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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その7:「プロのインダストリアルデザイナー」には何が必要?(後半その1)

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



後半はデザイナーにとってのライフラインともいえる、CADとセンスの話です。まず今回はCADに関して。

●CAD力
もし、自分が建築家や医師免許のようにプロダクトデザイナーの必須資格のようなものを設定するとしたら、CAD力をまず筆頭に挙げると思う。

CAD力は、アメリカ留学における英語の基礎力のようなものであり、パスタ屋さんにおけるフォークであり、ラーメン屋さんにおける割りばしのような存在である。使えないと話にならないのである。逆に使うことができれば、どこの国のどんな設計者とでもコミュニケーションが取れる。

少なくとも、三次元CADを自由自在に扱える能力があれば、アシスタントとしてすぐに機能できるし報酬だって発生する。

扱えるというのは、例えば、手で削って作成した発泡モデルなどを目の前にして、ゼロから面を正確に張っていく手法で造形物を再構築する能力のこと。以前、レクチャーでも紹介したことがあるのだが、例えばサイコロのような立方体があるとする。もちろん、立方体コマンドで瞬時に作成することも可能なのだが、話はそういう次元ではない。

実際は立方体の作図方法は1つではなく、少なくとも6種以上のプロセスが考えられる。デザイナーはそれらのプロセスの中から最終形状の処理に一番適合する面の張り方で造形しなければならない。最適なプロセスの選択はもう、いろんな造形で経験則で身に着けるしか方法はない。面を張る手順を間違えると、造形も行き止まりに直面してしまう。その場合はまた、振出しに戻る。この、戻りの回数が少ないほど効率が良いのは当然だろう。

これらはすごく大事なことなのだが、教育の現場でもなかなかこういった情報は共有されていない。私も電車の中で面の張り方を頭の中で考えている時間がよくある。別にPCの前でなくても、面の張り方を考えることができる。 だから三次元的な空間のとらえ方と、幾何学的な知識さえあれば、面はいつでもどこでも張れるのだ。私の場合は、だいぶ前から、納品物はSTEPデータと表面処理の指定一式がほとんどだ。

以前は、二次元の三面図の原寸図の提出ということもあったが、そもそも、三次元のデータから三面図の出力自体がコマンド1つで数秒で完成する時代である。三次元データが含んでいる情報量は圧倒的に二次元図を超えるし、三面図における半径寸法やフィレットの数値自体もあまり意味をなさなくなってきている。寸法は割り切れない端数、例えば、3.33333333であろうが問題はない時代なのだ。むしろ、数値に置き換えることで情報量が減っているという概念に切り替わっている。

そしてイメージ作成も、もはや二次元のIllustratorではなく三次元のKeyShotの動画でプレゼン資料として十分過ぎるものができ上がる。

KeyShotはとても便利なリアルタイムのレンダリングソフトである。数秒で細かな表面処理の色や材質、光沢やブラストの風合いまで簡単にコントロールできる。アニメーションもとても簡単にできるのでお勧めである。授業でさわりだけ解説すると、面白がってのめりこんだ学生が高度な動きの動画を作ってきて驚かされることもよくある。基本的にデザイナーはマニュアルを読むのが苦手な人が大半だろう(笑)。

KeyShotの表面処理のマテリアルはオリジナルのマテリアルパレットを作製しておくととても効率が良い。しかも、日々新しいかマテリアルと環境がダウンロードできてそのまま使えるのも素晴らしい。
※興味のある方はこちらを参照
https://cloud.keyshot.com/


●CADは世界の共通言語

三次元CADは現在の世界中のモノ作りにおいての共通言語であり、もはやこれなしには考えられない。デザイン工程の上流から共通認識でカタチを進められるメリットはとても大きい。

そして、意外と思われるのが、伝統工芸産業の産地で、CADでのモノ作りがかなり浸透していることである。有田焼や旭川の木工業者など、実はとても高度なスキルでCADが使われている。むしろ、地方ほど進んでいるといっても過言ではないだろう。3Dプリンタの普及率もとても高い。

一見保守的に感じられる伝統産業ほど、実は常に最新の技術を取り入れることでそのクオリティを保っているのである。だから、とっても職人さんとの意思疎通の話が速くて正確だ。CADと3Dプリンタがあれば、地球の裏側でも同時に立体物を出力しながら仕事を確認して進めることが可能な時代なのである。物理的な距離感は仕事の言い訳にはもうならない時代である。

CAD話はまだまだ尽きないのであるが、とにかく一番重要なスキルだ。私の場合は、RhinocerosとKeyShotがメイン。これにPowerPointやKeynoteなどのプレゼンソフトさえあれば一通りの仕事が完結できる。もう、新しいソフトを模索することも考えていない。Grasshopperだけは気になるのだが、脳構造が対応できるかどうか…。以前のビデオテープのVHSとBETAみたいなもので、普及しているフォーマットが便利なのである。学生にもできるだけ普及しているCADを使うようにといつも言っている。SNSをラテン語で書いても誰も理解してくれないだろう。

「プロのインダストリアルデザイナー」には何が必要? というテーマ、後半が2つに分かれてしまったが、次回はセンスについて。

●CADのテクニックや考え方に関しまして、
過去の連載コラムもよかったらどうぞ。
デジタルツールはじめの一歩 Rhinoceros編」(10回連載)
http://www.pdweb.jp/oldpdweb/techniqe/Rhino0904_01.shtml
(左のインデックスから10回分の連載にアクセスできます)



2019年3月1日更新




▲「らせん滑り台」のスケッチ。(クリックで拡大)



▲上のスケッチをRhinocerosでモデリング。(クリックで拡大)



▲KeyShotでレンダリングした画像。(クリックで拡大)

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