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コラム

神が潜むデザイン

第1回:ランチャ・ストラトスに見た「神」/手島 彰

「神は細部に宿る」と言うが、今回より新連載をスタートする本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト [プロフィール]
手島 彰(Akira Teshima):プロダクトデザイナー。デザインディレクター。筑波大学芸術専門学群卒。SUBARUにて初代IMPREZAのエクステリアデザイン、プラスにてオフィス家具やASKUL商品の企画・デザインを手がけるなどの社内デザイナー経験を持つ。その後RP試作会社や英国ブランドホイールメーカーでの企画開発を経て、2007年テシマデザインスタジオ設立。コンセプトからデザイン、3D、ブランディングまで一貫したデザイン開発を実践。対象は自動車関連、ゴルフクラブ、医療・検査測定機器、PB商品、アイウェア、食品、産総研の次世代産業PJから漆器やこけしなどの伝統工芸まで多岐にわたる。JIDA正会員。中央情報大学校講師。半導体製造システム「ミニマムファブ」にて、2014年度グッドデザイン賞・未来づくりデザイン賞受賞。



新年より新連載リレーコラムがスタートし、そのトップバッターに指名いただき大変光栄に思います。しかも、そのタイトルは「神が潜むデザイン」という崇高なタイトルのコラムとのこと。

今でこそ、ネットで「ネ申」などと表現され、身近に感じられるようになった言葉の「神」ですが、ことデザインの分野でそれを語るにはデザイナーとしてはとても恐れ多く、何をピックアップするかで、まるで「他人に自分の本棚を見られる」ような、こそばゆさを感じてしまうのも事実です。


●好きなデザイン、良いデザイン

「好きなデザイン」や「欲しいデザイン」は個人的な趣向ですからすぐに頭に浮かびます。ソニーの初代「AIBO」(ERS-110)、オリンパスのカメラ「O-Product」、セイコー「ジウジアーロ・スピードマスターSBA028」、シャープのムービーカメラ「TWIN-CAM8」、イスクラ(ISKRA)の電話機「ETA80」などは好きなデザインです。他にも、かつてのブラウン(BRAUN)製品やBang & Olufsen製品のように機能感がそのまま美しさにつながる製品が、筆者にとっての「好きなデザイン」です。

それに対して「良いデザイン」は、毎年選定されるグッドデザイン賞のBEST100のプロダクトのように、その「良い」が時代を反映するものであり、個人においてはその「良い」を表す価値観の基準もそれぞれかと思います。


●ランチャ・ストラトスに見た「神」

では本題の「神が潜むデザイン」はどんなデザインをさすのでしょう?
それは「何か圧倒的に超越しているところが存在する」ということかと思います。

・他を凌駕する圧倒的な美しさを備える。
・熟練、卓越した職人技から生まれた美しさを備える。
・歴史的な戦績や実績を持ち歴史に刻まれる。
・時のヒット商品となり時代を象徴する商品となり記憶に刻まれる。
・漫画やアニメ、映画やドラマに登場し、シーンが記憶に刻まれる。

などですが、これらを満たすプロダクトは、数十年前に生まれた商品でありながら、今見てもハッとするような、タイムレスな時を超えた美しさや輝きを持っていたりします。

筆者は、工業デザインの仕事に就いて今年で30年になりますが、私たちの世代にとっては、子供の頃にブームだったスーパーカーがその象徴で、まさに「神」的な存在でした。

その中でも筆者は、皆が好きなランボルギーニやフェラーリのような美しいフォルムのスーパーカーよりも、ルーフにタイヤを積んでいたり、フロントに大きなランプやガードパイプがついているような「ランチャ・ストラトス」が大好きでした。今思えばそこにWRC(世界ラリー選手権)に勝つために宿命づけられたオーラ、「闘うための機能美」を感じていたのです。今見ても、素のフォルムそのものがウェッジシェイプの、ハッとするタイムレスな美しさを備えています。


●筆者の意識しているデザイン

筆者自身の経験においても、歴史に刻まれるプロダクトのデザインに携われたことが今でも大きな財産になっています。1989年にSUBARU(当時は富士重工業)に入社して最初に配属されたのが初代インプレッサの外観デザインのチームで、WRCに参戦し勝つべく生まれたWRXと呼ばれるターボモデルへのベースモデルからの変更箇所が、まさに「闘うための機能美」として要求される箇所だったのです。当時のグループAという競技車両の規定から、市販車の段階から競技車の外観を同じくしていなければいけませんでした。冷却のためのグリルやダクト、空力向上のためのスポイラー、あらかじめバンパーに内蔵された大径のフォグランプなどがそれにあたります。

奇しくもWRC戦略車としてWRXの開発時にライバルとして想定されたクルマはストラトスの末裔である、ランチャ・デルタHFインテグラーレで、ファミリーカーをベースにしながらもフロント周りに冷却用の大きな開口部を備えていたり、小さなキャビンに太いタイヤを履かせた佇まい、そのタイヤを覆う迫力のあるブリスターフェンダーの処理など、ストラトスの末裔としての「神」的なオーラは健在でしたので、メカニズムとしての戦闘力以外に、デザイン側としてはその「ライバルに負けない存在感を得ることができるか」が勝負でもありました。

4ドアセダンがベースでしたので、カーデザインとしての「圧倒的な美しさ」はないものの、WRC三連覇を経て、その「闘うクルマ」としての存在感と、現在も繰り返し再生され続けるネット上のラリーの動画、そして漫画やアニメに登場したことで若い世代や海外ファン層への拡大などで、発売開始から四半世紀を超えた現在でもファンが増え続け、型式である「GC8」と呼ばれてタイムレスな輝きを得ています。

現在では、さまざまなジャンルの工業製品や工芸品のプロダクトのデザインに携わっていますが、デザイナーとしては「圧倒的な美しさ」を表現できるプロダクトの仕事に巡り合うのも1つの楽しみではありますが、国内外ツアーのプロ選手に使われるゴルフクラブのように「闘うための機能美」を自らのデザインテーマの1つとしていきたいと思っています。

(2019年1月1日更新)

 

イラスト
▲写真はモーターライフ情報メディア「Motorz」より。ランチャ・ストラトスについての詳細はこちらまで。




イラスト
▲手島氏は新人時代に初代インプレッサの外観デザインのチームに配属され、歴史に残る名車を手掛けた。(クリックで拡大)

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