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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その50:ストレスという魔物

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



●良いストレスもある

ストレスというのは使いようだ。有効なものもある。例えば、毎日たった5分でもランニングを続けるのはとても面倒だし辛い。しかし、5分というのはあっという間に終わる。でもほんの少しだけ「辛い」という感覚が必要だ。それが能力向上になる。その毎日が、何年も続けば、明らかに筋力や心肺機能は強化されて自分の財産となる。

同じことが、楽器の練習、書道、料理などいろんなことに共通して言える。特に、人生の楽しみの部分で頑張った分だけ、あきらかな「達成感」「高揚感」を満喫することができるようになる。能力は向上するほど楽しくなるし、同じ方向性の仲間と技術の情報交換などができてとても楽しいものである。

このような「能動的なストレス」は、それを継続できた時間との掛け算でとても大きな能力となってくる。人生の最大の財産といえるだろう。お金や土地は簡単に失うことができても、こういう能力は、ずっとついてくる。だから、「ちょっとだけ辛いけど毎日頑張る」というのは有効なのである。

●「必ず」というストレス

一方で非常に厄介なのが、望んでいない「受動的なストレス」である。人に限らず、生き物が病気になって弱って死んでしまう最大の要因は間違いなく受動的なストレスである。

ストレスというものは一言で言えば「外部から受けた緊張状態」となる。現実的な日常生活においては、最大の要因は他者から受ける人間関係の問題だろう。

社会生活の中では、頻繁に「必ずこれをしてください!」みたいな文章に遭遇する。学校関係でも、実はストレスチェックテストとかが義務づけられており、「必ず、いつまでこのテストを受けてください!」と指示がある。

非常に忙しい最中にこれを言われると、本末転倒で、このストレスチェックテストが最大のストレスになってしまうんだよ! と叫びたくもなる。そもそも「必ず」なんていうものはない。

誰も、他者に強制力を持つ権利なんかない。世の中に蔓延する「必ず」という言葉から知らず知らずのうちに我々は大きなストレスを受けているのである。

言葉の使い方というのは非常に厄介であるし、危険でもある。この類には自分ルールで、都合のいいように翻訳するのがストレスを軽減させることになる。自分の場合は「必ず」というのは「なるべく」の意味でしかない。あと、少なくとも、自分からは「必ず」という言葉は他者には使わないようにしているつもりだ。学生にも、これを期限内に出すと、もれなく単位がもらえるのだよ。くらいのニュアンス。必ず出せとは言わない。誰にとっても選択肢はあるのである。

●森に潜むストレスの元たち

毎日の通勤電車とか、スクランブル交差点なども、他者とのストレスが発生しやすい空間である。しかしながら、変な奴と遭遇してしまうというのは、確率の問題でどこにでもあることだ。これはもう、森の中の危険動物やスズメバチの存在だとか、食べておいしいキノコと、毒キノコの割合だとか、そんな比率の問題なのである。

世界中のどんな場所でも、完全なストレスフリーな環境というものはない。それは、おなかの中の赤ちゃんであっても同じだろう。もちろん、危険度の強弱はあるが。

もし、電車の中で「やばい!」と感じたのなら、車両を変えるとか、混む時間帯を避けるとか、方法はたくさんある。我慢できる短い時間内なのであれば、「私はドナドナ、荷馬車に乗せられ運ばれる」と割り切って心を無にして乗り切るしかないだろう。

相手を同じ人と思うからストレスなのであって、毒蛇の一種であるとか、大きなミミズであるとか頭の中で切り替えていけば、それほどストレスにはならない。嫌だったら、森の中のスズメバチと同じように自分から避ければいいだけなのである。あえて、ハチの巣の前でじっとすることはばかげている。刺されるのを待っているのだろうか? 電車とか街中は森なのである。森にはいろんな生き物がいるのであるから森なのである。

●ストレスの原因と向き合わない

会社や学校、場合によっては家族でも、毎日顔を合わせる人間が苦手なタイプで、それがストレスになってくるという場合ももちろんあるだろう。むしろ、こういう固定された場所のストレスパターンが一番面倒だと思うのである。

会社や学校の場合は、例えば転職や転校をしたとしても、また一定の割合でストレスになる人間関係が存在するのは間違いない。これは、先ほどの森の例えとまったく同じだ。

転職や転校を何度も繰り返すと、もうすべてが嫌になってくるだろう。これはとても危険なネガティブスパイラルに陥る。逆に、転職しなくても、苦手な上司が転勤や病気で突然いなくなるということもよくある。いずれにしても、悪い環境というものが永遠に続くことはまずない。環境は常に変化する。

そもそもの大前提として、「人は必ず死ぬ」のであって、ずっと続く「永遠」というものは存在しないのである。ずっと続かないから、安心すればいい。

そして、人の性格というものもまず変わらないものなのである。人を変えようと努力しても無駄なことだと感じる。とにかく、その苦手な人がいなくなるのを、そっと待つのである。

固定された集団の中であれば、嫌な人に意識を向かわせる時間は最小限にして、自分の楽しい仲間とか味方に意識を向けていく時間を多くするのが、その場所での時間をポジティブな方向に向かわせてくれるのだと思う。わざわざ自分から不幸の選択肢を取る必要はないのである。


●「いいね」の数は気にしない

高校1年生の時に文化祭で「拷問の歴史」についての展示発表を行ったことがある。クラスみんなで、いろんな拷問体験コーナーをこしらえて、自分は「ギロチン体験コーナー」を作ったのだが、怖いもの見たさで、ギロチンはかなりの人が集まった。

もちろん、本物ではなく、段ボールで資料を見ながら作成した張りぼてギロチン。刃の首に当たる部分は丸く切り取ってあるので、当たることもないので痛くもなんともないのであるが、寝た状態で、上から刃が落ちてくる瞬間というものは段ボールでもかなり恐ろしいのである。死の瞬間というのは、あっという間のほうが多分楽だと思う。映画でよくあるパターンで、閉じ込められた密室で、どんどん水が溜まっていくとかはもう最悪だ(笑)。

拷問についていろいろ調べていると、歯の神経を突っつくものとか、爪の間に針を1本ずつ刺していくとか、眠くなるたびに顔に水滴が落ちてきて寝れなくなるとか、こういう方がメンタル的には、ギロチンとかよりもずっと厳しいと思う。

何かの本で読んだのだが、囚人のメンタルを破壊する行為として、巨大な穴を掘らせて、翌日からこんどはその穴を埋めるという作業を延々とさせるというのがあるという。自分が頑張っている目の前の作業が、実は何の意味もないということを認識することがメンタルを破壊するというのだ。

しかし、これは笑えない。現代人が夢中になっているSNSだって、実は似たようなものかもしれない。「いいね」の数だけ気にして時間を過ごすというのは危険だ。他者が自分をどう思うか以前に、自分自身の内面のもっと大事なことを見失わないようにしたい。

繰り返しになるが「受動的ストレス」は人間を破壊してしまう。でも、捉え方次第でストレスは軽減できるのである。その一方で「能動的ストレス」は人生を楽しむツールとなるのである。うまくバランスをとっていきたい。


2022年10月1日更新


●ストレスを軽減するデザイン。
すべて新作です!




▲その1:玄関先のストレスを軽減する。

玄関椅子」「靴ベラ」(ミマツ工芸) 「玄関椅子」は、玄関先でちょっと座りたい時があるけども、椅子を置くほどのスペースがない場合に大活躍。白木の質感が、爽快な雰囲気になります。座面は畳で、さらっとした感触です。内部は収納スペースで、折りたたみ傘、スリッパなどが収納できます。同じ雰囲気の「靴ベラ」も、倒れない工夫がされているスタンド付きのデザインで場所を選びません。(クリックで拡大)




▲その2:おいしいものをおいしく食べてストレスを軽減する。

秋刀魚皿」(唐津焼/鏡山窯) いつの間にか高級魚になった秋刀魚は、これから最大の重要イベントでもある。これは日本人で良かったと思える瞬間であり、日本人の美学だ。世界で日本だけなのである。頭や尾が皿からはみ出ないのが、サンマ様に敬意を払うということでもあります! 唐津焼 鏡山窯とのコラボです。サンマのためだけにデザインしてみました! これは舞台デザインです!白粉引の質感が最高なんですよ。キリっと冷えた日本酒と一緒にどうぞ。(クリックで拡大)




▲その3:植物が部屋にあるだけで、ストレスは軽減する。

石と水」(伊万里焼/青山窯) 現代彫刻として部屋のインテリアのアクセントになるオブジェですが、実は花器としても使えるデザインです。散歩の途中で近くの雑草ですら、ちょっと差し込むだけで気持ちが落ち着きます。さりげなさと、日常のちょっとした一工夫で、空気感は一変します。伝統産業でありながら、CADで曲面設計しています。(クリックで拡大)













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