 
大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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シュアと言えば、プロも絶大な信頼を置くオーディオ製品を作り続けてきた企業である。もともとはラジオメーカーからスタートし、レコードプレーヤー用のカートリッジやマイクロフォン、音楽制作用のパーソナルモニタリングシステムへと製品ラインを拡大。そのモニタリングシステムの一部として用意されていた高遮音性インイヤーモニタを、ミュージシャンやオーディオマニアがiPodなどの音楽プレーヤーでのリスニングに使い出したことから、独立した製品として販売するようになったのが、同社のイヤフォン事業の始まりだった。
「SE535」(オープン価格。実売5万円前後)は、シュアのコンシューマー向けイヤフォンのフラッグシップモデルであり、スピーカーに相当するMicro Driverを片耳あたり3基(トゥイータ1基+ウーファー2基)搭載している。
Micro Driverは、構造的にはバランスド・アーマチュア・ドライバと同等の方式で、一般的なダイナミック型に比べて入力信号に対する反応が速く繊細な表現が可能な反面、再生帯域が狭く、特に低域が弱くなる傾向がある。そこで、それぞれの帯域に特化したユニットを組み合わせて搭載することで、キレが良くバランスのとれた音の再現を実現しているのだ。
本稿はデザイン中心の記事ではあるが多少その音にも触れておくと、個々の楽器の音色の再現性に優れ、定位も明確ながら広がりもあって、これまで常用していた製品(某社ハイエンド製品)よりも、音楽のディテールまでがきめ細かく立ち上がってくるのを感じた。一度聴いてしまうと、元には戻れないところがある。
なお、シュアはノイズキャンセル方式のヘッドフォン/イヤフォンも研究したことがあるものの、目指す音質が得られなかったことや、イヤーパッドを核とした高い遮音能力で外界のノイズをほぼ排除できているために製品化は見送られた。したがって、本製品も電気的なノイズキャンセルを行わず、あくまでも遮音によって再生音の明瞭さを保つ設計だ。標準のケーブルは長めで通常使用ではやや持て余しぎみだが、太さが十分に確保されており、電気的な信号損失は少ないものと思われる。


ケーブル長は1.6mで少し長め。一般には短めのケーブルと延長ケーブルのコンビネーションで出荷される製品もあるが、本製品はケーブル自体が脱着式ということで、今後、短めのケーブルもオプションとして用意される可能性も残されている
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さて、デザイン的に見ると、ケーブルを耳の上から後ろに回すオーバー・ザ・イヤースタイルを採るため、本体形状と耳孔につながるノズルの方向、そしてケーブルの取り出し口との関係が独特の有機的なフォルムを形成している。この形が耳にフィットし、さらにケーブルの自重を耳介で支える構造のために、激しい動きをしてもイヤフォンがずれることがないのである。
また、耳介に掛かるケーブル部分はワイヤーフォームフィットという新機構により形状を記憶するようになっており、一度セットした形がくずれにくくなっている。
しかし、どんなイヤフォンにも言えることだが、毎日のように着脱を繰り返す製品だけに、ケーブルの付け根が断線することは避けられない弱点と言える。そこでハイエンド製品ではケーブルを交換可能にしたものもあるが、シュアは単に脱着できるだけでなく、360度自由に回転するコネクタを採用することで、フィッティングの容易さを高め、接続するデバイスに合わせて機器側のコネクタが異なるオプションを用意(あるいはサードパーティーが開発)できる仕様とした。


ステージパフォーマンスなどの激しいアクションでも脱落しない確実な装着のために、ケーブルを耳の上から後ろに回すオーバー・ザ・イヤースタイル(左の2つ)は「シュア巻き」とも呼ばれる。ケーブルは耐久性のあるケブラー素材で、耳の後ろにあたる部分は肌触りが良く汗に強いプラスティックコーティングされている
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付属品としては、キャリングポーチ、6.3mmヘッドフォンジャックアダプタ、クリーニングツール、ソフトフレックス・イヤーパッド(S,M,L)、ソフトフォーム・イヤーパッド(S,M,L)、イエロー・フォーム・イヤーパッド、トリプルフランジ・イヤーパッド、レベルコントローラ、航空機用アダプタが付いてくる
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ハイエンド製品だけあって付属品も充実しており、キャリングポーチをはじめ、レベル(音量)コントローラ、航空機用アダプタなどの他、材質や形状の異なる4種のイヤーパッドが標準添付されている。それぞれフィッティングが異なり、それが音響特性にも影響するので、好みのものを選択すればよいが、個人的にはデフォルトで装着されているソフトフォーム・イヤーパッドが最もバランスがとれているように感じた。
構造図を見ると、小さなスペースに多くの要素が詰め込まれていることが分かるが、同時に音響特性も考慮しなくてはならず、設計に高度なノウハウが用いられていることが容易に理解できる。高域と低域の分離駆動して音の明瞭度を向上させるクロスオーバーを外注する企業もある中で、シュアは自社デザインを貫いており、そうした細かな積み重ねが全体の小型化にも寄与していると言える。


SE535の部品構成図。A:ハウジング、B:トリプルMicro Driverユニット、C:内蔵クロスオーバー、D:アコースティック・シール、E:ショック・アイソレータ、F:MMCX同軸コネクタ、G:ノズル、H:着脱式ケーブル、I:高遮音性イヤパッド
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SE535(およびデュアルMicroDriverタイプのSE425)の最大のイノベーションと言える自由に回転するケーブルの着脱メカは、無線機器などで使われる同軸コネクタの標準規格MMCXを採用しており、クリック感のある確実な接続と耐久性を実現している。
メタリックブラウンとクリアのボディカラーに合わせてケーブルも2色用意され、左右の違いを示す刻印が目立たないクリアモデルでは、コネクタ近くに赤(右サイド)と青(左サイド)のドットが付加されて、接続を間違わないような配慮が見られる。
しかし、視覚的なインターフェイスの在り方として気になったのは、ドットだと位置合わせをしなくてはならないように思えることだ(実際には、どの位置でも脱着可能)。この場合には、コネクタ周辺を一周するリングのようにカラーコードを施し、位置に関係なく対応だけが分かるようにすべきだったように思う。


装着時に主張しすぎないクリアモデルのアップ。ブラウンメタリックモデルでは、RとLの刻印で左右の区別がつくが、透明筐体では見えにくいため、赤と青のドット(矢印部分)でユニット本体とケーブルの対応が分かるようになっている
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スプリッターやプラグ部分に関しても、一般的なイヤフォンに比べると物理量が大きく確保され、操作性や耐久性が重視されていることが分かる。その点がゴツく感じられることもあるが、視覚的な安心感にもつながっており、プロクオリティ製品としてのアイデンティティにも結びついていると言えるだろう。


ケーブルが左右に分かれるスプリッター部分にはしっかりした大型の樹脂パーツが使われ、ディテールもケーブルへの負担を減らすようにデザインされていることが分かる
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同じくプラグ部分の樹脂パーツもイヤフォンとしてはかなり大きめで、ケーブルとの接合部にあたるフレキシブルネックも長めにとられている
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