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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その9:デザイナーの腰痛問題

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



デザイナーで腰痛で悩んでいる人はかなり多いのではないだろうか? 自分も、ひどい腰痛で悩まされていた。高価な椅子がいいのかと高機能チェアを繰り返し購入して、10年近くもかなりの散財してきた(笑)。

しかしながら、どんなに高機能な椅子でもデザイナーの慢性腰痛を解消することは難しいとの個人的見解に至っている。ではどうしたらいいのだろうか? これから書くことは、個人的な腰痛対策である。実際、これらを実践して腰痛に関しては三十代の頃よりも現在のほうが大幅に楽な状態である。何らかのヒントにしていただければ幸いである。

●その1:体幹を鍛えること

ただでさえ不健康なデザイナーであるが、運動不足を放置していくと取り返しのつかないことになる。普通に考えて、長時間同じ姿勢を保つとどこかに負担が生じるのは当然だ。局所的に血行も悪くなり、筋肉に酸素が回らない。それを解消するには身体を動かすしかない。

運動は基本的には良い、というか必須項目ではないだろうか。水泳、散歩、ランニング全般。あと、ボルダリングも肩の筋が伸びるのでデスクワークにはおすすめできる。自分の体重を意識できるスポーツでもあるので、ダイエット意識向上にも役立つと思われる。

しかし、要注意の例外がいくつかある。例えば、水泳の平泳ぎ。平泳ぎの体勢は実は腰に大きな負担がかかる。クロールや背泳ぎは肩回りがすごく楽になるので良い。バタフライもいいが、長時間できる泳ぎではない。最低でも20分は連続して泳ぎたい。。

腰痛に良くないといえば、サーフィンのパドリングの反り腰の体勢も実はよろしくない。ストレス解消には波乗りほど素晴らしいスポーツはないのだが、腰のことを考えるとケアが必要だ。この辺のバランスが難しい。

僕の場合、ランニングを日課としてもう、10年以上続けている。昼休みに、近くの公園を70分程度音楽を聴きながら走る。ハムストリングス、起立筋、大腰筋が鍛えられて腰痛防止にかなり役立っている。自然の中にいること自体が気分転換にもつながっている。

根性系でおすすめは、プランクだろう。腕立て伏せのポーズでじっと耐えるやつ。短時間で体幹を鍛えるのなら超お薦めであるが、気合が必要なのが難点。こちらはタイマーがセットになったアプリもあり、ここ2年ほど、毎日3分間はノルマとして継続している。

でも、やっぱり運動は苦手だというデザイナーも多いはず。そんな人は、5分だけ、スワイショーという中国のリラックス運動がおすすめできる。これはYoutubeにたくさんアップされている。気の流れが改善されるので、メンタル的にもいいと思う。 他人の視線がやや気になるが。

あとはバランスボールを使って体をほぐすなども、運動の敷居を低くしてくれる方法だと思う。肝心なのは、継続力のみである。毎日続けられないのならば、意味はないのだ。 続けられるものを選ぶこと。


●その2:ひじ掛けを天板にした前傾姿勢

デザイナーの作業の基本は前傾姿勢と認識するべき。自分の場合は、パソコンでのCAD図面作成とプレゼン資料作りである。そのため、マウスとキーボードに同時に長時間向き合うことになるのだが、この姿勢でのポイントが実は、肘を置く場所の面積の広さ確保なのである。椅子に浅く腰かけて、上半身の重心はかなりの割合で、肘にかかってくる。 その時に肘を置くエリアの自由度がとても大事。これは、右手のマウスの動きとも連動する。

一般的なオフィスチェアについているひじ掛けだと、どうしても、机の天板と高さが干渉してぶつかってしまい椅子を引けないストレスを感じる。そこで思いついたのが、まずは机の天板を身体がすっぽり入るように切り欠いてしまうのだ。 そして椅子は、ひじ掛けのないものを使用するか、ひじ掛けを外して使うのである。このアイデアは病院の妊婦さん用のテーブルからヒントを得たのだが、PCでのハードワーカーにも最適である。

この体勢だと長時間の前傾姿勢が驚くほど楽になってくる。写真は長年愛用している自分の作業環境だが、このオリジナルの天板のおかげでとても快適に作業ができる。当時は東急ハンズで図面を持っていけば、きれいにカットしてゴムのテープを巻いたものを納品してくれた。ポイントは、自分の身体の腹部アウトラインのサイズぎりぎりまで天板をカットをすることで、身体が天板エッジに均等にフィットするという点。だから、余裕がありすぎてガバガバでは効果がない。荷重が少しでも、腹部と肘に分散されるとそれだけ腰にかかる負担も軽くなるのである。

クッションをエッジ前面に取り付けるのもありだと思う。よく、クイックマッサージの椅子で身体の前面を支える構造のものがあるが、あれも考え方は同じである。オリジナルのカットの天板は実は、3回ほど作り直して現在に至っている。細かい形状やRの加減は企業秘密である(笑)。

アーロン、イプシロン、メダなど、高機能の椅子もさんざん試してみた。リクライニングの姿勢は本当に楽なのであるが、自分の場合はデザイン作業には向いていなかった。いつも気が付くと、ひどい猫背のままで亀のように首が伸びてしまっていたのと、ひじ掛けがテーブルにぶつかってしまい距離感がしっくりこなかった。

椅子に関して言えば、自分の場合は重量が軽くて座面が短く、背もたれは極力低く、骨盤だけしっかりホールドできるものがいい。ハムストリングスは椅子より前方にはみ出して自由に動けるほうが絶対にいい。座面の奥行、長さは24センチもあれば十分だ。背もたれはとても低いから、30分に一度は図面から離れる時に腹筋を使って後ろに反りかえりたい。自分にとっては、背の高い背もたれや枕は作業用椅子にはまったく必要ない。ところが、自分の作業環境にあった理想の椅子はほとんど市販されていないのが悲しい現実である。

お気に入りのバーカウンターの椅子を改造して、さらにキャスターを装着したりすれば、自分の理想に近い椅子ができるかもしれない。チャンスがあれば、ハードワーカー用に前傾姿勢のシステムをデザインしてみたいと思っている。さらに未来像としてはプラネタリウムのようなモニターとかほしいな。絶対に効率よいし、カッコいいはず。

現在は、あきれるほど安い椅子を改造して、背もたれを低く付け直して使っているのだが、この3年くらいはこれでちょうどいい。安いものが一番良かったという皮肉でもある。市販品では、アユールチェアというのがあるが、これも浅く骨盤をしっかりホールドできるのでおすすめである。個人的な好みもあると思うので椅子購入に関しては、実際に店頭で座ってみることを強くお勧めする。

腰痛改善には、自分自身の身体を鍛えることと、椅子とデスクの調整の2つしかない。しかし、この2つで自分の場合は腰痛問題は完全に解消されて現在に至っている。毎日のことだけに、作業環境のストレスは最小限にして作業に集中したい。雑念はデザイナーにとっては大敵だろうし。



2019年5月1日更新




▲澄川氏のオフィスのデスク周り。くりぬかれたデスクと小さな椅子が特徴的だ。(クリックで拡大)



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