女子デザイナーの歩き方 第114回(2017年12月4日掲載)
アイデア、デザイン、著作権
moviti/片山 典子
[プロフィール] 1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。2010年独立、3D CADでプラスチック製品から布製品、ソファやモダン仏壇の木製品、クラフト系などネーミングやロゴ込みでいろいろ手がけている。趣味はフリークライミングとバスケットボール、旅行。
http://moviti.com/moviti_nori
このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。
11月上旬、twitterにこういうのが流れてきた。
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnad/15/171109/011100001/(有料)
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/110201718/(有料)
http://tasukumizuno.hatenablog.com/entry/2017/11/09/125706
http://shinzoterui.c.ooco.jp/
青山のあるブティックのファサードデザインの著作権についての裁判。組亀甲柄に鉄薄板を編み上げて2階建てのキューブなビル外観の2階を覆う造作の意匠。概要は上記のリンク記事を読んでいただきたい。
キューブな平面を編目が整然と覆い、夜は中の照明が漏れて2層の編目の間に白い光が溜まって、わあ綺麗な仕事だなあと思っていた。最近こういう大ぶりの編んだような半立体なモチーフつなぎ(外壁 アルミシェード で検索するといろいろ出てくる)が、インテリア、エクステリアで流行ってます。
話題の物件はさらに建築全体のボリュームと編目が一体感があって、でかい行灯みたい。和クラフトっぽいのにエッジが効いて構築的でステラ・マッカートニーの作る服にも通じるかっこよさ。隣のmiumiu、PRADAと個性的な3軒青山のブティックらしい風景。
うーん、寸法入ってないとはいえ原寸を思わせる構想模型(2層で立体的に編む)、施工方法や立体への折り方も提示してるのに、デザイナーとして名前の掲載はしてくれないのかあ。組亀甲柄という普遍のモチーフとはいえ”この平面柄、立体化できるんじゃないの”と結びつけたのもオリジナリティあるし、さらに実現可能で魅力的なレベルまで方法を選んでるようだが。
アイデアは思い付きで著作権はない?
表現はデザインなのか?
具体的に詳細を細分化して詰めないとデザインと言えないのか?
作り方考えて工場探して発注して、編み方取り付け、建物のコーナーや縁の処理など、ディテールを詰めたからこの完成度に到達したのは分かるのだが。
プロジェクトストーリーⅠ「資生堂銀座ビル」外装アルミシェード工事 旭ビルウォール株式会社
http://www.agb.co.jp/recruit/story/index1.html
たまたま見つけた、技術的な参考になるかも。銀座資生堂ビルのファサードはリボンが翻るような大きな抑揚は明らかに昭和の鉄格子と違うテクノロジーを感じる。大面積を覆うから小さいユニットだと現場での溶接が増える、大きいユニットだと生産できる工場が限定されるし運搬も大変。美しさと構造、採算性、耐震耐風も考える。凄いぞ、技術屋/プロダクトデザイナー/建築家か、とんでもない知の集合でできてるんじゃないか。
まあ文章におこした時点で微妙なニュアンスは端折られているだろうし、日頃お互いお世話になってて先々のこともある間柄だろうし、他の案件でも応用が利きそうな特許性のあるディテールやノウハウもありそうだし、業界内事情も多そうですね。裁判に関わった人も著作権専門で、戦略的に論旨を展開した上での結論のようだし。
それにしても名前掲載してくれてもいいんじゃないかなあ。
そして面倒くさがらずに自分の意見をちゃんと言おうと立ち上がったデザイナーの照井信三さんも気力あるなあ。
知財な場面で自分の創作物の独自性を言葉に置き換えて説明するのって、デザインのふんわりした理想のボリュームがどんどん剥がされて身の丈になって、それでも価値があるのか問われているようで、自分のアイデアを守るのは自分だなーと踏ん張りが必要。
一方、会社勤めの頃に上司が"こういうのはどう?"とその場のメモ書きが全然しっくりこなくて、でも無茶振りのような他人からもらったアイデアに意外と自分の思い込みを突破する切り口があるから、あえてホイホイ乗ってみると1人では思い至らなかった答えに至るのが面白かったり、人のアイデアを細かく砕いて転がして積み上げて、こなれて自分のアイデアになるときもある。
**
連続模様、線が周囲の模様につながっているのが追えて、面になって角を曲がって立体を覆っていくのは見応えある。籠編みは普段の手作業やってるうちに誰かがバリエーション模様を考え出してご近所に広まるのか。毛糸編みも編み図を考えて統一規格にしたのは誰なんだ。アイアンワークも二重構造にすると単純な凸凹でなく編んだように見えるのも誰かが毛糸編みを見ながら気がついたのだろうか。
日本の伝統柄の紗綾形(さやがた)や麻の葉、イスラムの多角形ベースのタイルなどの連続模様は誰かが考えたんだ。見ながらなぞって描いていても”おおーこれが最小単位か、これ等角度で回転するとこうなるのか”と驚きの連続。
Illustratorのプラグインで四角形や六角形を等分した三角形に前後に交差する線を描くと連続模様に展開して次世代イスラムタイル模様が簡単に描けるようなアプリは作れそうだが需要がないのかな。万華鏡アプリというのが近いのかしら。
ところでステラマッカートニーブティックの組亀甲模様を90度回転させて、壁の連続性をあげたんだと思うが、立体が非対称に見えて動きが出た気がする。これもデザインが良くなるキーアクションな気がするんだ。
実物は個々のユニットが立体的で、下から見上げると隠れる面や遠近感でやっぱりどう作っているのが見抜けない。立面図の組亀甲からかけ離れたオリジナリティを感じる。
|