 
大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodを作った男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中 |
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すでにオンライン、オフラインを問わずさまざまな場所で話題となっているiPhone 3G。pdweb.jpの読者の皆さんであれば、すでに入手されているか、少なくともどこかの店頭で触れてみるなど、何らかの形で実物と遭遇済みかもしれない。
このiPhone 3Gをデザイン的に見ると、当然ながら初代モデルの順当進化ではあるのだが、日本のケータイにありがちな、変化のための変化が行われていないことに気がつく。サイズはやや拡大しているものの、正面から見た印象は、まったくと言ってよいほど初代と同じ。背面は従来の比較的平坦なメタル外装から曲率の大きな樹脂外装となり、ブラックとホワイトのカラーバリエーションが用意されるようにはなったが、いわゆるこれ見よがしの装飾やイルミネーションなどは一切ない。
国産製品は、ほぼ半年に1回、モデルチェンジ(マイナーチェンジを含む)が行われるが、外装デザインを差別化の大きなポイントの1つとして捉えて購買動機へつなげようとしているため、無理にでも旧機種との違いを強調しようとする。あるいは、最初から1世代限りのデザインプロジェクトとして計画される端末すらある。
それはデザイナーの責任というよりも、企画・営業部門が抱える「新しい製品は、新しく見えなくては売れない」という強迫観念に近い思い込みから発するプレッシャーによるところが大きい。機能がほぼ横並びの状況では、消費者に対して、外観の好みで選ぶことを提案するしかないのも確かだ。
これに対し、アップルは、iPhoneのマルチタッチ式タッチスクリーンが提供するユーザー体験が、他の端末と異なることに大きな自信を持っている。また、iPhone自体が変わらなくても、コンピュータ並みのアプリケーションをダウンロードすることで機能を変化・進化させられるため、外観の目先の変化をあえて追求する必要がない。
逆に、今は、初代モデルで印象づけられたiPhoneのイメージをさらに定着させる時期と捉えて、3Gでもほぼ変わらないシンボリックなデザインを維持したものと考えられる。
一方で背面が樹脂製となったのは、コストダウンのためもあろうが、内部のアンテナの送受信感度を確保する意味合いも大きい。初代モデルの背面カバーも、携帯用とWi-Fi用、そしてBluetooth用の3つのアンテナを内蔵するために一部が樹脂製だったが、3Gモデルでは、さらにGPS用のアンテナも組み込まれたことで、それらを干渉なく配置して感度を確保する上で樹脂外装が必須となった可能性が高い。
また、おそらく新型は初代よりもバッテリー容量を増やしており、それが厚みの差に現れていると推測される。そして、MacBook Airと同じく、その厚みを曲面構成の背面パネルによって視覚的に感じさせないように工夫しているのだが、その曲面加工はメタル素材でも不可能ではないものの、樹脂のほうが加工しやすいという事情もあっただろう。
このようにiPhone 3Gのデザインは、見た目の変化を優先するのではなく、初代モデルのイメージをキープしながら内部の設計変更を反映させたものになっていると言える。


潜在ユーザーにとって気になるのは、初代モデルよりもiPod touchとの比較ではないだろうか。iPhone 3Gは、iPod touchよりも厚く重みもあるが、それを巧みに利用して手に心地よいグリップ感を作り出している
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滑らかにカーブした背面パネルから奥まった場所にあるカメラのレンズは、通常の使用法では指が触れない深さに位置している。エレガントで効果的なデザインの例だ |
iPhoneは、ご存じのようにタッチパネルオペレーションが主体である。しかし、そこに固執することなく、ハードスイッチのほうが使い勝手が向上すると思われる操作に関しては、素直にハードスイッチを採用している。それは、ホームボタン、スリープボタン、マナーモードスイッチ、ボリュームコントロール用のシーソースイッチの4つだ。
この中で特に注目したいのは、マナーモードスイッチである。日本の携帯電話では、クリアキーなど特定キーの長押しでマナーモードのオン・オフを行う製品が多い。これに対し、iPhoneのマナーモードスイッチは独立してボリュームスイッチの上部に位置しており、厚み方向にスライドする。これにより、手探りでも操作でき、しかも現在のモードがどちらなのかも感触だけで分かる仕組みだ(長さ方向へのスライドでは、分かりにくいことに注意)。
そして、ホームボタンを押すと、どのような画面状態にあってもホームスクリーンに戻ることができる。これは、初心者が操作に迷った場合でも混乱することなく最初からやり直せるようにするための配慮だ。一般的な携帯電話でも、終話ボタンがこうした役割を果たしたりするが、複数の機能を1つのボタンで兼用させることは、UI構築上、必ずしも好ましくない。iPhoneのハードスイッチは、それぞれの役割が明確に分かれており、しかも、分かりやすい配置と形状に留意されている。
また、iPhoneでは、画面を占有できるアプリケーションは一度に1つと決まっており、例えばメーラーとWebブラウザなどを交互に呼び出す場合にも、一度ホームスクリーンに戻って必要なアイコンをタップすることになる。一発でホームスクリーンを呼び出せるホームボタンの存在は、この操作の基本手順とも密接に関係したものである。


厚み方向にスライドするマナーモードスイッチと、押すべき箇所が盛り上がっているボリュームコントロールのシーソースイッチ。どちらも、縁の部分はわずかにエッジが立ててあり、手探りで触れた際にもその存在がはっきり分かるように工夫されている
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本体を縦に構えるか、横に構えるかで、アイコンの向きも変わる標準カメラアプリのシャッターボタン。ひと手間かけることで人をうならせるのは、料理と一緒かもしれない
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アップルは、初代モデルと3Gモデルの両方をカバーするiPhone 2.0環境でエンタープライズ(企業)マーケットの攻略に乗りだしたが、それでも製品作りの基本は、個人ユーザーとの心情的なボンディング(結合)を深めるデザインや仕様にある。
例えば、iPod機能に代表される、音楽や写真やビデオ、そしてゲームなどのパーソナルなコンテンツの扱い。通常の携帯電話では、メニュー階層をいくつもたどらなくてはアクセスできない地図情報や天気予報、株価などをホームスクリーンから直接呼び出せるアクセス性の高さ(しかも、ユーザー自身がブックマークを簡単にアイコン化してホームスクリーンに登録できる)。そして、UIの細かい部分に忍ばせた生物的な動きや反応による感情的な愛着心の持たせ方などには、アップル流の製品哲学が凝縮されている。
これらのポイントをキーワード的にまとめれば、パーソナル、アクセシブル、エモーショナルということになろうか。iPhoneが、エンタープライズマーケットに入っていく際にも、もちろん、これらの特徴が失われることはないわけだが、これらの点はライバルメーカーにとっても脅威となるはずだ。なぜならば、従来のビジネス向け製品というのは、ユーザー個人との結びつきはほとんど重視されず、支給品として淡々と役割をこなすようなものばかりだったからである。
実際にアメリカでの初代iPhoneの導入パターンを見ていると、企業幹部が個人で気に入って購入し、自社のIT部門にサポートを要請するケースが多かったようだ。これはテキストメッセージング機能の手軽さで普及したBlackBerry端末にも通じるが、iPhoneはさらに高機能でありながら親しみやすいという点で、他に類を見ない特徴を備えている。
滑らかで手になじむ形状。必要最小限だが、考え抜かれたハードスイッチ。マルチタッチや加速度センサーを利用して変化するスクリーンのグラフィックスなど、iPhoneには製品特性を全身で表現したデザインが施されていると言えるのだ。

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