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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その25:「デザインを教える」前半/技術編

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



いつも自問自答している。

「デザイン」を教えるということを。難しい課題であるのは間違いない。少なくとも、それは、自分のコピーを量産することではない。なぜならそれは、個人がそれぞれに異なる自分自身の内面を引き出していく行為ではないかと思うからである。人それぞれ、その内面世界は未知でまったく異なる世界が広がっている。まるで宇宙のようだ。

デザインは、デザイナーそれぞれの個性の特徴が違うからこそ楽しいのである。だからこそ、教えるということは、皆の引き出しの数を増やしたり、引き出しの金具にオイルを足して引き出しやすいような潤滑油のようなものかと思っている。

デザインを教えるという側面で言えば、現在は自分自身の時間の1/4くらいの割合で、自分の作家活動以外に大学でデザインを指導している。トータルではもう延べ時間では12年以上になるのだが。

僕が具体的に学生に何を教えているかと言えば、大きく2つある。1つは、デザインをするのに必要な技術。そしてもう1つは「デザイン」の見つけ方なのである。

●スケッチの本当の意味

デザインするのに必要な技術に関して言えば、音楽家にとっての譜面の読み方であったり、楽器の使い方、その調整方法。料理人にとっての、包丁の使い方から道具の収納方法、お皿の洗い方などなど。まず、それができないと次に進められない。

いわゆるデザインするのに最低必要な技術に関しては、大きく「スケッチ」と「CAD」であるが、これが3年生になってもまったくできていない学生が多く、とても閉口する。「私、絵が下手なんです!」とか「私 CADが苦手なんです。」とか。

絵に関して言えば、下手でも僕としてはまったくかまわない。要は「伝わる絵」を描けるかどうかなのである。「伝える」のは必ずしも第三者とは限らない。むしろ「自分自身」に伝えるという目的のほうが重要だろう。デザイン作業に入り込んでいると、いろいろなアイデアが頭の中を通り過ぎていく。その想像世界の無数の魚群の群れのような中から、「これは気になる!」みたいなものを現実世界に一本釣りするようなものなのがスケッチなのである。

そして、スケッチとは、その現実世界に物体として引き下ろすスピードが命なのである。ちょっとでも、時間を空けてしまうと、「あれ…さっき、頭をかすめたのはいったい何だったんだろうか?」という感じで忘却の彼方に消え去ってしまう。ほぼ、経験的に、2度とそれはやってこない。ちょっとでも現実世界に残されたメモスケッチさえ残ってさえいれば、作業としてそれを膨らませたり、展開させることができる。「空想世界」と「現実世界」とを結ぶ紐づけのような役割がスケッチなのである。

デザイン思考の過程におけるスケッチとはそんなものだと思う。だから、道具としては、そこらに転がってる安いメモ用紙でもいいし、筆記具も口紅でも石と地面でもなんでもかまわない。まずは描き残すことが最も大事で、それらを第三者に説得材料として見せる場合は、それを別なタイミングで時間を掛けて仕上げておけばいいのである。

まあ、ある程度のスキルがあるデザイナー同志であれば、そのメモスケッチレベルでも意思疎通は十分にできるはず。まずは、恐れずにアイデアを描き残すということが肝なのだ。下手で全然かまわない。伝わればいいのがスケッチ。

ちなみに、僕の場合は初回のクライアントとの打ち合わせ中に、スケッチを同時進行して、ほぼ翌朝には完璧なレンダを送付してデザイン完了という離れ業を実行している。打合せの小一時間で、自分ではない、「スケッチ」から自分に指令が下されるから。あとは指令に従って仕上げていけばいい。これはほぼ、クライアントが絶句すると同時に、残りの時間をお互いに有効に使えるので相当に喜ばれるし、仕事もリピート率が異常に高い。もちろん、成果物のクオリティーはMAXレベルであるのが条件であるが。

●CADは当たり前のスキル

そして、スケッチと同等、いやそれ以上に必須なのはCADである。建築士の資格試験のようなものがプロダクトデザインには存在していないというのもあって、デザイン作業におけるCADの重要性が学校教育の中では、実はいまだに浸透していない。学校の中は、はっきり言えばガラパゴスだ。世の中の実務のことを知らなすぎる。もちろん、いい面もあるけども、身に着けるべき技術の時差は20年以上のずれがある。この就職難の中、仮にデザインができなくてもCADさえできれば、食っていくことはできるのである。

もし、僕がプロダクトデザインの資格制度を考えるなら、まずCADでの基礎技術のクリアだと思う。3次元での面張りさえある程度できれば、そのデータから2次元図はボタン1個で瞬時にでき上がるし、その3次元データの使いまわしは、設計とのやり取りから、3Dプリントモデルの作成、リアルレンダ、アニメーション、広告媒体と限りなく有効なのである。これほど、使いまわしが広範囲で可能なものは他にはない。

実務での契約もデータ納品で形式はSTEPとするという明記がほとんど。そんな必須項目のCADであるが、プロでも学生でも実際のCAD作業で行き詰まってしまう時というのは、「この形を作りたいのだが、どうしても面が張れない!」というケースだ。もちろん、自力で解決できればそれが一番なのであるが、学生が一週間悩んだ面張りも、僕にメールでデータを送ってもらえれば、5分で張れてしまう。

デザインは常に、締め切り時間との闘いである。悩む時間は上手く合理的に、CADの得意な友人や教員に聞くのがおすすめである。これは、自分自身も、ピンチの時にCADのエキスパートにかなり助けられているという経験もあるから言えること。

このコロナ禍の中、実はCADのチュートリアルの動画を作成してYouTubeにUPした。学生たちには、とにかく繰り返し見て、同じものをまず作って。それができたら、今度は少し自分流にカタチを変えたり、色を変えてみて。という指導をしている。対面でないにもかかわらず、凄まじいスピードで連中のスキルが向上した経緯がある。

習い事に関して言えば、繰り返しがやはり大事なんだなあと痛感している。その繰り返しのリズムって、人それぞれ違うから、自分のピッチで繰り返せばいいのである。無理のないピッチでスタートして、自分自身と対話しながら速度をじわじわと上げていければいい。これは、ランニングでも楽器でもまったく同じ。とにかく、この繰り返しYouTubeは非常に有効だったので自分でもびっくりしている。

逆に言えば、リアルタイムのZOOMだけでは不十分ということ。習得に重要なのは「リアルタイム」と「リピートタイム」のバランスなのである。YouTubeとの併用で、はじめて遠隔学習の効果が発揮されるのである。このコロナ禍の中、自分でもこのあたりの教育スキルは、かなり勉強になっている。

さて、もう1つの重要な「デザイン」の見つけ方なのであるが、長くなってしまったので、来月にしましょう! コロナに負けない。


2020年9月1日更新




▲筆者を囲む学生たち。(クリックで拡大)





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