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モバイルデザイン考 第121回 (2018年12月25日更新)

意外な方面からやって来たポケットカメラの逆襲
「DJI OSMO Pocket」

本連載は今回をもって最終回となります。締めくくりとして、発売されたばかりの新発想カメラ、DJI Pocketを採り上げることにした。

photo[プロフィール]

大谷和利
テクノロジーライター、AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。講談社現代ビジネスブックより「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか 一枚の写真が企業の運命を決める」、三省堂より「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著)、宣伝会議より「ビジュアルシフト」(監修)が好評発売中


▲「DJI OSMO Pocket」のパッケージ。(クリックで拡大)


●ドローンメーカー、DJIによるデジカメ

スマートフォンの台頭によって、デジタル一眼(ミラーレスを含む)を除けば、従来のコンパクトカメラの市場は、実質的に、次のような3つの戦力によって群雄割拠の状態にあるといえる。

すなわち、GoProに代表される超広角のアクションカメラ、ThetaやInsta 360シリーズ、QooCamのような360度カメラ、そしてチェキベースのインスタントカメラだ。しかし、ここに新たな勢力となりうる強力な製品が現れた。それが、DJI OSMO Pocket(以下、OSMO Pocket)である。

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▲OSMO Pocketのサイズは、わずか121.9×28.6×36.9mm(重量も116gしかない)。3軸のジンバルは、± 0.005度の制御精度と秒間120度の最大制御速度を実現しており、史上最小クラスのジンバル付きオールインワンカメラといえる。(クリックで拡大)















OSMO Pocketのサイズは、わずか121.9×28.6×36.9mm(重量も116gしかない)。3軸のジンバルは、± 0.005度の制御精度と秒間120度の最大制御速度を実現しており、史上最小クラスのジンバル付きオールインワンカメラといえる。

DJIといえば、最大手のドローンメーカーだが、少し前に中判カメラの名門ブランドのハッセルブラッドを買収するなど、大いに気を吐いている(技術リソースの取得もさることながら、そのブランド力を今後のビジネスに活かせることが、DJIにとっての最大の魅力だったに違いない)。そして、そのハッセルブラッドの名を冠するカメラを搭載した「Mavic 2 Pro」や、民生機初の光学ズーム機能付きカメラ(こちらは、ハッセルブラッドではなくノーブランド)を備えた「Mavic 2 Zoom」を発売し、さらにシェアを拡大する勢いだ。

一方でDJIは、ドローンに搭載するカメラで安定した映像を記録するためのスタビライザー、つまりジンバルの開発にも熱心に取り組み、それをスマートフォンやデジタルカメラと組み合わせて利用できる単体製品も販売している。しかし、ドローンに内蔵できるほど小さな4Kカメラを、ジンバルと一体化してポケットカメラを作るというアイデアは、完全に意表を突かれた。

思うに、360度カメラ、特にDJIと同じ中国メーカーのARASHI VISIONが作り出した「Insta 360 One」の成功が、開発魂に火をつけたことは想像に難くない。上下左右360度の映像が記録されていることを活かして、強力な電子手ぶれ補正を実現したInsta 360 Oneの存在は、アクションカメラの新たな方向性を示唆するものだった。

だが、360度カメラは撮像素子の画素数を全天周に割り当てるため、撮影データから一般的な映像を切り出した場合には、フル画素数の半分以下になるという制約から逃れられない。もちろん、技術の進化によって360度カメラも、Insta 360 Oneの上位機種であるInsta 360 One Xのように5.7K程度の撮像素子まで搭載されるようになってきており、その半分以下だとしても一般向けとして十分な解像度がある。しかも、可動部がなく故障の心配も少ないため、将来性は依然として高いと個人的には考える。

他方、カメラ自体の画角は26mm相当(35mm換算)とiPhone Xの広角側よりも多少広い程度のDJI Pocketは、撮影範囲という意味では360度カメラはもちろん、超広角が売り物のGoProにも及ばないが、スティック型のデザインと4Kをフルに使った滑らかな映像が大きな魅力となる。レンズ部分の質量が小さいので、ジンバルの駆動部の負担も軽くて済み、少ないパワーでスムーズな動きを実現できているものと考えられる。




▲滑り止め加工がなされたグリップの正面にはDJIのロゴがエンボスされ、その右側面にマイクロSDカードスロットがある。握ったときにこちらを向く面には、1インチディスプレイと、スマートフォンに接続する場合の脱着式端子、シャッターボタン、電源スイッチがあり、底面にUSB-Cの充電ポートを備える。充電ポートの下にQRコードらしきものが見えるが、手元のiPhone Xでは読み取れなかった。(クリックで拡大)












小さいながらもディスプレイを内蔵していることで、単体での撮影も楽に行える。フォーカスの確認のためにはディスプレイが大きいに越したことはないが、この製品の全体コンセプトを考えれば、必要にして十分なサイズといえる。このディスプレイはタッチスクリーンになっており、上下左右にスワイプすることで、各種設定画面やアルバム機能を呼び出せる。



▲ディスプレイのスワイプは、上からが全体の設定、下からがカメラの中央復帰やセルフィ用の180度ターンなど、右からが撮影モード切り替え、左からがアルバム機能の呼び出しとなっている。(クリックで拡大)









内蔵の画面では小さ過ぎる、あるいは、より細かな設定を行いたいという場合には、専用アプリをインストールしたスマートフォンを外付けディスプレイとして利用できる。ここの仕組みがなかなかよくできており、カバーを外して2種(LightningかUSB-C)のアダプタに差し替えるのだが、携帯時には端子が出っ張らない向きに差しておき、接続時には反対向きに差すことで筐体からはみ出し、デバイスにつなげるようになる。



▲脱着式の端子によってスマートフォンを外付けディスプレイ化できる、巧みな設計がなされている。(クリックで拡大)





▲(クリックで拡大)








ソフトな樹脂素材製のユニークな形状のケースもなかなかよくできており、脱着式の端子を装着したまま収納できるように切り欠きを設け、その部分をベルトで覆うことでカメラ本体を固定する。
また、一般のジンバル製品は、持ち運ぶときに結構かさばるが、OSMO Pocketは元々サイズが小さい上に、電源オフで自動的にケースに格納しやすい角度に調整され(執筆時時点で最新のファームウェアで対応)、そのまま文字通りポケットに収めて動き回ることができる。



▲筐体に合わせたユニークな形状のケースに収めやすいように、OSMO Pocketは電源オフで収納に適した角度にジンバルが折りたたまれる。(クリックで拡大)





▲(クリックで拡大)








黎明期のデジタルカメラには意欲的なデザインの製品が多かったが、最近では皆、定石的なカタチに落ち着いてしまっている。OSMO Pocketは、そんな業界に一石を投じる存在であり、今後、少なからぬ数のフォロワー製品が他社からも現れそうだ。

振り返ると、このコラムシリーズでは結構な回数を連載してきたことに改めて驚かされた。ご愛読、ありがとうございました。








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