●1970年代後半生まれのシティコミューター
この自転車は、ドイツのKettler ALU-RADという会社のCITY-HOPPERと呼ばれる製品であり、おそらく日本に1台しか存在していない珍しい個体だ。
本来は、特に希少でも高価でもなかったはずだが、日本では市場性がないと判断されたのか、正式に輸出されることがなく、また、廃番となって久しいので、その存在自体が知られていない状況にある。
資料が乏しく、正確な発表年も不明なものの、Kettler ALU-RADが1976年からアルミフレームの自転車を製造していることや、その製造初期の製品と思われることから、1970年代後半のリリースと考えられる。
CITY-HOPPERの名の通り、元々は街中などで比較的近距離を走るシティコミューター的な性格の製品だが、そのような自転車に対して、高度な溶接技術が求められる総アルミフレームを採用したところにメーカーの意気込みが感じられる。
小径のホイールや全長を最小限に抑えたフォルムは、街中での取り回しの良さや積載性を上げるための工夫と言え、ライダーの身長差は高さ方向で吸収するようになっている。このあたりは、初代のフォルクスワーゲン・ゴルフ以降の小型自動車の設計手法とも通じる部分があって興味深い。
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◀車体は小さいが、前後のキャリアを駆使すれば、かなりの荷物を積載できる。ちなみに、リアキャリアに積んでいるのは、Sling-Lightという超軽量のフォールディングチェアと、小枝を燃やして発電や調理が可能なBioLite CampStove & Grillである。(クリックで拡大) |
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◀前輪12インチ、後輪16インチという変則的なタイヤ構成により、フロントの積載量を確保するとともに重心を下げている。フレームは、アルミ素材を高度な溶接技術で組み上げたものだ。(クリックで拡大) |
シティコミューターとして開発されたとは言え、そのポテンシャルは高く、筆者はこれに乗って北海道の釧路空港から阿寒湖を経由して足寄まで100km以上を走破したことがある。途中には足寄峠もあり、それなりの高低差も存在するコースだ。
足寄から、さらに10kmほど帯広寄りの国道上で購入時からへたりの見えていたリアタイヤがバーストしたため、タイヤ交換ができる場所までバスでの移動を余儀なくされたものの、タイヤさえ無事ならば、とかち帯広空港まで3日間で200km前後を走れたはずだった。
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◀ヨーロッパの自転車らしく、リアキャリアにはバネ式の抑え金具が付く。また、樹脂板の周囲のスリットが、ゴムひもをかけたり、ナイロンベルトを通して積載物を固定する際のアンカーとして機能する。(クリックで拡大) |
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◀リアキャリアの直下にある樹脂製の箱は、ストレージボックス。雨具や、折りたたみ式の焚き火台WireFlameなどを格納してある。(クリックで拡大) |
とはいえ、筆者のCITY-HOPPERには、そうした輪行キャンプツーリングに適するように、いくつか手を加えたところがある。
まず、ペダルを折りたたみ式のものと交換し、輪行時の幅を抑えられるようにした。フレームは折りたためないが、ここまで全長が短いと、ハンドルを留めているネジを緩めて前輪と平行になるような位置まで回してから下方に回転させるだけで、十分小さくなる。
もちろんフレーム中央にヒンジがないため、立体的なフレームデザインと相まって剛性も非常に高く、輪行時に破損する危険も少ない。
次に、シングルギアだったリアのハブを交換して内装3段変速とし、ある程度の巡行性能が確保できるようにした。高さを稼いだライディングポジションのおかげで、ペダルに力をかけやすく、上り坂でも安定した走りを見せる。
ハブ交換の際に、ペダルを逆回転させて制動するコースターブレーキ機構ごと元のハブを取り外す必要があったため、新たにブラケットを溶接してもらい、リムブレーキに換装してある。
さらに、フロントキャリアは市販のハンドキャリーを改造し、フレーム前端部に元から設けられている受けパーツなどを利用して簡単に脱着できるようにした。これにより、目的地に到着後はキャリアをそのまま台車代わりに使え、荷物や薪を楽に運べるのだ。
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◀フロントキャリアは純正のオプションだったようだが、購入した固体には付属していなかったため、市販のハンドキャリーを改造して取り付けている。(クリックで拡大)
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◀車体フレーム側の黒い受けパーツは、上が最初から標準で付いているもので、下はハンドキャリーの形状に合わせて、トラックの荷台用のアオリゴムを流用したもの。(クリックで拡大) |
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◀キャンプサイトなどでは、ハンドキャリーを外して使用することで、荷物や薪などの運搬も楽に行うことができる。(クリックで拡大)
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CITY-HOPPERは、一見すると見慣れないプロポーションを持つミニベロ(小径車)だが、実際には、独自の設計思想と高度な製造技術に裏打ちされ、駐輪スペースも最小限で済む、生粋の実用車だ。
今や、いわゆる街乗り用や買い物用の自転車のデザインは1つの方向性に収束した感があるが、かつての自動車界のゴルフがそうであったように、自転車にも高さ方向のスペースを有効に活用する発想を改めて採り入れても良いのではと思っている。
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