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モバイルデザイン考 第77回
途上国の煙害と燃料問題の解消を目指す
「GravityLight」

今回は、イギリスのクラウドファンディングサービスであるIndieGoGoによって開発された、途上国の現状を救う、重力を利用したランニングコストゼロの発電機を紹介しよう。

photo[プロフィール]

大谷和利(OtaniFaceS)
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中

イラスト
▲「GravityLight」のパッケージ。(クリックで拡大)

●重力を利用して発電

途上国では、夜間照明のためにはもちろん、昼でも暗い屋内で灯りが必要な場合には、ケロシン(灯油)ランプが広く使われている。しかし、その結果、屋内での利用者は1日にタバコ2箱分の煙を吸い込む計算になるという。

事実、それらの国における成人女性の肺ガン患者の6割は非喫煙者であるとされ、両者の関連性を強く示唆する。

さらに、燃料費は家計の1~2割に達して無視できない出費となっており、そのほかの弊害として、灯油ランプの転倒で重度の火傷を負う人はインドだけでも年間250万人に及ぶそうである。

かつて、このコラムで採り上げたLuminAIDやBioLiteのキャンプストーブもそうだが、欧米には、こうした途上国の現状を技術の力で改善しようとするコンシューマー向け製品がいくつか存在する。今回採り上げるGravityLightは、その最新の試みだ。

イギリスのクラウドファンディングサービスであるIndieGoGoで資金を得て商品化されたGravityLightは、その名の通り、重力を利用して発電する。発電量は最大でも0.1Wだが、それでも、1灯のLEDを光らせたり、ラジオを機能させるには十分と言える。そのためだろう、開発チームは、誇りを持って自らの会社名をデシワット(1/10ワットの意味)と名付けた。

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◀GravityLightの本体は、シンプルかつ堅牢な造り。本来は、もっと頑丈な梁などから吊り下げて使用するが、単体で傾いているのは、右側におもりをぶら下げたときにバランスがとれるような設計だからである。グレーの部分は発電量(=明るさ)を三段階に変えるダイヤルであり、その下にLEDが1基搭載されている。(クリックで拡大)

グラビティライトの動力源は、どこにでもある石や砂を詰めた袋である。それが自重でゆっくり下がる間にギアを介して内蔵された発電機を回し、最大28分(0.05W出力の場合。0.075Wでは20分。0.1Wでは12分)の灯り、もしくは、ラジオなど低消費電力機器用のパワーが得られる。

おもりの巻き上げは、1回あたりわずか3秒。ソーラーパネルの弱点である天候の影響も受けず、手回し式やペダル式発電のように発電に時間を取られてしまうこともない。さらに、充電式ではないので、半永久的にランニングコストがゼロで運用できる点も、途上国では重要なポイントと言える。

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◀IKEAの組み立て説明書にも通じる、明快な利用ガイド。発電可能時間は本体を設置する高さに比例するが、28分という発光時間は、途上国の標準的な家の梁ほどの高さがあれば実現できるように考えられている。(クリックで拡大)
photo ◀実際の固定時にはロープやタイラップなどを通す吊り下げ穴のパーツは、水平方向に360度回転し、灯りの向きを調整できる。(クリックで拡大)

最大0.1Wでは、もちろん輝くような明るさは期待できないが、光源そのものの光束の強さを示すルーメンは最大15ルーメン程度でも、実際に照らされる面の照度は最大15ルクスほどになるという。灯油ランプの場合には、1ルクスからせいぜい6ルクスとのことなので、それとの比較では十分な明るさが得られることになる。

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◀本体サイズは、160×103×78mmで、重さが800g。手のひらと比べると、基本的にはコンパクトだが、厚みがはそこそこあることがわかる。また、LEDから下部に広がる凹面状の部分にある程度の集光機能を持たせている。(クリックで拡大)
photo ◀明るさ調整ダイヤルと、LED部分のアップ。外装の仕上がりも、なかなか良い。(クリックで拡大)

IndieGoGoでの資金援助者のところに届いたユニットは、テストユニットの扱いとなっている。GravityLightは、同様のユニット、および、その前身となったプロトタイプを使って、実際の途上国の家庭を使った実用試験が行われ、計4年の歳月を経て製品化された。

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◀筆者のGravityLightの背面には、テストユニットであることを示すラベルが貼られている。予定されていた時期よりも半年程度遅れての完成となった。(クリックで拡大)
photo ◀外部に接続する機器は、プラグ形状によってはそのまま挿せるが、むき出しのリード線などの場合には付属のアダプタを介してつなげるようになっている。(クリックで拡大)

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◀(実際の利用時には、このような細い枝では支えきれないが)付属のおもり用の袋をぶら下げてみたところ。左右の袋は、強靭かつ柔軟な樹脂素材のベルトを使って懸架される。大きな袋は、本来、もっと樹脂ベルトの下のほうに吊り下げる。(クリックで拡大)
photo ◀ベルトを通すスリットは左右に2つあるが、通す方向がモールドされており、組み立てミスを事前に防ぐ。(クリックで拡大)

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◀袋とベルトを接続する専用パーツも工夫されており、長さ調節の容易さと、固定時の安定性を両立させている。(クリックで拡大)
photo ◀デシワットの公式フィールドテストの写真より、自宅に設置した途上国の男性。このような頑丈で高い位置にある梁を利用するには、こうした家屋のほうが向いている。(クリックで拡大)

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◀同じくフィールドテストの写真より。GravityLightは、どちらかといえば天井灯的な位置づけだが、デシワットでは、その外部端子に接続して利用できる、このような卓上ランプユニットも開発している。(クリックで拡大)


なお、GravityLightは、デシワット社のサイト(http://deciwatt.org)で今年の第2四半期中には一般向けの販売が開始され、安全かつ維持費のかからない日常灯としての途上国での役割のほか、アウトドアユースや災害時照明としての先進国での用途にも期待されている。



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