女子デザイナーの歩き方 第70回
バブルデザイン?
moviti/片山 典子
[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com
このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。
●ヤンマープロジェクト
先日久しぶりにプロダクトデザイナーのホームパーティに出席しまして、お互い歳取ってこなれてきたというか、率直なデザイントークが久々に楽しかったです。昼から焼き鳥焼いて日本酒だったからね。
お題はこれ、奥山さんのヤンマープロジェクト。
http://yanmar-pbp.jp/
今回はこれをきっかけにバブルを再考しようと思います。
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バブルとデザインをくっつけて語るときに「80年代」という時代にリリースされた突飛なデザインの場合と、「主張の強いデザイン全般」の場合とあるようで、ちょっと混乱する。
個人的にはバブル景気の時代って世間の扱いのように「蓋して隠しておきたい」というほどではなく、むしろ好奇心の対象がサブカルからアカデミックな学問や目線にダイレクトに広がった、豊かな時代だったと思ってます。最近ファッションや映画も1980年~1990年代リバイバルがきているような気もするし。
80年代はポストモダンデザイン「メンフィス」という、学生が混乱する活動が起きて、アレッシが躍り出て、実験的、提案すぎてほんとにこれ欲しいの? みたいなものもあったし。
http://artscape.jp/artword/index.php/ポストモダニズム(デザイン)
でも振り返ったらソットサスのブックシェルフ、ただインパクトだけでなく、やっぱりすごい構成力だし新しい価値観を生み出している(ちなみに、渋谷神山のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSに白塗装バージョンがあります)。
http://www.shibuyabooks.net/
まあねえ、当時はうっかり日本の家電もカラフルになったり円錐型の炊飯器なんてリリースしてましたが。
http://www.kanshin.com/keyword/508525
時代が一巡してご飯美味しそうに見えるかも、とだいぶ寛容な気持ちで見れるようになった。
日本の建築家、デザイナーが作風テイストをぐいっと押し出して実験的なことをやってました。モダンな茶室とか、クラマタさんのポエティックな家具、梅田正徳さんの花のカタチの椅子とか。なんでボクシングのリングのようなソファ? とか波うつキャビネット? とか答えが用意されてないようなカタチの由来。すごい存在感の「遊び心」の実体化。坂井直樹さん×NISSANのBe-1/PAO/figaroの3台もこの頃か。コンセプトとかライフスタイルという言葉がデザイン作業に必須になってくる。
まあこんなことに撹乱されながらもスタルクとかカスティリオーニとかブラウンのデザインとかが本流なんだろうなとは思ってました。
バブルの揺り戻しでロンドンモダン(マイケル・ヤング、トム・ディクソン)ドローグ経由で深澤直人的白くて静かなプロダクトが支持されて。綺麗です、ブツはミニマムで、質感や所作に知恵が隠されていて、使ってなるほど! がある。エコ、サステナブルそしてAppleのミニマリズムで極まる。
しかし、なかなかそれも息が詰まってくるというか、だんだん小さい差異の大喜利化してくるというか。
え、と思ったのがガンダムデザインと呼びたくなる携帯電話の出現でした。
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/page/20060824a.html
2006年なんですね、ガンダムスタイル解禁。堂々とロボットアニメっぽいものが大手メーカーから発売。気がつくと乗用車がマッチョで押し出しの強い顔になってきていた。いいクルマが好きだ。男ですから。
http://www.honda.co.jp/ODYSSEY/
完成度があっても飽きるってことですかね。高揚感って分かりやすいデザイン効果だし、メーカーの社長さんならどどーん! とリリースしたいだろうしね。
女子向けデザインがピンク解禁/姫スタイル/デコネイル/森ガールを経て小休止なこの頃、男子系はロボットアニメ実現デザイン全開邁進中、といったところか。80年代の悪のりな引用を超えて現在は3D CADで緻密に練られた立体的に強いフォルムに進化している。
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話を戻して奥山さんのヤンマートラクター。ユニクロを思わせるロゴとお洒落ユニフォームデザインを、これまたスマートな欧米人のモデルが着ているというのが素っ頓狂に見えるのだけど。バブル風演出戦略のように見受けられます。
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO63511840T01C13A2000000/
フェラーリ式農業再生法なんて言われてます。まあコンセプトモデルだし、PVより実際はコンパクトだし、奥山さんもフェラーリというよりクールジャパンな攻殻機動隊ぽいディテール満載でいいんじゃないですかね。家具や日用品より本来の土俵で楽しそうだし、斜に構えないで大人が真正面でぶつかってる感じが潔いと思います。
農業を「盛り上げる」をデザインで分かりやすくした1つの例なのでしょう。こういう機械でワシワシ耕すだけでは旧来と変わらない、ここはやはり繊細な有機農業とかバイオで品種改良、直販ルートの開拓などなど高揚していくのがアグレッシブ解釈なサステナブルな農業の進化形という将来の姿なんでしょう。
一方確かに、こんなゴリゴリした威圧的な機械に乗った人が作った作物は美味しそうに感じられない、というのも分かる気もします。日本の農地の風景にどう収まるのでしょうか。結局買う人には"ソフトヤンキー"な解釈なのかもしれない、日本ですから。
ヤンマーのサイト
http://www.yanmar.co.jp/
を見たら他にもいろんな農業機械たくさんあるし、稲の苗のラックが似合うモビリティな田植機とか期待しますね、金属の塊と作物の融合。農業とか林業、かっこよくして使いやすくてやる気がでるならいいじゃないですか。
http://www.ginsaji-movie.com/index.html
http://www.woodjob.jp/
それにしても今どき地方にもカッコいい農業青年なんてたくさんいるだろうに、なんでガイジンモデルなんだ。とつっこみたくなるところがまんまと術中なんですかね、ヤンマー。
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