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コラム

神が潜むデザイン

第23回: 見えない魅力、感じる魅力/寺内ユミ

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
寺内ユミ(てらうちゆみ):インテリアデザインオフィス、インテリアショップの企画を経て1998年に独立。ライフスタイルやインテリア専門店を中心としたクリエイティブディレクション業務に従事。MD、VMD、スペースデザイン、プロダクトデザインまで、アイデンティティ確立のための一貫的かつ多面的なクリエイティブワークを得意とする。2008年にはジャパンクオリティをテーマとしたプロダクトを発表。気持ちの良い空間、上質な暮らしにふさわしいプロダクトを、グローバルな視点で提案している。GOOD DESIGN AWARD、RED DOT DESIGN AWARDなどを受賞。



神が潜む、神を感じるとは魅力を感じるというものに似ているのではないかと思う。

魅力とは、人の気持を引きつけて夢中にさせる力。1つの事象では言い表せない、完成されたものに触れた時、感動と同時に魅力的なものだなと思う。多くの素晴らしいプロダクトが存在する中、長く愛されているもの、時を経ても美しいと思えるものには、神が潜んでいるような魅力があるのではないでしょうか。

●美しい完璧なバランス

BRAUN社のデザイン・監修を務めたディーター・ラムス(Dieter Rams)の書籍『Less and More』を手にした時、すべてに関して隅々まで完璧なバランスで美しいと思えた。いくつかの作品を手にしたことがあるが、工業製品でありながらどれもどこかやさしい。
彼が提唱する「良いデザイン10ヶ条」は、

Good design is innovative.
Good design makes a product useful.
Good design is aesthetic.
Good design makes a product understandable.
Good design is unobtrusive.
Good design is honest.
Good design has longevity.
Good design is consequent down to the last detail.
Good design is environmentally friendly.
Good design is as little design as possible.

というものであるが、時を超えて訴えかけてくる強さと魅力に共感を覚える。
https://br-time.jp/designer/

●受け継がれていく技

私が携わるプロダクトデザインは、工芸との取り組みが多い。2008年、日本の素材や技術を活かしたものづくりがしたいと決意した頃、鎌倉にある鎌倉彫の「後藤久慶」を訪れました。鎌倉彫の起源は鎌倉時代から木彫漆塗りの技法で仏具を作ったのが始まりとされています。「後藤久慶」は、運慶を始祖とする鎌倉仏師の流れを汲み、3代 久慶(29世孫)の後藤久慶さんとお話をしました。

先々代の木彫像、先代の作品など拝見させていただき、その細やかで緻密な手仕事に心を奪われました。手仕事そのものも素晴らしいものなのですが、その物体から滲み出るような「何か」を感じずにはいられませんでした。約800年も受け継がれる技、そこには技だけでなく心、そして目に見えない神々しい何か、も受け継がれているような気がしてなりませんでした。

私は大胆にも、後藤久慶さんと私のデザインとのコラボレーションを申し込み、”MINAMO”という作品を発表することになりました。

デザインを考えるにあたり、すでに完成された手技を生かし、すでに完成されているアイデンティティを進化させることができるとすれば、どのようなデザインを与えるか、考えを巡らせました。

後藤久慶さんのお人柄は優しく、その手で施す彫刻もとても優しい。ずっと見ていると水面に見えてくるのではないかと。そして、私が行うべきデザインは、もっともシンプルな形状を与えることだと感じたのです。表面張力を感じさせる薄っすらと凹ませた表面、側面のラインは延長すると正円になる、もっともシンプルな形状に彫刻を施していただきました。

デザインイベントへ出品した時のこと、この160ミリの小さな作品に目を奪われて、離れられない方や遠くからかけよってくる方がいたのです。本当に驚きました。目に見えない魅力が潜んでいると感じた瞬間でした。

●風土や文化とデザイン

西ベンガルに古くから続くカンタ刺繍を施したタッサーシルクのストールをデザインしているのですが、手紡ぎ手織り、そして全面に施された手刺繍、すべてが手仕事で作られたものです。世界にはその風土や文化に培われた素晴らしい手仕事や工芸がたくさん残っていることを実感しています。

最先端技術が発達し、いろいろなものが便利になる中、デザインも工芸も新しい局面を迎えていると思います。しかし、その土地の風土や文化を活かし素材と技とデザインが融合したものは、これからもっと価値のあるものになってくるのではないでしょうか。

工業製品と手工芸とは対極的に異なる部分も存在しますが、1つのプロダクトに対する思いや信念が完成された時、そこには神が潜むような魅力が生まれると信じています。


(2020年11月16日更新)



▲ディーター・ラムスの書籍「Less and More」。



▲後藤久慶「押印」には造り手の誇りが刻まれます。(クリックで拡大)


▲後藤慶大さんとのコラボレーションで生まれた作品「MINAMO」。(クリックで拡大)


▲もっともシンプルな形状を施した「MINAMO」。(クリックで拡大)




▲西ベンガルの村の女性たちが、手仕事で丁寧に刺繍を施しています。(クリックで拡大)



▲寺内ユミにより新しい雰囲気を纏ったカンタ刺繍のストール。(クリックで拡大)


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