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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その83:時間をつくる

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。


●「時間がなかった」はずはない

大学の授業をしていると、課題提出の時に「時間がなかった」と言い訳する輩が少なからずいる。自分の授業に関しては「時間がなかった」という発言は禁句にしている。「時間がなかった」とは絶対に言ってはいけないのだ。そもそも「時間」は間違いなく公平に「あった」。「時間がなかった」のではなく「時間配分を間違えた」「時間管理を怠った」のである。そこをすり替えられては困る。

授業では「1週間課題」というものをやっていて、お題が出て1週間でコンセプト、スタイリング、動画プレゼンテーションまで仕上げるというモノ。誰にでも1週間は公平にあるのだが、ぼーっとしていればあっという間に過ぎ去ってしまう。この1週間という時間の単位をしっかりと計画できるように訓練するのがこの授業の目的なのである。慣れてくれば、「1週間しかない」が「1週間もある」に変わり、日程を逆算して計画できるようになってくる。効果はてきめんで、就職がうまくいった学生からはこの授業に感謝されることも多い。

●蓄積時間と隙間時間

「時間」は誰にでも公平にあるが、同時に終末に向かって残酷に過ぎていく。要は、それを自分がどう管理していくかということに尽きる。長い人生になってくると、立場や境遇、収入含めて、個人レベルでいろんな差が生じてくる。その目に見える大きな差は間違いなく、長い年月の構成要素である「1日の時間の配分」による結果だろう。

細かく言えば、毎日30分だけでも、何かをしぶとく何年も継続してくれば、それは必ず何かの技術や得意分野となってくる。そういうのってなかなか大事な要素で、生きていく上のアピールポイントや武器になってくる。逆に言えば、蓄積を要する技術は、だれもが欲しくてもすぐには手に入らないものだからである。

お金を出して簡単に手に入らないものこそが本当に価値があるものだ。自分の身体の状態などその最たるものだろう。お金以前の問題で、自ら毎日鍛えて律する時間を確保しなければ構築できない。

自分の場合は、30代に関してはほとんどの時間をデザインに費やしていた。その頃はまだ、今のようにランニングもやっていなく、運動はジムのプールで30分泳ぐだけだったが、そのあとのジムのシャワーとかジャグジーをお風呂替わりとして時間節約していた。それ以外は、とにかくひたすらデザインだけの日々。特に飲み会とかに参加することも少なく、ひたすら作品を作りまくっていた。

たくさん抱えていたクライアント仕事のかたわらで、PCのレンダリングの待ち時間に、木の棒をカッターで削って作成した靴ベラが、その後人気商品になり、今現在もベストセラーで売れていたりもしている(写真)。とにかく「隙間時間」をどう有効に使うかというのが大事でもある。「隙間時間」の集積はばかにならない。

●疲れない時間管理法

「時間を作る」「時間を確保する」ということは、逆に言えば「何をやらないのか」を決めていくことだ。やたらと「忙しい」を連発している人も多いが、そういう人ほどアウトプットの量がたいしたことがない。そういう人ほど、冷静に観察していると、どうも無駄な動きばかりしているようだ。

それは「忙しい」のではなく「要領が悪い」「効率が悪い」のである。これも混同しがちな間違いだろう。現代という枠で考えれば、スマホの見過ぎはとにかく時間のロスが大きい。電車に乗っている時くらい、情報はシャットアウトして脳を休めておけばいいのにと思う。それでなくても、いらない情報はSF映画の怪物のように隙間を見つけては入り込んでくる。

現在の自分の生活パターンは、毎週の後半に大阪で授業があるので、ひたすら東京と大阪を往復している。多い時は1週間に2往復もあるし、その間に九州や北陸の伝統産業の仕事が入ってくることもある。ただ、可能な限り、月曜と火曜は東京での仕事や会議ができるように時間枠をキープしている。これを毎週やっていると「よくできますね!」といわれるが、これにはコツがある。いかに「速く移動するか?」ではなく、いかに「疲れを残さない移動手段」をとるかなのである。

具体的に言えば、まずは「移動する時間帯」を選ぶこと。とにかく通勤ラッシュの時間帯は絶対に避けるべきだ。平日の午後の羽田行きのリムジンバスだと首都高を使って、早ければ40分以内で到着するし、乗り換えもなく、後方に誰もいなければ、最大限に椅子を倒して快適に移動できる。これは、満員電車でストレスまみれになって移動していくのとは疲労度が明らかに違う。

そして新幹線か飛行機かといえば、飛行機の一択だ。物理的に座って固定されている時間は50分くらいなのであっという間だ。ロビーでは仕事したりウォーキングしたり自由な時間が持てる。そして事前にチケットを購入すれば、新幹線の自由席よりも圧倒的に安い。新幹線の真ん中席で2時間以上固定されるのはきつい。時間帯を選んだ飛行機移動がとにかく疲れを最小限にしてくれる。

そして、大事なことなのだが、そもそも時間の密度は均一ではない。同じ20分でもガンガン仕事が捗る20分もあれば、ただ座っているだけでほとんど結果のでないダラダラした20分も存在する。これは身体の状態にもよるとは思うし、疲れていない方が効率が良いのは当然だろう。同じ仕事をするのであれば、仕事が捗る20分を確保したほうがいいに決まっている。

一番、身体と脳が休んだ後の状態。そういった意味で言えば、夜よりも朝だろう。この原稿も朝の7時から一気に書いていてもうすぐ終わる。変な夢とか見てなければ、脳も休まっているはず。朝方に作業をできるだけ終えてしまって、午後は自由に組み立てられるととても効率的だと感じる。効率よく進めて、発生した隙間時間に昼寝をして疲れを取ることもできる。ちょっとした順番を変える工夫をすることで「時間」は作ることができる。

2025年7月1日更新





▲高岡の竹中銅器「アクアリウム 靴ベラ」。中央が、木材をカッターで仕事の合間に削って作成した原型。手前と奥はそれを鋳物で作成した製品。(クリックで拡大)









 


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