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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その36:断捨離の最後に残ったモノ

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

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[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



●本はデジタル化して身軽に

断捨離に関しては、今までも何度か書いているのだが、断捨離の一番の目的は、本当に必要で大事なものが何かを発見再認識できること。そして、スペースが空くと、自由に動き回ることができるエリアが増えて行動力がアップする。

そんなこんなで、もう長い年月ずっと断捨離をしている。
きっかけは、『ガラクタ捨てれば自分が見える』という本なのであるが、もちろんこの本は断捨離対象ではないのでずっと手元にある。しかし、それ以外の本は徹底的に断捨離して、キンドルで必要なものだけ買い直してデジタル化させている。問題は、大好きな三島由紀夫とかサブカルチャー系、そして写真集にデジタル化されていない書籍が多い。これは時間が解決してくれると願うしかない。自分のPCの画面が50インチなので、写真集などはぜひ大画面でゆっくりと鑑賞したいものだ。

本というのは、見た目以上に重さがあってブックオフに行くだけでもかなりの重労働になる。その手間を考えれば、もうあまり本は増やしたくない。以前は、プロフィール写真の背景に書籍が並んでいるのが、知的ステイタスの時代もあったが、それも変化してきていると思う。むしろ大自然の中で、のんびりと寛いでいる姿とかのほうが格好良かったりもする。

ということで、紙媒体は基本はすべてデジタルに置き換えている。仕事上でのスケッチも大事なものだけスキャンして、現在進行形のプロジェクト以外は即処分するようにしている。おかげで、デスク回りは非常にすっきりとしている。あるのは、白紙のコピー用紙の束のみ。これがあると、常に前方向のみに向き合うような気分がしてすっきりとした気持ちで仕事に向き合える。ただ、紙にスケッチを描くという行為自体は、デジタルに置き換えるとどうもしっくりこないので、当分は変わらないと思う。オリジナルはやはり紙なのは変わらない。

●朝は脳内を白紙に

ソニーにいたとき、尊敬する先輩の1人が、いつも退社時に机の上をきれいに片づけて、真っ白な机の上に観葉植物のポトスだけ置いてあるのがとても印象的で、翌日の出勤時にそのすっきりした机でコーヒーを飲みながら煙草を吸っているのを見て、かなり影響を受けたことがある。人が睡眠をとる理由も、いったん脳内を清掃して、すっきりした気分で1日を始められるように仕組まれているのではないだろうか。

特に、デザインという作業は新しくモノやアイデアを考える仕事なので、脳内も環境も、白紙に近いほどクリエイトできる作業領域が広がっているようなアドバンテージを感じる。実際に仕事に取り掛かれば、いろんなサンプルなどで机の上は混雑はしてくるものなので、せめて作業前には何もない状態で1日の段取りを組む時間を確保したい。結局は1日の取れ高がその開始の状況で変わってくる。

人間、どう頑張っても死んでしまえば何も持っていくことはできない。洋服も、1年間着なかったものは潔く処分する。ここに感情を持ち込んではいけない。事実だけで判断すれば処分は簡単なことである。CDもハードディスクに移すか、iTunesで買い直すかして処分。音楽は、ハードディスクやSSDのデータで聴く。音質はある程度妥協しても、持ち運びや検索が圧倒的に楽だ。

自分の場合、その反面、楽器だけどんどん増えているのが矛盾しているが、これは、毎日使うのでどうしようもない。靴みたいなものだ(笑)。靴に関して言えば、冠婚葬祭用、仕事用、ランニング用、レース用、サンダル、長靴と最低各一足はやっぱり最低限必要なのである。これは勝手な言い訳かもしれないが(笑)。

●外出時の持ち物も断捨離

いろんなものを断捨離していくと、最低限必要なものは、財布とスマホと充電ケーブルだと気づく。出張時も最低これだけあればどこに行こうが何とかなるものだ。

あとは、最軽量80グラムの折り畳み傘とモンベルの超軽量タオル。このタオルは本当に便利で、大きいサイズのものを選べば、バスタオル的な使い方までカバーできるので、外出中にちょっと気分転換したいときに、そのまま銭湯に立ち寄ることもできたりと、とても重宝する。ポケットに入るバスタオルである。高城剛さんもこのタオルを絶賛していたことに後で気づき、「やっぱりそうか」と腑に落ちたこともある。

よく、1泊のスキーに行くだけなのに、シャンプーリンスボトル丸ごとに、ドライヤーまで持ってくる人がいるが、それの正反対の考え方だと思う。ちなみに自分は、日焼け止めとかの類は、小さなジップロックにほんの少し入れて持ち歩くようにしている。これで十分だし、とにかく軽くてかさばらない。持ち物を軽くすることで、自分の移動範囲が広がるものだ。この考え方は、山やバックパッカーで学んだこと。旅の経験が増えるほど、持ち物が少なくなってくる。そしてそういう旅人の表情は余裕があって、みな楽しそうに見える。そもそも、モノを運んで移動させるということ自体が労働である。ネパールの山岳地帯だと、ビールやコーラを人が奥地に運ぶことで報酬がもらえる。報酬がないのであれば、身軽がいい。

●肉体的断捨離と捨てられない絵本

重量を軽くすることが自由度に比例するという考え方で言えば、当然ながら肉体的な断捨離も極めて重要である。マラソンレースはつい最近まで現役選手だったので、体重とタイムの関係は体に染みついている。階級制の格闘技とかも同様だと思う。ボディビルダーのあの食事制限のストイックさは半端ないが、あれも筋肉を表現するには脂肪をなくさないと見えてこないというシンプルな法則がそのベースに存在する。僕の場合も、免疫が下がらない範囲で食べ物には気を付けているのだが、はやり糖質に関しては制限することがとても効果的な気がする。身体の重量もケアして、心肺系と筋力系を鍛錬さえしておけば、ケガをする確率も減るし、間に合わない電車に間に合ったりと、そのメリットはとても大きい。

そんなこんなで、いろんな断捨離をしてきているのであるが、どうしても処分できないものがある。それは「絵本」。絵本だけはどうしても処分する気になれない。ページをめくるあの感覚と、ページをめくった後に現れてくる次の世界の展開の楽しさ。これは、デジタルではどうしても味気ないものになってしまう。絵本だけは、自分にとって本当に必要なものなのかもしれない。

最後に、自分の大事にしている絵本を数冊紹介して今回のコラムは終了です。おすすめのものばかりなので、時間があればぜひ読んでみてください。このほかにも、まだまだおすすめの絵本はあるのですが、今回はひとまず4冊をご紹介。

・『FLOTSAM』 DAVID WIENSER(日本語版『漂流物』BL出版)
海辺に落ちていた、カメラのフィルムを現像してみると、そこには長い年月を経た世界が展開していく。カメラと時間という結びつきがノスタルジックな名作。とにかく、絵が美しく、物語の展開が映画のように繰り広げられる。洋書ではあるが、絵のみで言葉はない。

・『とらのゆめ』 タイガー立石(福音館書店)
ダリやエッシャーのようなシュールな世界観。形の変化や反射の世界などデザインのヒントとなる要素もたくさん詰まっている。グリーンのトーンが独特な雰囲気を醸し出している。

・『ふしぎなえ』 安野光雅(福音館書店)
自分が幼稚園時代から現在まで読み続けている唯一の絵本。小人たちがエッシャーのような不条理な世界を歩き回っている。ディテールがしっかりと描きこまれているのが特徴で、1つの絵を延々と長い時間眺められる。ものすごく影響を受けた1冊。この本も絵だけで言葉はない。

・『給食番長』 よしながこうたく(好学社)
これは比較的新しい本なのだが、ものすごい爆発力をもった絵に圧倒される。悪ガキと給食のおばさんとの対決の話なのだが、最後はいい感じで終了する。人物の表情とか構図がド迫力でかなり笑える。意味不明の小動物が小さく登場するのも良い。。


2021年8月1日更新




▲上から絵本『とらのゆめ』『FLOTSAM』『ふしぎなえ』『給食番長』の表紙。(クリックで拡大)











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