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女子デザイナーの歩き方 第75回
クラフトコンペでデザインマッチングしてみた
moviti/片山 典子

[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com


このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。


夏は念願の劔岳に登ってきました。普通の別山尾根ルートですが。剣沢キャンプ場から半日見てても飽きません。

富山、高岡というと手工芸なモノ作りの本場で有名。有名なコンペ、審査員に旬の人を呼んだり、デザイナーの扱いに慣れているというか、日本海側で行くの遠そうなエリアなこともあり、個人的には気後れしてました。もともと加賀前田藩が城下に武具を作る職人を集めたのが始まりで、梵鐘、仏具などにその技術を活かして発展してきたとのこと。
http://www.jobview.jp/co1/takaokashi10.html

最近は工場見学ツアー高岡クラフツーリズモも本格活動しているようで。旭川もそうだけど、若手2代目が集まって地域全体で盛り上げようというのが最近の流れですね。そしてしゅっとした男前多いな。
http://craft-tourism.jp/

数年前に高岡の國本さんと東京で何かのパーティでご一緒して、気さくに見学に誘われて行ってきた。國本さんの螺鈿細工の工場だけでなく、金属加工や特殊な多重塗装、鋳物工場など。いわゆる大量生産とも違う、ヴィンテージカーの塗装やプラモデルのエイジングみたいなノリ、こだわりが作業量を決めるというか。なんだかステキなんだが、自分の生活にどう絡めていくのか今一つ分からない。iPhoneカバーや手鏡がお洒落なんだけど、自分の持ち物としてはしっくりこない。すぐ傷めてしまいそうだし。着物やお茶、和の暮らしをしていたら身近に感じるのか? せっかく見学させていただいたのに、活かしきれず。アクセサリーもちょっとオバさま好みっぽくなりそうで。

今回高岡クラフトコンペの募集を見たら「デザインマッチング」でモノを直接作らないデザイナーの参加枠もあるので、自分にとっての螺鈿の新しい接点がないか、トライしてみた。
http://www.ccis-toyama.or.jp/takaoka/craft/

個人的に模様を考えるのが一般のプロダクトデザイナーより好きなんだと思う。デザインというと“見た目”となりがちで、柄や模様に関心が高いのが分かるのだが、なぜその模様なの? 由来やオリジナリティ、ストーリーとの結びつき、いざ作ろうとすると難しい。ルイ・ヴィトンのモノグラムとかほんとよくできてる。桜など古典柄や、小さいスヌーピーの螺鈿はなるほど女の子好きそうなのだが。高級、贅沢なモノはきらびやかだがよそよそしくなりがち。懐かしいようでいて、実は持ち物としてはあまり親しみの無い螺鈿。どうやったら「自分」に引き寄せられるのか?
実感のある"懐かしさ"を作ってみよう。ポップスのオルゴールメカ、オルゴール自体も懐かしい、と思う“大人向けのオルゴール”。

今は合成音のBGMにすっかりすり替えられたけど、ネジを巻いて、ぜんまいがだんだん遅くなってネジが停まる、小さい金属の爪がメロディーを奏でているのは、実はとてもいじらしく、精緻でメカメカしい。節回しがキレイで思い出が絡みやすい、ちょい懐かしめの3曲(天体観測、少年時代、浪漫飛行)にちなんだ柄を作ってみた。蓋の螺鈿は漆光沢になるので、器のほうはあえて拭き漆を合わせてみた。一見茶道の棗のような持ちやすい鼓型の円筒の器を、ヨーヨーに見立て、夭夭(若く美しいさま。若く盛んなさま)琴/"よーよーきん"という名前にした。A4フォーマットに原寸でスケッチを作って応募した。

数週間後に高岡クラフトセンター事務局から電話があり、「作り手が手を挙げてくれましたが、作りますか?」びっくりした。工場見学にも行った武蔵川工房の武蔵川義則さん。とはいえお互い覚えてない初対面状態からスタート。
http://www.raden-musasigawa.com/

直接メールと電話でやりとりする。製作期間は1カ月しかない、すぐにオルゴールを取り寄せて送る。幸い殆どアレンジしないで挽きもののサイズも問題ないようだ。工程によって分業されているそうで、空き状況で日程が決まっていく。螺鈿前の漆塗りの工程が予定より5日ほど遅れ、武蔵川さんがひやひやしている。挽き加工のできあがり、螺鈿を載せた磨き前とメール添付で写真を送っていただき、見ながら電話で話をする。搬入10日前に無事完成、現物を送ってもらった。よく考えたら会わないままモノができあがった。

届いた"よーよーきん"はとろりと光る漆光沢に虹色に光る青蝶貝が表面張力で浮いているようで、儚くかつ圧倒的な存在感でした。1枚1枚貝の薄片をカットして並べて研ぐ手間を超越したねっとりした漆黒。拭き漆の器のさらりとした木の手触りとゼンマイを巻く感触。"天体観測"の目盛りが宇宙空間のよう。機械的に弾いたオルゴールの蓋を開けたときの澄んだ音、閉じて木を通した丸みのある音、曲のメロディーと合わせてきゅんとしましたよ。

**
ところで高岡のクラフトコンペの面白いところは展示会での販売を前提にしているので、量産可能である(超絶技巧ではない)のと、搬入時に価格をつけなくてはならない。さてこれいくらでできているのだろう、まったく分からない。ちなみにこのプロトタイプを作った費用はどうも私が払うことになるんだろうけど、いくらぐらいなのか。結局応募のために自分のアイデアを製作してもらったので、武蔵川さんに私から製作費を後日お支払。幸い非常に納得価格で作っていただいたので、よかった。

応募票にも応募した私の名前はともかく、製作者名の記入欄がなかなかない、物品説明記入欄はあっても、コンセプトを説明する欄はない。ここがクラフトの「黙ってモノで勝負」なところか。

後日入選しました。

8月末時点で松屋銀座での展示では入賞作10作品のみ展示、サイトにもまだ載ってません。10/2~6、高岡で2014クラフトコンペ入選作品展があるので、そこでの図録には載る予定と思われます。まんまと“イベントで絆を作る”策にのっているような気もしますが、このときには高岡に行く予定。
http://ichibamachi.jp/

ささやかなことかもしれませんが、審査員の川上さんと別件で立ち話をする機会があったのですが、オルゴールと言ったらすぐ思い当っていただき、非常に嬉しかった。

また武蔵川さんは21_21で開催中の「イメージメーカー展」で舘鼻さんの"イナズマ柄が土屋アンナっぽい花魁下駄の厨子"を作っていたそうで。
http://www.2121designsight.jp/program/image_makers/exhibits.html

こんな豪華な作り手にチョイスしていただいて、実物化していただいて、貴重な体験でした。

来年春には新幹線で高岡-東京がつながり、2時間で行けるようになるそうです。このご縁が何か展開すると面白いのです、また続報があったらここに書きます。


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