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コラム

神が潜むデザイン

第42回:ものに宿る空間、空間が宿るもの/堤 有希

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト[プロフィール]
堤 有希(つつみゆうき):1986年山形県生まれ。2009年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒業。2009年~2018年株式会社布に勤務。2019年独立後、東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻入学。2022年同大学院修了。物質の空間性、または空間の物質性をテーマに、テキスタイルを主とした素材で作品制作を試みる。建築家とのプロジェクトで空間づくりにも携わる。
https://www.yukitsutsumi.com/

Ph:鈴木悠生



●飲料ボトルのリング

目につくと、手にとって、集めてしまうものがいくつかある。誰でもなにかしら収集した経験があるのではないだろうか。

「神」を感じるものについてのコラムのお話をいただいた際に、何気なく集めてしまうものの本質を探ろうと思った。なんの変哲もないものにも、自分にとっての隠れ崇拝の「神」が宿っているのかもしれない。

私の収集物の共通点は、用途や意味がないものである。かつては用途があったものなども含まれるが、だいたいは一般的に捨てられるようなものが多い。その中で長く集めているものは、道端に落ちている、キャップ付き飲料ボトル(栄養ドリンク剤など)のリング部分。キャップ下にあるリングは、未開封では留まっていて、開封するとちぎれる仕組みになっている。ちぎれたリングは不安定で、持ち主の気がつかないまま、道端に落ちることがある。

本体とキャップを未開封の状態で保つという役目を終えて、車か人にふみつけられて潰される。そのようなぺしゃんこ金属片を、私は集めている。

私が金属片に出会うのは、だいたいはアスファルトの上である。金属片は押しつぶされて平らとなっていることが多い。落ちた地面が固くて平らだったからだろう。柔らかい芝生やごつごつとした岩場の上で出会ったとしたら、形状が違うのだろうと想像を巡らす。

地面と踏みつけられる力の作用によって、金属片は形状を変えていく。当初は一様の形であったものが、私と出会う時には1つとして同じにならない。地面の起伏や状態、かかる力や放置されていた時間など、金属片を通過したすべてが、形として現れる。ぺしゃんこ金属片の1つひとつに、通過した環境を感じる。

●橋本平八「石二就テ」

ものと環境の関係から、橋本平八の「石二就テ」(1928年)という彫刻作品が思い出される。モチーフとなる自然石をそのままのサイズでつくった木彫の作品である。モチーフとなった自然石も残されており、並べて展示されることもある。

三重県立美術館の「橋本平八の彫刻」ページ

彼の著書の中で、「石が山地水源地から切磋琢磨されて石本來の姿に甦る。」「彫刻は人間の精神を離れた立體が切磋琢磨されて人間の魂人間本來の精神を宿した立體となって甦る。」[※引用文献]という一節がある。

石は環境を経過したすべてをもって石として存在し、彫刻は人間の精神を通過して初めて彫刻として存在する。石は通過した環境を含んでおり、彫刻もまた作り手の精神を含んでいる。

自然石をモデルに、実寸のままに彫刻作品としたのは、通過したすべての環境としての石と、彫刻家を通過した精神として形態である彫刻とを重ねている。石が環境を含んでいるように、彫刻は作り手の精神が含まれる。「石二就テ」から、身近に無数と存在する石は、橋本を通過する精神を介して、その実在性を確保している。

●空間の実在性を確保する「もの」

ぺしゃんこ金属片と石からは、ものに宿る空間を感じ、橋本平八の彫刻「石二就テ」からは、空間が宿るものを扱う制作態度を読み取ることができた。

私は、空間に関わるテキスタイルの仕事をしている。テキスタイルはそれ自体で自立せず、風も光も透過するため、時間や環境による変化を受け止めて映し出す。空間に置くテキスタイルが空間としてあるか、ということが制作上の関心ごとである。

空間は道端の金属片や無数の石と同様に、どこでもいつでもあるがゆえに、実態として捉ることは難しい。しかも空間は、経験を積層する体験の中に浮かび上がるイメージのようだ。

空間にあるものが、空間の実在性を確保し、イメージの輪郭がみえてくる。そのような空間ともののあり方を目指している。



※引用文献
橋本平八『純粹彫刻論』(昭森社/1942年)P239より


(2022年7月22日更新)





▲キャップ付き飲料ボトルなどのリング部分を集める。(クリックで拡大)


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