●嗜好品の魅力と魔力
最近特に感じるのが、体調管理や健康維持も大事な仕事の一部であるということである。
これは、年齢関係なく仕事の責任の度合いに比例してくることだと思う。とくに、代理人の存在しないフリーランスにとっては、健康管理は極めて重要でダイレクトに仕事に影響を及ぼす。日程関係がタイトな依頼では、日々健康で万全の状態を維持できなければ大損害をクライアントにもたらしてしまうだろう。
お酒、たばこなどの嗜好品は、気分は一時的に良くなるような気がするが、仕事の質を向上させているとは考えにくい。身体にも決して良いとは言えないので、止められるのであれば止めたほうがいい。過去にもたくさんのアーティストがドラッグなどの依存物にはまってしまっているが、そういった時期の作品って、決して良いものが生まれているようには思えない。
過去の自分の作品を越すための、とてつもない重圧からくるストレスを回避するための逃避だろう。だから、逃避としての目的ならば、有効かもしれないが、創作活動の質を考えるとどうも逆効果な気がする。仮に効果があるとしたら、眠気覚ましのカフェイン入りのコーヒーなどだろう。
●禁酒してみた
今回、何故禁酒の話かといえば、自分の場合は、コロナの影響もあって家で飲むお酒の量が増えてしまったことにある。同時にお酒の耐性も強くなってしまい、どんどんと強いものを飲むようになってしまったのである。事務所の冷凍庫にも強い蒸留酒が入っていたし、水代わりに缶酎ハイみたいな日常になっていた。なんとなく、午前中から飲みたい気分が続いたので、これはまずいと思い立ったのである。
そもそも、人間の構造って、人間は口から始まる「一本の管」なのである。刺激の強い液体をそこに流し続けて、絶対に身体に良いはずがない。とくに、消化器系の医師はみな口をそろえてアルコールの害を唱える。
ふと、アルコール中毒が気になってきて止めてみることにした。期間限定ではあるが、状況次第で、このままずっと飲まないかもしれない。もはや「昨日朝まで飲んでいた!」ということは自慢にも何もならない時代なのである。
しかしながら、身体に良くないのが分かっていても、「禁酒」「禁煙」など、依存性の高い嗜好品を絶つのはとても難しい。始めるきっかけは、周りの友人に合わせて気楽な感じで習慣化したとしても、その習慣を終わらせるとなるとかなりの努力が必要だ。それでも、禁酒は禁煙に比べると多少は楽なような気がする。レストランやスーパーでもノンアルコールのお酒が増え、ビール風飲料でも数種類が選択できる時代だ。同じような色味と風味の液体を飲んでいる限りは、宴の場がしらけるようなこともない時代だ。
アルコールは煙草とは違って、とにかくそれっぽい代替品がたくさんあるのが救いだ。そして、レストランでもノンアルコールのペアリングがとても楽しい時代に変わってきているのである。これはこれでとても嬉しい。
●酔っぱらいの本音
そもそも、アルコールを飲むとは何だろうか? お酒を飲むという習慣は世界中に存在している。そしてその歴史もかなり長い。例外としてイスラム圏では法律でお酒が禁止されているが、それが当たり前だと思ってしまえば、旅行中も別にお酒なしで過ごすことができてしまう。もちろん、イスラム圏では現地でのテレビCMで、のどごしすっきりのビールのグビグビプハーCMが流れることもないので、その存在すら、いつのまにか忘れるというのも大きい。
だから、禁酒したい人はテレビを見ないという方法も有効だと思う。そう考えると、ダイエットしたい人もテレビは見ないほうが楽だといえる。潜在意識にすりこまれるというのは怖いことだ。あとは、お酒もたばこも、税率がとても高く国の重要な資金源となっているという仕組みだ。これはこれで、他にも所得税とかで高い税金を納めているのであれば悔しいではないか。人が、お酒を飲む理由として、緊張感を緩める効果を求めているのがほとんどだろう。しかも、現在の日本においては、缶酎ハイもウイスキーもなんでもコンビニで簡単に手に入る。
お酒を飲めば、その後眠くなったり、たくさんしゃべりだしたり、怒り出したりと、飲酒反応は人さまざまである。緊張が解けて、本音が出やすくなることが、何か大事なことを決めるときに、本心を引き出して会話をする必要性から、飲酒を伴う席が用意されるのもよく分かる。ただ、どんな場合にせよ、本音とはいっても人の愚痴や悪口は、あまり聞きたくない。とにかくその時間がもったいないし、気分が悪い。
人の顔をよく観察していると、この人は毎日かなり飲んでいるなと思われる人の瞼って少し厚ぼったく下がっている傾向が強い。日本の神様って、例えば七福神の大黒様とか恵比寿様ってそんな顔つきだと思う。いつも目を細めたニコニコ顔で、何人かでいつも集まっておいしいものを食べて、お酒を飲んでいるようなイメージが強いのである。
漫画家の赤塚不二夫さんも、写真で見る限りはそんな顔だったと思う。赤塚不二夫さんの事務所には焼酎のサーバーが常備されていて24時間飲んでいたという話は有名である。でも、作品としては赤塚さんの初期のほうが個人的には好きである。だんだんとすさまじい手抜きになってきて、子供ながらに驚いた記憶がある。
話はそれてしまうが、個人的には阿修羅像のようでありたいと常々思っている。興福寺の仏像が持つ、鬼気迫るオーラには惹かれてしまう。仕事や趣味では、あのくらいの覚醒した緊張感を保ちたい。大黒様にはなりたいと思わないのである。
日本という国はそんな神様のせいかどうかは分からないが、酔っ払いに寛容である。花見は、国が公認する、世界でも稀な酔っ払いの屋外宴席かもしれない。駅で酔っぱらって寝ていて、犯罪に巻き込まれないのって、日本くらいだと思う。酔っ払いにここまで寛容な国は本当に珍しい。いいのか悪いのかよく分からないが。それだけ、日本人と酔っ払いの緩やかな関係性は世界でも特殊な不思議な国なのである。
●禁酒で仕事クオリティは上がるか?
この原稿書いている現在、断酒してもう、2か月くらいだろうか。まあ、ごくたまに少しだけ口にすることもあるが、すぐ顔が真っ赤になってしまうので、そこでストップする。あきらかに、中学生みたいな感じに戻っている。内臓の対応がまた初期化された感覚である。
以前、1週間の断食をしたことがあるのだが、実は水と赤ワインだけにしていたら、他にはなにも摂っていなかったのに、体重が何も変わらなくてがっかりしたことがある。赤ワインがあれば、人間は生きていけるのだろうか? そんなはずはない。いろいろと混乱した。
コロナ前は、毎年7月に「富士登山競争」という過激な登山レースに参加して、頂上ではいつも缶ビールを飲んでいたのだが、強烈なカロリー消費のせいか、まったくと言っていいほど酔わないのがいつも不思議だった。ビールがすぐにエネルギー消費されている感覚だ。お酒のカロリーには諸説あるので、いろいろ調べている最中である。まあ、今は、お酒は現役ではなく、記憶の世界のモノになってきたのであるが。
今までに飲んだお酒の中で、どれが一番おいしかった? と問われれば。答えは即答できる。アメリカ駐在しに飲んだレミーマルタンのルイ13世というコニャックだ。それはとにかく、群を抜いて恐ろしくおいしかったのである。非常に高価なお酒なので、もう飲む機会もないと思うが、とにかく「恍惚」という言葉がしっくりくる。口に入れた瞬間から、小一時間は非常に心地よい気持ちになった記憶がある。ただ同時に、吸い込まれるように現実世界から遠のいていく感覚も続いた。何となく危なっかしいのだが、それが魅力、それが嗜好品である。お酒の記憶としてはもう、その1回で充分かもしれない。
いろいろ書いてきて、でも、また飲みだすかもしれないが、まずは人体実験としてしばらくはお酒を止めてみようと思っている。デザインのクオリティにどう影響するのか? 自分でも楽しみである。
ジャッキー・チェンの「酔拳」というのがあるが、あれはエンターテイメントの世界であって、断酒中の立場の人間にとってみれば、飲んでいる人よりも飲まない人のほうが強いと信じたいものである。はたして、今後の自分の仕事にどう影響してくるのだろうか。
2022年4月1日更新
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▲初めてデザインした酒器セット。これは岐阜県の多治見で作ったモノで、グッドデザイン賞を受賞し、「コマーシャルフォト」の表紙にもなりました。(クリックで拡大)
▲現在もロングセラーのヒット商品「木本硝子のエスシリーズ」。日本酒グラスの1つの最終形状を構築できました。(クリックで拡大)
▲こちらも大人気の錫のデキャンタセット。能作より販売中のエスラインシリーズです。お酒の味がほんとうにまろやかになります!(クリックで拡大)
▲エスラインシリーズをデザインした時のイメージレンダリングです。Rhinocerosからキーショットレンダです。ほぼ、この手法で最終まで走ります。(クリックで拡大)
▲ドンペリ専用クーラーをデザインするために、まずは、ミニチュアのドンペリを作成。この作業はわくわくする。(クリックで拡大)
▲まずは3Dプリンタで小さいサイズで検討。ボトルの角度や収まり具合をミニチュアで確認し、原寸での試作に入ることで、時間のロスが減る。(クリックで拡大)
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