女子デザイナーの歩き方 第79回
ブランディングの本、比べ読み
moviti/片山 典子
[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com
このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。
明けましておめでとうございます。時節柄いただいたデザイン友達の年賀状をつらつら見てると、家族の写真やら、自分の作品やら、何年も同じフォーマットの人やら、性格がでるもんですね。
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年末にご一緒に仕事させていただいている社長さんからブランディング関連の本を4冊借りて一気読みしました。なかなかない機会なので今月はその話を私なりにカジュアルに書いてみます。読んだ順でいきます。
●「無印良品の「あれ」は決して安くないのに なぜ飛ぶように売れるのか?
100億円の価値を生み出す凄いコンセプトのつくり方」(2014年刊)
江上隆夫著
タイトルの印象は無印良品の事業分析みたいですが、無印だけではなくスタバやトヨタ、ウォークマン登場時などを例に「コンセプトが大事/どうやって強いコンセプトを作るか/どう運用するか」を説いています。既存のルールを自分に有利にスピーディに変化させたい現代、「目標を達成するための原理・原則を短く的確に表現した言葉」現状/資産/戦略の3つを貫く串がコンセプト=串ダンゴ方式。
最初は300字くらいから、最終的には20文字以内に納めるという作業をステップで解説、著者がコピーライター出身なのでここは実践的。まずは3つのダンゴを客観的に簡潔明快に作れるかがキモですね。平凡な言葉にまとめても仕方ないし、想いやインパクトも込めたいところだ。成功したブランド、企業に後からコンセプトを作っているシミュレーションみたいなところもある。「論理を積み重ねてジャンプをする」のを狙うとか、現実はなかなかこんなに明快に進めるには大変だろうけど、作業中の目標とか励みにはなりますね。
●「ジャパン・ブランドの創造 (早稲田大学ビジネススクール講義録)」(2014年刊)
長沢伸也著
こちらはタイトル通り、早稲田大学ビジネススクール講義録で、ISSEY MIYAKE、ソメスサドル(革製品)、無印良品の社長視点からの事業運営とブランド、というところか。
・ISSEY MIYAKE元社長太田伸之氏。MD(マーチャンダイジング)という仕事はなじみが薄いのですが、クリエイティビティを尊重しつつ売り上げを上げる(プロパー消化率を上げる)ために売り場に通うように若手を教育し、ショーや受注会のタイミングを調整し、デザイナーにもハッパをかける。いわゆる無難な服を売るブランドでなくてもアパレル業界の分析ってシビアにやってるんですねえ。
・ソメスサドル会長染谷純一氏。札幌地元の産業振興も含めて馬具制作から鞄に展開。作り手から出発して工場の拡張や売り場の展開、デザインまで目を配っている2代目経営者。革製品全体を分かってもらおうとした語り口が、中規模のメーカーの社長さんにこういう方いますね。デザイン(製品や店舗、ブランド)関連の話はあまり語られてない。
・無印良品/良品計画会長松井忠三氏。PD界ではさんざん知ってるつもりの無印良品だが、2001年(競合ディスカウントショップの台頭)以降の挫折/復活/海外展開を語っている。コンセプトの進化(WORLD MUJI,FOUND MUJI)と商品開発を同時に行う。海外で商品を探したり、現地の生活習慣にあった商品を揃えて、出店の条件の良い物件を探す。
社長さんて視角をわーっと広げたりぎゅっと絞ったり、ほんとにしているのね。講演自体の完成度というか自分の会社や周囲の状況も語ってはるなあ。
●「ブランドのはじめかた」(2010年刊)
中川淳、西澤明洋 著
有名な中川政七商店コンビです。地方製造業を他との差別化、デザインでブランド化していく過程をcoedo、HASAMI含め対談形式で紹介。HASAMIの若いブランドマネジャーさんが当初、会社の状況に合わせて本心ではないことを言ってしまって、後で軌道修正した、とか、振り返ったらやっぱあるんだねえ、こういう話。後述に「ひとつのブランドには一人のブランドマネジャー/ブランドコンセプトを擬人化したものがブランドマネジャー」とあるから、あまり個人とかけ離れたところでやろうとするとしんどいのね。
後半はブランドのつくりかた、育て方。154ページの「やりたいこととできることを整理した上で差別化ポイントを見極める」161-172ページの「コンセプトをデザインに落とし込む」プロセスは実作業しているとごちゃごちゃしてしまいがちなあたりを整理する助けになりそう。「理詰めだけでは発見できない”クリエイティブ・ジャンプ”」と書いてあるのも、デザイナー自身忘れそうになることもあるので、これ大事ね。
●「ブランディング22の法則」(1999年刊)
アル・ライズ、ローラ・ライズ著
著者がアメリカ人、事例もアメリカのビッグブランドだし、15年前の本ですが。よくあるブランディングの本って最新の成功事例でつい乗せられて読み進む、みたいなところがありますが、この本違和感があったり逆に普遍的な言葉を探そうとする脳が働いて興味深い。そういえば最近の日本、巷にブランディングの本がたくさん出回っているのは他国にない動きなんかもしれんね。
ネーミングやロゴ、ラインナップ構築に特にフォーカスしている内容だが、お客様とのコンタクトポイントではあるしね。焦点を絞ってイメージ維持のためにパブリシティを利用して、カテゴリー自体を作る、というのは、文字面では広告代理店的だなあと思いつつも目指すアクションなんでしょうね。
型を作りつつも古くならずに継続維持のためにリニューアルしていくさじ加減、すでに実施されて結果が出たことを分析するのはともかく、これから何をしたらいいか、判断決断は難しいですよね(って当たり前のことなんだけど)。
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プロダクトデザインを引き受けるときに依頼主と話をしていると、「んー、この製品でどうしたいのかなあ」、周辺のブランディングや製品ネーミング&ロゴのことも考えなくてはすまなくなってきて、でも依頼主もそこまで深く広く自分の仕事について考え抜いているとは限らず、問題意識はあるのだけれど、言葉に置き換えて誰かに伝えられるように整理されていることもなく。そもそもデザイナーにそんなこと訊かれると思ってないだろうし、具現化したいデザインを表すボキャブラリー自体も日頃使ってないから、スッと出てくる人は多くはない。
デザイナーとしてどこまで立ち入るかも様子見ながらです。ブランディングって勉強するものでもなさそうだし、デザイン目線ですべてやってできるものでもないけど、なにができそうか。
思い切って本を貸してくださいと言ってみてよかった。読み比べてみて、こういうものかな、みたいなものは見渡せたと思いました。
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