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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その80:目指せ70点! わざと100点は目指さない

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

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[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。


●夏休みの宿題を最終日までやらないタイプ

仕事の速い人は、仕事の取り掛かりがとにかく早い。

ほんの少しでも始めてしまえば、あとは作業をしていないときも作業は無意識に頭の中で進んでいく。ということは、早く始めるほど作業全体にかけている延べ時間が膨大になってくるということ。遅く始めた人と比較して、この累積時間の差はものすごく大きい。この事実は早めに気が付いた方が得をする。

夏休みの宿題を8月31日の夕方から始める小学生も多いが、それを武勇伝のように話すのはナンセンスだ。8月31日に突発的な何かが起きる可能性がある。自転車で転倒して入院するかもしれないし、風邪をひいて発熱して寝込むかもしれない。そうなったら一巻の終わりである。

社会人になっても「私ってギリギリまで追い詰められないとエンジンかからないんです」。と発言する人も多いが、こういうタイプの人に仕事は絶対に任せたくない。

夏休みの宿題はむしろ夏休み初日に全部終わらせるつもりで、まったくストレスのない夏休みを満喫して、最終日に少し手直しをするくらいが一番効率がいい。気になる要素は少しでも排除したほうが楽しみというのはより楽しくなるものなのだ。宿題のことが常に脳裏にちらつきながら送る夏休みは何だか気持ち悪いと感じる。自分が今飲んでいるペットボトルの水に、小さな黒いゴミが常に浮かんでたら気持ち悪いだろう。見て見ぬふりをするというのは実はかなりのエネルギーを消費するのである。

●コンビニに行く気分で作業スタート

では、実践的に取り掛かりを早くするコツは、とにかくまずはハードルの高さを下げることだ。まったくもって意識的な問題。高い山を登ろうとするのではなく、敷居をまたぐくらいの意識でいい。ちょっと歯磨きしようとか、コンビニに炭酸水を買いに行こう程度の感じで始めてしまうことだ。いかに最初の一歩を直ぐに開始できるか。

100点を目指そうとするとどうしても構えてしまって、精神的な準備が整ってからとか、不確定な言い訳を考えてしまうものだ。意味もなく逃避行動として、何故か部屋をかたずけはじめて、それだけで1日が終わってしまうこともある。

精神的な準備などは無視して、とにかく仕事を開始してしまえば、あとは勝手に整ってくるのである。目指すは70点と言い聞かせて始めてしまえば、気が付けば75点くらいは通過しているはずだ。そのままの勢いで欲を出して100点、さらに時間に余裕があるはずなので120点を目指せばいい。ここからの加点の加速はそのまま自分の持っている残り時間に左右される。だから取り掛かりは早いほうがいい。

この自分を詐欺にかけるような手法は意外に効果的で、さまざまな局面で応用が利く。冬の寒い朝のランニングも、靴さえ履いて一歩外に出ればあとは何とかなるのだが、そこまでの道のりが大変だ。これはランニングにでかけるのではなく、近くのコンビニに肉まんを買って帰るだけだと自分を騙して、まずはランニングシューズを履くのである。結果、外にでさえすれば、当初の目的の15キロランとかが終わっていることに気が付く。

大学の学生の課題でも、毎回締め切り過ぎて出してくる者がいるが、デザインに関して言えば締め切りを過ぎたらどんなに素晴らしくても価値がゼロになると思っていた方がいい。締め切り時間というのは、絶対的なものなのである。船も飛行機も出発したものに乗ることは不可能なのである。

●ギリギリは、重たい辛い

バックパッカー時代、チュニジアのチュニスで週に1本だけイタリアのシチリア島行きの船があることを知った。これを逃すと、陸路を列車で悪名高いアルジェリアを通過するルートとなってしまうのでそれは避けたかった。しかし当日、船の乗船時間がギリギリになり、それまでにスペインで買い込んでいたシュールレアリストの分厚い画集が何冊も入っていた30kgくらいの巨大なバックパックを背負って、砂漠の街を猛ダッシュで走った記憶がある。

バックパックのショルダーベルトを肩に食い込ませながら半泣きで走り続けた。後にも先にも、あんなに重い荷物を持って数キロのダッシュをしたのは唯一の体験である。結果、ギリギリで乗船できたのだが、船も飛行機も余裕を持って港に着いているべきである。

フリーランスになると、仕事の依頼があるかどうかというのは死活問題だろう。もちろん成果物としては120点以上を目指すのであるが、誰よりも先に開始するために70点を狙えばいいのである。そういった積み重ねで今の自分がある。

2025年4月1日更新





▲岡本太郎さんのデザインからの切り替え依頼で作成した日本ファッション協会の「日本クリエーション大賞」のトロフィー。早いものでもう10年。表彰式が大学の卒業式と同日で、招待受けていても、なかなか参加できないのですが。いずれにしてもデザインしたものを長く使ってもらえるのは嬉しいものです!。(クリックで拡大)


滑り台「マウンテン」の開発ストーリーがUPされました。関数曲線を応用した話です。英文になります。(クリックでリンク)



▲筆者近影。秩父の山を登る。気温は20度越えで汗だくなのだが、山は御覧の通りの雪山。膝までジュボジュボ埋まりながら登るの図。(クリックで拡大)



 


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