●イタリアモダンデザインのマエストロたち
「神が潜むデザイン」という言葉から連想されるのは、やはり「神は細部に宿る」とか「形態は機能に従う」といったような、モダニズムを象徴するスローガンだと思います。前者はバウハウスの校長を務めたミース・ファン・デル・ローエの言葉、後者はフランク・ロイド・ライトの師匠筋にあたるルイス・サリヴァンの言葉です。
これらはアールヌーボー後のドイツ工作連盟からバウハウスへの時代の言葉で、この時代から100年が経った今でも、建築デザイン、プロダクトデザインの教育はこのモダニズムの思想が前提になっています。
家具デザインの世界ではモダンデザインを下敷きにして、情緒に働きかけるような形態や素材がいろいろ試されてきました。僕が大学生だった頃はちょうどポストモダン全盛で、メンフィスが一世を風靡し、特にイタリアの家具デザインはカラフルで装飾的で奇抜という印象でした。それが教え込まれてきたモダニズムの思想との乖離が大きく、頭をひねったことを思い出します。
そんな当時、もっとも自分にしっくりきたのが、ポストモダン以前のイタリアモダンデザインのマエストロたちでした。ジオ・ポンティ、ブルーノ・ムナーリ、アッキレ・カスティリオーニ、そしてもっとも印象深かったのが、アンジェロ・マンジャロッティでした。建築からプロダクト、そして彫刻までこなす彼の作品は、一貫して素材と工法(加工技術)に対する深い興味と理解そして合理性が示されていて、さらにそこにイタリアンな? 美意識が組み込まれているように思いました。
大学で刷り込まれたドイツ的なモダニズムから少しリラックスした感じで、理詰めの美のさらに先に何か情緒的なものを感じたのです。
●マンジャロッティのテーブル「EROS」に潜む神
今回、僕の「神が潜むデザイン」というお題でまず浮かんだのが、そのマンジャロッティのテーブル「EROS」です。ネーミングからして当時大学生だった僕にとってはドキドキでしたが、素材、加工、構造、そして美がもっとも簡潔に完結していると感動したのを憶えています。
彼のプレキャストコンクリートによる建築構造体にも感動しましたが、ヒューマンスケールでエレガントで力強い造形がことさら印象に残っています。そして、その感動は卒業後、実務を重ねるにつれてその思いがジワジワと高まり、今も進行中です。
「EROS」というネーミングの由来が、このテーブルの特徴である脚部と天板の接合部分を男女の結合になぞらえていると知ったのはかなり後で、確かギャラリー間での展覧会でした。
この「EROS」は円錐形の脚に穴の開いた天板を嵌め込み、天板の自重によって成立しています。至極単純な力学的アイデアですが、これが「神」の御技としか思えないバランスなのです。素材の大理石の重さ、硬さ、加工性など物的特性を知っていなければ実現できないデザインだと感じました。
天板の穴は、計算では均等でも実際は不均等にかかってしまう荷重、摩擦力を逃すためにオープンエンドになっています。たぶん天板の厚みも自重を計算した上でのことだと思います。それから円錐形の脚の形状は天板をその自重で固定させる楔として機能しながら、天板の重みでトップヘビーになってしまうことを防ぐために脚端部分が広がっていて重くなっています。
そして、すべて理詰めで語れるフォルムに鏡面の仕上げや面取りの仕方が艶っぽさを加えているのです。特に大きめの面取りは大理石の柔らかさを感じるし、また脚部と天板の接合部分はこの面取りが相手を誘い込むジェスチャーのようにも見えます。
理性的でありながらどこかに情緒的な要素を忍ばせる。このバランスをどこに持ってくるかがデザイナーの個性であり力量だと思います。
(2020年3月11日更新)
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▲アンジェロ・マンジャロッティ
▲マンジャロッティによるテーブル「EROS」。(クリックで拡大)
▲穴の開いた天板に円錐形の脚を差し込み、天板の自重によって安定する仕組み
。(クリックで拡大)
▲マンジャロッティによるスケッチ
。(クリックで拡大)
画像提供:Agapecasa
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