にして曲げた座板と背もたれを、蟻組みのような形で脚で挟み込み、その接合部をゾロ(フラット)に納めた、着座時に違和感を感じさせない椅子となった。
●モノの進化の先に
前述の通り、「平山日用品店」は2人でデザインして製作する小さなブランドである。やりたいことはたくさんあるが、自分たちだけでできることは限られている。「ゾロチェア」のモノとしての進化を求めた結果、旭川の家具メーカーに助けを借りることにした。
まず、座板を成形合板にすることで、無垢材故に構造上必要であったスリットをなくした。次に脚を細くし、貫を省き、着座時の揺れをフレームのしなりで逃す構造へと改良することで、構造が形に現れた「flat chair」へと進化した。現時点で自分たちが考えうる「機能から生まれる形」の最適解の椅子になったのではないかと思う。
ものが溢れる現代において、デザインから製作までを小さな体制で行うこと、また、大きなメーカーや専門の職人さんの力をお借りしてモノを生み出すこと、その両方の力を活かして、これからも永い時間愛され続け、八百万の神が宿るようなモノづくりを目指していきたい。
(2024年5月14日更新)
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▲ポールケアホルムの「PK51」。Sotheby'sより引用。

▲昔の小学校の木製椅子。モノクロームより引用。

▲「ゾロチェア」。(クリックで拡大)

▲「flat chair」。(クリックで拡大)
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