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女子デザイナーの歩き方 第87回
似ている 倣う
moviti/片山 典子

[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com


このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。


4月の本コラム(82回)に書いた「東京モノ作りスペース巡り」が9月刊行します。紙媒体でこんなに体当たりは初めてなので、読んでください。

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先月文末でちょっと書き添えた「オリンピックエンブレム」から端を発した一連の件が1ヶ月経ってもネット上では納まってなくてびっくり。面白がって炎上煽ってイジメ目線の文章もあれば、自分のもやもや考えたことをfacebookに書き留めている人もいる。そもそものオリンピック絡みの既得権益への疑問や不支持に依る現象だろうけど、デザインについてデザインより広いフィールドでこんなにオープンに繊細に興味を持たれたのは珍しいんじゃないかしら。気がついたら思い出し描きができるくらいあのロゴが頭に刷り込まれている。

個人攻撃ではない"似てるロゴ"とか"エンブレムレイアウトのおでんのポスター"は単純に面白いね。
http://matome.naver.jp/odai/2143997217760628601

意匠権とは別に、印象として似ていると思うしきい値はどのあたりなのか、人間の画像認識能力を感じる。

ざっくり私の見解、ノベルティのトートバッグの柄に関しては「クリエイティブ活動としてもビジネスとしても」ルール、マナー違反な事例のようですな。まんま無許可コピペですかね、描きなおせば済むだろうに。デザインとしては個々の絵柄への執着よりも「軽やかで可愛くてクスっと笑うキャッチコピーのようなグラフィック」であることがオリジナリティ(今風の方向性だが、すごく難しいと思う)なんだろうけど、それで上がったハードルに悩んだあげく、いろいろ怠ったという風に見える。

それにしても「パクリエイター」とは非常にパワフルでキャッチーで破壊的な言葉が生まれたもんだ。言霊の力は怖いからね、負のエネルギーに引き込まれないように気をつけよう。

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デザインの要素には“操作性、機能性”の他に「オリジナリティ」と「秩序を与える」がある。人が美しいと感じる、皆に支持される美しさの幅は意外と狭い。整って見易いものは左右対称、揃え、等間隔、黄金分割、幾何形態等の法則に則って作った方が「好まれる良いデザイン」の打率アップへの最短ルート。既視感とか共感、「~らしさ」の上にちょっと新しさや洗練を感じるのが狙い目。フリーハンドのドローイングでオリジナルな線を抽出したとしても、どこか1960年代の巨匠の線や北欧デザインのテキスタイルに似ていたりする。

学生の頃の課題制作のときから折りをみて「自分が好きなデザイン」「課題テーマのイメージソースになるデザイン」のコラージュをしていた(当時は雑誌を切り抜き)。今ならevernoteとかTumblerとかでやる作業。ぱらぱらデザイン雑誌を見流すよりもだんだん集めていくと自分で「自分の好きなデザイン」の傾向が発見できてくる。なんでその写真を選んだのか、自分で考える。それを机の前の壁に貼ってインスパイア(触発する、鼓舞する,激励する,発奮させる)されつつスケッチを描く。「もしもブラウンがコードレス電話を作ったら」とか。漠然と自分の少ない経験や持ち玉、言葉のイメージだけで探索するよりも、方向性やキモ、ディテールと全体を俯瞰できる。作業途中でも他の人とディスカッションの材料にしやすい。それはマネやパクリ目的のコラージュではない。参考とか目標かな。

デザインする対象、アイテム毎の踏まえておくべき定石というか、デザインのクオリティアップの近道というか、「~らしさ」も大事。カメラならボディの上下センターに内接に近い大きい径のレンズだと良い写真が撮れそう。携帯電話は左右対称のキー配置でないとなんか落ち着かない。他社品の精緻感があり小さいのに操作性のいいツマミのローレットのピッチや角度を測って図面化したり。倣う、真似ることで吸収できることは多い。さじ加減が大事。

不思議なのが"ゆるキャラ""地方の市章"とか、第三者が見たら同じような似てるものが沢山ある。これは"勝利の方程式"みたいのがあってそこを皆ためらいなく攻めるからなのだろう。

そしてますます「~らしさ」の幅が狭くなってデザインがふがいなくなっていく。デザインを選ぶ側にひょっとしたら似てるのが好き、毒のない安心感とかあるのかもね。斬新なデザインを言葉では要求されていると思っていたら、選ばれたのは結構ライバル似のコンサバ、なんてよくある話。

気をつけないとならないのは、記憶のどっかに引っかかっていたのか、理にかなっているから誰でも考えが至るのか、流行の影響なのか、描いたスケッチが既にあるモノに似てるかどうか。まあこんな些細なデザイン誰も見てないよ、と思いつつ一応ぐぐっておく。"○○に似てるね"と不意打ちされないように、こういうのはプライド由来なのかも。

似ている の中には 目標/参考/風味/引用/倣う/真似る/なぞる/コピペ……と細分化されている。

そうこうしてるうちに「自分のテイスト」を作り上げて続けていくのがデザイナーの活動の大きな方向だと思う。

例えば、いくら深沢直人さんのデザインが好きでも深沢直人のコピーバンドになろうとするのは方向違いだろうし、そもそも無理。

深沢直人デザインも日々周辺を拡大しようと「~らしさ」を取り込んでフレキシブルに動いている。マルニ木工の定番のリファインは、HIROSHIMAの印象が強いモダンなマルニのラインナップにクラシックな深みを与えているし、リファイン元の選択、装飾の省略、ファブリックや木材の選び方はさすがの解釈、解決だなあと思う。

http://www.maruni.com/shop/g2669-31/
http://www.maruni.com/list/detail.php?p=2146-21-2481
http://www.maruni.com/shop/g4669-31/
http://www.maruni.com/list/detail.php?p=4634-01-3289

これは「本歌取り」というのがふさわしいのでは。
 


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