●ディテールはやはり面白い
僕は家具のデザインを仕事としている。主には家具メーカーやインテリアショップの商品開発である。日々良い商品を目指して仕事をしている。
形を決めていく過程で、ディテールをあれこれといじくり回しながら考えることは好きな方である。しかし、実際仕事をしていく中では「神は細部に宿る」などと考えることはまずない。いつの頃からか、それは当然のことと無意識に感じているからなのだろう。
ディテールは大切である。しかし同じようにディテールとディテールをつなぐ部位、部位同士が作る全体感や印象、素材感、サイズ感やプロポーション、もちろん機能性も含め造形という意味でのデザインではすべてが有機的に結びつき完結するため、すべてのバランスがより一層大切だと考えている。全体とディテールを行ったり来たりしてデザインを詰めていく。ほんの少し何かが変わるだけでその印象は随分と変わる。
家具デザインをやりたいと思うきっかけとなったのはデンマークの家具デザイナー、ポール・ケアホルムの「PK22」のラタン仕様のものと出会ってからである。フラットバーを曲げただけの直線的なステンレスの脚ときつく編み込まれたラタンで極限までシンプルに構成された背と座の姿にもかかわらず、何かとても美しく優しい印象に強く心惹かれたことを記憶している。
ディテールで言えば、フラットバーのエッジの面取りや脚先の反り返った表情、脚と本体を固定する剥き出しのボルトなどに人の手の介入が感じられるし、その脚の上に乗った極めてスクエアな背と座のサイズ感と傾斜角度で作られる全体的なフォルムは見ていてとても心地よく、シンプルであるが故に、そのどれもが少しも欠けてはならない絶妙なバランスが心をつかんだのだろう。
もちろん出会った時にはこんな分析的なことは微塵も感じず、ただただ見惚れていただけであった。このPK22の脚の面取りと同様、フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの「Artek」のスツールの脚にもしっかりと面取りがされている。このただ四角い断面の脚の面取りはアルテックの他の商品群にも多く見られ、この面取りの一見地味な表情が優しさを醸し出し、アルテックのブランドの印象までをも作っているように見てとれる。いろいろと改めて見つめてみるとディテールはやはり面白い。
●職人といかにイメージを共有できるか
自分の仕事でももちろんディテールには細心の注意をはらっている。原寸の図面や模型で確認するのはもちろん、それで足りない場合は「スーッと」とか「ふっくらと」といったような言葉も加える。製作をしてもらう職人さんに適確に意図を伝えるためである。
「図面は職人さんへの手紙だぞ」。
昔、家具デザインの仕事を始めた頃、ある先輩に言われた言葉である。とても心に響いた言葉であり、ずっと大切に持っている言葉である。つまり図面の本質は、作図のルールや見た目などそれほど重要ではなく、職人さんといかにイメージを共有できるかにある。職人さんに仕上げてもらった形がイメージ通りでなかった場合、それは意思を伝えきれなかったデザイナーの責任だと思っている。
よく書籍などで見かけるが、デザイナーであるハンス・ウェグナーとクラフトマンであるアイナ・ペダーセンが共に開発中の椅子の検証をしている写真がある。また、デンマークではデザイナーとクラフトマンとのマンツーマンでの協業で生まれた家具がよく紹介されていたりする。そうしたデザイナーと作り手との一体感を大切にする土壌があるからこそ、多くの優れた家具が生まれてきたのだろう。
デザインを仕事とする僕にとって形を考えることは良い商品を仕上げる過程の1つのパートに過ぎない。1つの商品には製作する職人さんをはじめ、企画する人、PRする人、販売する人など多くの人が関わっている。そのすべての人に一貫して意思が共有されて初めて優れたモノ(商品)ができるのだと思う。そしてお客様にもその意思が伝わり、暮らしに喜びをもたらすのだと思う。
もし、どこかで心惹かれるモノに出会ったとしたなら、そのモノに関わるすべての人々の意思疎通の中にも神が宿っていたのかもしれない。
(2021年2月15日更新)
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▲ポール・ケアホルムの「PK22」。FRITZ HANSNのWebサイトより引用。
▲アルヴァ・アアルトの「Artek」のディテール。
▲『HANS J WEGNER』(リビングデザインセンター発行、光琳社出版発売)
▲『HANS J WEGNER』より、ウェグナーとアイナペダーセン。
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