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モバイルデザイン考 第101回
コンセプトカーと現代アートで満たされた
ベルリンのフォルクスワーゲン・グループ・フォーラム


7月にドイツのベルリンに行く機会があり、たまたま街中を歩いていて目に止まったフォルクスワーゲン・グループ・フォーラムというショールーム兼ミュージアムのような施設が面白かったので、今回は、その展示物などを紹介したい。

photo[プロフィール]

大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。アスキー新書より「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」、「iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」、エイ出版より「Macintosh名機図鑑」が好評発売中

イラスト
▲現代アートの展示から(クリックで拡大)

●フォルクスワーゲンとアート


フォルクスワーゲン・グループは、排ガス不正が問題視され、その後処理で赤字に転落するなど大変な目に遭ったが、北米や南米における販売減をヨーロッパとアジア、特に中国での販売増が補う形で、その後も世界販売台数トップを記録している。今やフォルクスワーゲンは、グループで見れば大衆車だけのメーカーではなく、超高級車からスーパーカーまでを擁するマルチブランド企業となっており、実はフォルクスワーゲン(グループ)とは知らずに別ブランドの製品を買っている層もそれなりに上っているとも考えられる。

フォルクスワーゲン・グループ・フォーラムは、そんな多面性を持つ同グループのブランドイメージを浸透、向上させるために作られた施設で、訪れたときにはコンセプトカーと現代アートの展示が行われていた。

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◀今やフォルクスワーゲン・グループは、ポルシェ、アウディ、サーブはもちろん、ランボルギーニ、ベントレー、ブガッティに至るまで計12ブランドを擁している。(クリックで拡大)

コンセプトカーは、いわゆるモーターショーなどのイベントでも見ることができるが、ここでは、一部を除いて、ショールームのように展示されている。実際には係員もいて、触れたりすることはできないが、この近さで観察できるのは、カーデザインに興味のある人間にとってはたまらない体験となろう。

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◀純粋にコンセプトカーといったフォルムとディテールのGOLF GTE SPORT。シェルの中に別のマスが貫入しているようなデザインテーマは、後出のブガッティにも通じるものがある。(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

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◀チェコベースのシュコダのVISION Cは、よりクリーンで現実的なまとまりを見せるが、グループ内のアウディのフォルムに、ライバルのBMWのテイストを加えたかのような印象を受けた。(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

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◀かつてはイタリアのフィアットと提携関係にあったスペインのセアトのSUVコンセプト、20V20。2020年のSUVの姿を先取りしたという触れ込みで、同社が培ってきたブリスターフェンダーを核とするサイドビューをSUV向けに発展させ、半径1.1mmのシャープなエッジに代表される鋼板プレス技術のショーケース的な意味合いも持つ。(クリックで拡大) photo ◀ブガッティのVision Gran Turismoは、実車ではなくモデルカーでの展示だった。このクルマは、元々レーシングゲーム「Gran Turismo」のためにデザインされたドリームカーだが、その後、実走行可能な車両も開発され、現行のBugatti Chironの原型的な役割を果たした。ちなみに、モデル制作を行ったアマルガム・ファイン・モデル・カーズは、2,000を超えるパーツを手作りして、実車と見紛うモデルカーを作り上げることで知られたイギリスの会社だ。(たぶん、常設と思われる)プロジェクションマッピングを応用した展示装置も、リアルな本とバーチャルな映像のメリットを巧みに組み合わせており、大いに参考になった。(クリックで拡大)

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◀プロジェクションマッピングの手法を書籍に応用した展示装置。ページをめくると、右上隅の2次元バーコードが読み取られて、適切な映像が所定の位置に投影され変化していくことで、ブランドの歴史などのコンテンツをダイナミックに見せていく仕組みになっている。(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

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◀(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

現代アートの展示は、排ガス問題で揺れたフォルクスワーゲン・グループが主催している点が皮肉ではあるが、環境や汚染問題をテーマとする作品が多かった。ドイツ自体が、戦時中などの過去の過ちを今も反芻しつつ反省している国なので、捉えようによっては、これも同グループなりの謝罪方法なのかもしれない。

特に、レアメタル/レアアースの負の側面(採掘時および製錬時の放射性物質の放出)に着目した作品は、地味だが、逆戻りできない現代社会が抱える闇の部分を無言で告発するものとして、大いに考えさせられた。


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◀Environment Dress 2.0と呼ばれるこの作品は、装着者の周囲のノイズ、気温、気圧、紫外線量、一酸化炭素レベルなどを測定し、その値を遠隔地からアプリで確認できたり、同じ感覚を味わえるようにするもの。(クリックで拡大)

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◀巨大な発砲スチロールの角柱から、ギリシャ彫刻のような肉体を切削ロボットによって削り出していくインスタレーション。完全なボディを削り出すのではなく、角柱の一部を残すことで視覚的な重量感が増幅され、まるで石膏像のようだが、実際の質量は非常に軽いという人間の感覚を欺く側面を持つ。(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

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◀実演時間ではなかったので、装置だけが置かれていたが、実際には3台のドローイングロボットと4人の役者によるドラマ仕立てになっている「Human Study #1」という作品。動いているところは見られなかったものの、ロボットの描く似顔絵がかなり良くできていて興味深い。(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

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◀砂をバクテリアの力を借りて固めることで製造されるバイオセメント「bioMASON」を使ったレンガ。一般的なレンガは、今も世界の建築プロジェクトの8割に使われているそうだが、焼き固めるときに多大なエネルギーを消費し、CO2を排出する。バイオセメントは、そのようなデメリットのない製品だ。(クリックで拡大)

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◀電子機器の製造に欠かせないレアメタル/レアアースは採掘中も製錬過程でも放射性物質を放出する。これは、製錬後の残滓から、それぞれスマートフォン、ノートPC、カーバッテリーの製造によって生じるのと同量の有害物質を含む土を取り出して焼き上げた花瓶であり、問題提起のために作られた。(クリックで拡大)


最後は、フォーラム内のショップで目に付いたスピーカーを採り上げよう。我々の世代は、エキゾーストノートを奏でていたものが音楽を再生するスピーカーに変身することの面白さを感じられるが、電気自動車や水素燃料自動車の時代になれば、元が何だったのかも分からない状況が生じていくのかもしれない。

展示物は変わっていくだろうが、ベルリンを訪れる予定があれば、フォルクスワーゲン・グループ・フォーラムは立ち寄る価値のある場所の1つだ。


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◀これは作品展示コーナーではなく、フォーラム内のショップで販売されていた2.1ch、200W出力のスピーカー。ポルシェ911 GT3のサイレンサーと排気管の実物が使われており、価格は2,900ユーロだった。(クリックで拡大)



 


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