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モバイルデザイン考 第74回
スマホなどでコントロールし、
アプリ次第で遊び方が広がるオモチャ「Sphero 2.0」

スマホなどでコントロールし、アプリ次第で遊び方が広がるオモチャ。モバイルを意識したデザインのボール型のロボティクス・トイが登場した。

photo[プロフィール]

大谷和利(OtaniFaceS)
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中

イラスト
▲ボール型のロボティクス・トイ「Sphero 2.0」(クリックで拡大)

●スマホでコントロールするオモチャ

Sphero(スフィロ)は、アメリカはコロラド州ボルダーのOrbotix社が開発したボール型のロボティクス・トイである。iOSやAndroidに対応するスマートデバイス(Kindle Fire HDXを含む)でコントロールされ、アプリ次第でさまざまな遊び方が可能になる点はこれからのオモチャの在り方を示唆し、余計な突起などを持たないフォルムは携行性にも優れて、まさにモバイルを意識したデザインとなっている。

内部の駆動ユニットは、球に内接するように複数のホイールで支えられており、3軸ジャイロや加速度センサーから動きのフィードバックを得ながら、適切なコントロールが行なえるようになっている。

オモチャとは言え、大阪梅田の大型商業施設「グランフロント大阪」のクリスマスイベントにおいて28台のシンクロダンスを披露してオープニングアクトを務めたり、科学教育系のテレビ番組に採り上げられるなど、各方面から注目されている製品だ。

価格はやや高め(14,800円)だが、対応アプリは無料または低価格で入手できるため長期に渡って飽きずに遊べることが期待でき、それを前提にハードウェアで利益を上げるアップル的なビジネスモデルを採っていると考えられる。

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◀比較的高価な製品ということもあり、パッケージもブリスターパックなどではなく、しっかりした紙箱でできている。(クリックで拡大) photo ◀内箱もきちんと印刷されており、外箱を持ち上げたときのコントラストも考えたデザインになっている。ただし、開封後にうっかり外箱だけを掴んで運ぼうとすると、途中で内箱が抜け落ちることがある。(クリックで拡大)

Spheroの本体はシンプルそのものの球形で、完全に密閉された構造だ。そのため、水上走行も可能であり、ポリカーボネート素材の特性と相まって、子供が多少乱暴に扱っても破損しにくくなっている。

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◀Spheroの本体は直径3インチのポリカーボネート製球体で、防水構造となっており、水に浮かべて遊ぶことも可能だ。シンボルマークはシンプルだが、動き回る商品のイメージを良く表している。(クリックで拡大)

スリープ解除の方法や、Bluetoothによるペリング時のSpheroの識別にも工夫が見られる。

前者はノックをするように筐体をコツコツと叩くというもので、初期モデルでは強く振って解除するようになっていたものから変更を受けている。これにより、振動などで不用意にスリープ解除される危険性が減ると同時に、ユーザーにペットのような親近感を与えることに成功している。

また、後者は、内蔵LEDによる調光で無数の発色が可能なことを利用して、サイクル発光する3つの色の頭文字を組み合わせることで、どのSpheroと接続しようとしているのかを見分けられるようになっている。外観やパッケージだけでなく、こういうところにまでデザインマインドが行き届いていることを感じさせる仕様だ。

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photo ◀筐体を指でコツコツ叩くとスリープが解除され、Bluetoothによるペアリングの待機中は固有のカラーコンビネーション(この場合は、赤・青・青)での点滅を繰り返す。このカラーの略称(たとえば、RBB)がペアリング時の識別名になる点が、良く考えられている。(クリックで拡大)

Spheroの発色は、対応アプリ内でも随時変更することができる。このため、筐体形状は1種類でも、異なる色で発光させればSpheroの区別が可能となる。あるいは、Spheroに擬似的な感情を持たせて、それを色で表すようなことも、アプリの作り方次第で実現できるのである。

photo   ◀Spheroのカラーは、コントロールアプリから随時変更でき、複数台を持ち寄ってレースなどをする際に、個々のユニットを区別する目安となる。(クリックで拡大)

●屋外で走らせる

入手当初は、表面の傷みを心配して、樹脂ボディのままで屋外で走らせることに躊躇していたのだが、あるとき、都内のキャンプ場で知人の子供たちに遊ばせたところ、Spheroと散歩すると称して、草地でもアスファルトでもお構いなく転がしながら結構な距離を移動させていった。その後で外装を見たところ、確かに細かい傷はついているものの、ごく浅く、ほとんど気にならない程度であった。

Spheroには、標準的なホワイトボディのほか、Apple Store限定で一部が透明になった特別モデルもある。内部メカニズムが見えるため、好奇心が旺盛なユーザーに向いていよう。ただし、アップルの意向が反映されたのか、こちらは表面がより滑らかに仕上げられているため、小傷などがかなり目立ちそうだ。

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◀Spheroの表面には波のようなパターンがあり、多少の滑り止め効果を持つ。このユニットは直接アスファルトの上などでも動かしたため、細かい傷がついているものの、思ったよりも気にならない。(クリックで拡大) photo ◀Apple Store限定モデルは、一部が透明で内部機構を除き見ることができる。こちらの表面には波形のパターンはなく、滑らかな仕上げになっている。(クリックで拡大)

密封構造のため、充電も非接触方式が採用され、3時間のチャージで1時間の走行が可能となっている。本体と充電ベースの外壁を挟みつつ、送電側と受電側のコイルのクリアランスを最小にする必要があるため、開発と量産には苦労したようだが、充電開始時にSphero自身がコイルの位置を自動的に微調整するなど、生物的な動きを見せるのが面白い。

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◀充電ベースは、むき出しの接点などを持たない非接触方式が採用されている。子供などが遊ぶ際にも感電の心配がない、優れた仕組みと言えよう。(クリックで拡大)

遊び方はアプリや、コースの作り方次第でいくらでも広がるが、パッケージにもジャンプ台セットが付属する。これの収納方法も巧みに考えられており、開梱時の驚きを誘う仕掛けになっている。

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photo ◀標準で付属するジャンプ台セットも、パッケージ内に巧みに収納されるようにデザインされている。(クリックで拡大)

さらに、最初から世界戦略を意識した製品企画であるため、ACアダプタのプラグ部分は交換式のものが採用され、主要な変換パーツがあらかじめ同梱されている。これは、コスト的にはやや不利ではあるが、パッケージング作業の効率を高められ、ユーザーにとっても利便性が高まる、優れた判断だと言える。

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◀ACアダプタのコンセント部分は、標準で世界の代表的なプラグ形状に合わせるための変換パーツが同梱されており、最初からグローバルなビジネスを考えた仕様と言える。(クリックで拡大)

先に、そのまま硬い路面などを走らせても、傷などはさほど気にならないことに触れたが、どうしても本体を傷つけたくない場合にはNubby Coverというシリコーン製プロテクションカバーも用意されている。この厚手のカバーはクッション性もあって耐衝撃性も高まるが、表面の凹凸によって水上走行時に水を掻く力を増し、推進力を上げる働きもする。

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◀オプションで、舗装面や砂地などで遊ぶ際に装着するNubby Coverと呼ばれるシリコーン製プロテクションカバーも用意されている。(クリックで拡大) photo ◀Nubby Coverを装着し、シンクロダンスのリハーサルに備えるSpheroたち。Androidデバイスであれば、1基あたり7台までのSpheroにBluetooth経由で接続できる。青い光点はテールライトと呼ばれ、Spheroの方向をカリブレーションするためのものだ。(クリックで拡大)

●エデュテイメント的アプリ群

そして、Spheroが単なるラジコンのオモチャではなく、ロボティクスを応用したエデュテイメントトイであることを意識させるのが、純正およびサードパーティによるアプリ群の存在だ。

たとえば、画面に描いた線の通りにSpheroが走行する「ドロー&ドライブ」は、プログラミングの基礎を学ぶための入り口にもなり、その動きをマクロで制御できる"MacroLab"へとステップアップできる。

あるいは、AR(拡張現実)系のゲームなどはすでにニンテンドーの3DSなどでも実現されているが、それらが静止したARマーカーの場所に拡張された現実イメージを出現させるのに対し、Spheroの場合にはそれ自体がARマーカーとして動き回るため、これまでにないダイナミックな遊び方が楽しめる。さらに、Sphero自体をゲームコントローラー的に用いることもできるなど、さまざまな応用が考えられる。

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◀pheroが単なるラジコントイではなくロボットの一種であるのは、種々のアプリを使うことで理解できる。たとえば、「ドロー&ドライブ」アプリでは、デバイス上に描いた線に従ってSpheroを移動させることができる。(クリックで拡大) photo ◀"Sharkey the Beaver"は、AR(拡張現実)系アプリだが、Sphero自体がARマーカーとなるため、拡張された現実(この場合は、CG合成されたビーバーのキャラクター)が動き回る点が新しい。(クリックで拡大)

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◀発表会でも、手前の白く光っているSpheroをARマーカーとして、スクリーン前のiPadの画面上で、来場者たちのリアルタイム映像と重ね合わせるデモが行なわれた。(クリックで拡大) photo ◀他にも、マクロを組んでSpheroを動かす"MacroLab"(左)や、Sphero自体をコントローラーとして用いて、画面内の宇宙船を操縦する"Exile"など、すでに約30種類に上る対応アプリがリリースされている。(クリックで拡大)

日本の企業は、もしこのような電子的なトイを開発・販売する場合でも、SDK(対応ソフトの開発キット)を公開せずに、技術を囲い込むことを考えがちだ。しかし、Orbotix社は、早い段階でSDKを開放し、外部のアイデアも活かしながら開発者のコミュニティを作り上げることに取り組んできた。

今後は、そういう部分まで含めた全体がデザインであるという流れが強まっていくことだろう。

 


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