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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その53:「長寿」と「短命」

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

世の中はかつてないほど「健康の価値観」にシフトしている。でも、残念ながら「健康」はお金では買えない。お金はある程度は必要だが、それ以前の毎日の自意識のほうがはるかに大事だろう。

世の中「健康」を手に入れるいろんな広告で溢れかえっていて、買わせようと誘ってくる。でも、冷静に考えれば、お金を使わないほうが健康の近道なのである。ほとんどの事象は、足し算ではなく引き算に「解」があるものだ。これは自信をもって断言する。

「健康」も例外ではなく、引き算しか方法はない。そして、大事なのは「健康」はあくまでも「手段」であって、健康な状態で何をするかが最終的に大事なのである。

●長寿の町


今、事務所兼自宅のある小金井市は日本国内で長寿のベスト8位の市町村。そして、週の1/3を過ごしている大阪の西成地区は、全国で男性短命のベスト1位。自分はこの5年くらい長寿エリアと短命エリアの両極端の2か所で暮らしていることになる。この寿命差はいったいどこから来るのであろうか?

事務所のある東京都小金井市は、吉祥寺から電車で7分程度の東京の武蔵野地区。近隣には新選組の道場や、ジブリのスタジオなどがある。そして、そこら中に縄文時代の遺跡が点在しているので、地形的には時代に関係なく人間が暮らしやすいのだと思う。

住居はマンションよりも一戸建がほとんどだ。都内でありながらもコンビニが少ないから、必然的に自炊も増える。ファストフードを食べる機会も少ない。面積比率的には、公園の占める面積が圧倒的に広いのが最大の特徴だと思う。そして公園を散歩する地元の人がとにかく多い。朝、公園を歩くというのがどうも一番の健康と長寿の要因のような気がするのである。犬を飼っている人の比率も多い。

人間にとって最大のストレスはしっくりこない人間関係である。かといって孤独はまた寂しいストレスとなってしまうし、生活も成り立たない。社会とのつながり方加減がとにかく大事だと思う。人間関係を最小に抑えた範囲内での従順な犬と自然の中を毎朝の散歩というのは、癒されるし健康にもつながるのは理にかなっている。小金井市の長寿の要点を個人的にまとめれば、「自然の中の朝の散歩」「犬の散歩」「脱コンビニ食」であろう。

●短命の町

一方で短命TOPの大阪の西成地区は、どんな街かというと、まず公園はほとんどない。そして治安が致命的に悪いし、街もきれいとは言えない。そもそも、大阪自体の喫煙率が東京と比較すると圧倒的に多い。よって、ここも路上喫煙がすさまじい。大阪は電車の中で飯食ってる率も高いし、公衆マナー的にはとにかく良くない街だ。また、たこ焼きをはじめとした粉もの帝国であり、小麦粉消費もものすごい。

ただし、街の魅力というかカルチャー的な観点でいえば、非常に魅力的なエリアだと思うのである。街の中には、こじんまりとした芝居小屋が点在していたり、レトロな不思議な飲食店が立ち並んでいて風情がある。すぐ近くに職安がある関係で、低収入の人たちも多く住んでいるせいか、物価がとにかく安い。いろんなもの価格が恐ろしく安い。ホテルも2,000円もあれば普通に泊まれる。あと、銭湯の数がものすごく多いのも特徴である。

自分は銭湯がものすごく好きで、大学時代には千葉大周辺の銭湯マップを作っていたりもした。銭湯って、それぞれがオンリーワンで、建物から構成要素までまったく異なり、昭和の空気感が今も漂っている。その時空を超えた感がとても楽しいのである。

昭和のレトロな体重計に乗るだけでも楽しいイベントだ。この西成地区のエリアの銭湯もまた素晴らしい。風情のある露天風呂もあるし、浴槽の数も多いし、とにかく広くて、怪しい電気風呂をはじめ、たくさんの浴槽の種類もあり、とにかく楽しい。

いつもよく行く銭湯は、サウナ料金を払わずにサウナが使えるような不思議なシステムにもなっている。これは文章ではなかなか説明できない。とにかくは、お金がなくても楽しめるように街自体が工夫されているのである。唯一の欠点は、脱衣所のロッカーから盗難事件が絶えないということ。まあそれも西成らしくて憎めないし、とても人間味を感じる。とにかく喜怒哀楽の激しい街で、実はとても大好きな街なのである。

●環境と創作

ソニーに勤めていた時、5年間はSONY AMERICAに在籍し、マンハッタンの近くの街に住んでいたので、週末は大体ダウンタウンで遊んでいた。これだけの大都会でありながらも、セントラルパークという広大な緑地公園が確保されているおかげで、人々はジョギングや散歩で思い思いに身体を動かしてリフレッシュさせている。

ただ、とても面白いのはこの公園ですら、見えない境界線というものが存在して、白人地域とハーレムと呼ばれる、ヒスパニック系、黒人系のエリアにきっちりと分割されている。住んでいる人種も違えば、文化や治安までまったく別な世界なのである。

ダウンタウンでも、アヴェニューABCという超絶やばい地域があって、よくカメラを持って歩き回った。なんだか街がかっこいいのである。セサミストリートではないが、水道管が破裂して子供たちが水浴びをするような世界観なのだが、ここには表情豊かな人が暮らしている。思うに、アートや音楽はこういう地域から生まれているような気がする。喜怒哀楽の激しい生き方の中から、ある種の感情が物質化されやすいのではないだろうか。

やはり、アメリカ駐在の時、バブル全盛期でサンディエゴの高級住宅街にデザインオフィスがあった。リビングからは海が180度見えて、最高のロケーションだった。新鮮な魚介や野菜も手に入る。しかしながら、この環境ではデザイナー誰もがデザインする気にならなくて、結局東京の殺風景な環境のほうが仕事が捗ったという皮肉な結果になった。明らかに企画ミスである。

いい環境が、いいアウトプットを生まない。むしろ逆だ。

そして長寿が必ずしも幸せというわけでもないのである。短命でも世の中に楔を打ち付けるような作品ができればそれはそれでいいのだ。要は、環境のバランスをうまくとって「健康」と「創作活動」の両立を取っていけばいいのである。

そういう1年を過ごせればいい。



2023年1月1日更新




▲事務所から徒歩一分の野川公園 ここを毎朝散歩してリフレッシュ。(クリックで拡大)


▲大学二年の課題で作成した銭湯マップの一部。(クリックで拡大)


▲大阪のシンボルといえばここしかない まだレトロな雰囲気が残っている。(クリックで拡大)



▲ニューヨークのダウンタウンで撮影 なつかしい。(クリックで拡大)











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