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コラム

モバイルデザイン考 第100回
一段とパワーアップした
Fabミニ四駆カップ2016

本コラムの連載100回目は、筆者も自作車で参戦している、デジタルファブリケーションの最先端とも言える「Fabミニ四駆カップ」をレポートする。

photo[プロフィール]

大谷和利
テクノロジーライター、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)アドバイザー、自称路上写真家。Macintosh専門誌、Photographica、AXIS、自転車生活などの誌上でコンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のコンサルティングも手がける。主な訳書に「Apple Design日本語版」(AXIS刊)、「スティーブ・ジョブズの再臨」(毎日コミュニケーションズ刊)など。近著に、「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか 一枚の写真が企業の運命を決める」(講談社現代ビジネス)、「ビジュアルシフト」(共著・監修。宣伝会議)、「ICTことば辞典」(共著。三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著。カラーズ)など。

イラスト
▲今年で3回目を迎えるFabミニ四駆カップ。(クリックで拡大)

●Fabミニ四駆カップとは

この連載も、今回で100回目を迎えることとなった。実のところ、編集長から伝えられるまでまったく意識していなかったのだが、改めて考えてみると8年余りも続いてきたことになり、感慨深いものがある。これからも、多少なりとも読者の皆さんの知見を広げていただけるような話題を提供していければ幸いだ。

さて、その100回目が、Fabミニ四駆カップに関する記事となったことは、たまたまでとはいえ、大きな意味があると感じている。今後、ますます広がりを見せていくことが予想されるこの分野は、身近でありながら、デザインはもちろん、メカトロニクスやIoTプログラミングといった要素を選択的に取り込むことができ、子どもから大人まで、個人でもチームでも、そして親子でも楽しめるという、幅広い可能性を持つものだからだ。

一昨年にスタートし、今年で3回目を迎えるFabミニ四駆カップは、タミヤのミニ四駆キットをベースに3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーション技術でカスタマイズ、あるいはシャシーからフルスクラッチしたマシンによって行われるカーレースである。

クラスは2種類あり、エントリー的なカルFabクラスではタミヤ純正のグレードアップパーツを用いることもでき、どこか1カ所でもファブしてあればよい(たとえば、自作のステッカーをプリントして貼るだけでもOK)。上級のマジFabクラスでは、タミヤ製パーツは基本的にキットに含まれるもの以外は使用不可となり、改造自体もファブ的に行う必要がある。両クラスとも、電池やモーターなどは何を利用しても構わず、コースはミニ四駆のジャパンカップで利用されるものと同じユニットを使って構築されるが、極端な急坂などが盛り込まれている(詳しいレギュレーションは、公式ページを参照のこと)。

Youtubeに今回の公式動画も公開されている。

前回までは1台ごとのエントリー料を払えば定数に達するまで何台でも出走できたが、今回は、参加希望者の増加に合わせて、個人・チームともに各クラス1台ずつまでとなった。ただし、1人が個人とチームのメンバーの双方の立場で参加することは可能であり、筆者も個人2台、チーム2台の合計4台をエントリーした。

実は、昨年の第2回大会のマジFabクラスにおいて筆者は運良く優勝することができたのだが、今年はトーナメント対戦における自作車両の完走率が前回より高まったにもかかわらず、中途敗退を喫することとなった。しかし、他の参加車両も含めて、内容的には非常に興味深いものとなったので、併せて以下に紹介していきたい。

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◀今年の参加者の集合写真。中央付近の黄色い3人組が筆者を含むチーム・50サウンズで、銀座五十音店主の宇井野京子さんと信頼文具舗代表の和田哲哉さんが参加している。(クリックで拡大) photo ◀昨年と同じくコクヨの品川オフィスを利用して構築されたコースは、約1200mm進む間に600mmの高低差のある坂が鬼門。その他のパートもよりテクニカルになった。また、「この辺り予定」の位置に、坂道対策のセンサー制御に利用できる赤外線LEDユニットが設置された。(クリックで拡大)


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◀最大6種類のマテリアルで一括造形可能なスーパー3Dプリンタ、Stratasys J750で出力された優勝トロフィー。CMYKW+クリアによるフルカラーでプリントでき、このトロフィーの文字部分もクリア樹脂で覆われているが、透明度が高く、普通に金型成型されたものとほとんど区別がつかないレベルにある。(クリックで拡大)


筆者製作の車両が複数(今回4台、前回3台)となってしまうのは、いろいろと試してみたいアイデアが湧いてくるためだ。 たとえば、1台はチーム・50サウンズのテーマでもある文具モチーフのもので、今回はステープラー(ホッチキス)をイメージした(前回は鉛筆)。

また、3Dペンの3Doodlerをボディ造形に利用した車両は、厳密にはデジタルファブリケーションではないが、CADの知識がなくても造形できるという意味で、子どもたちでも試みやすいのではないかという思いから作っている。さらに、プロ向けの3D CAD、Fusion 360を使ってボディ設計を行ったマシンは、個人的にこのアプリの使い勝手やポテンシャルの高さを確認したかった面がある。

そして、最後の1台は、誰も試していない機構を組み込みたいということで、プロペラによってダウンフォース、つまり車体を下向きに押さえつける力を得て、急坂におけるコースアウトを防ごうとした(結果、ダウンフォースが効きすぎ、また、プロペラのモーターに電力を食われて、スピードが伸び悩んだ)。

車両のシリーズ名は、宇井野さんの発案で、Fabmula(ファブミュラ)としており、これはFab(ファブ)によるFormula(フォーミュラ)カーという意味が込められている。

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◀筆者のカルFabクラス向け個人参加車両、Fabmula-007 FA-1。オートデスクの3D CAD、Fusion 360を使ってボディを設計し、私物のBUKITO 3Dプリンタでテスト出力(奥)。FabCafe TokyoのZortrax 3Dプリンタで最終出力(手前)を行った。(クリックで拡大)

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◀後述するALBEDO 100のパーマネント・メタリックで塗装後のFA-1。ダブルバブル(ふたコブ)タイプのルーフや後端のスリット状の熱気抜きにビンテージスポーツカーへのオマージュをちりばめてある。(クリックで拡大) photo ◀(クリックで拡大)

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◀チーム・50サウンズとして製作しマジFabクラスに参加した、Fabmula-004 ゴーズオン・ステープラー号。ホッチキスをモチーフとし、本物のホッチキスを内蔵した、機能するミニ四駆。ドライバーシートに座っているミニフィギュアは、銀座五十音の宇井野店主を3Dスキャンし、彼女自身が着彩したものだ。(クリックで拡大) photo ◀チーム・50サウンズのカルFabクラス参加車両、Fabmula-005 3Doodler 2号のボディは、その名の通り、3Dペンの3Doodlerによって製作。第二世代の3Doodlerを使い、昨年の初号機よりも繊細な造形が可能となった。(クリックで拡大)

 
前回は、カルFabクラスの車両も全体写真を撮る機会があったのだが、今回は全体スケジュールの関係で割愛され、筆者自身もマシンの調整に追われて自分の車両以外はあまりフォローできなかったのが残念だ。だが、実際には前回のマジFabレベルの車両がカルFabクラスに出てくるような状況で、熱戦が繰り広げられた。

一方で、マジFabクラスには、シャシーから自作されたマシンも少なからず登場し、蛇をイメージした3ユニット連結タイプの車両や、レーザーカットした木質素材を積層して作られたボディを持つものなど、それこそ百花繚乱の様相を呈した。

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◀3Doodler遣いの田中俊哉さんが折り紙をモチーフにボディ製作したカルFabクラス参加車両。一旦、平な状態で造形したものを分割し、改めて折り目の部分に角度をつけ、溶着して作られている。(クリックで拡大) photo ◀試作時には、このような別テーマの造形も試みられたが、最終的に千代紙を折り上げたような出場車両のボディが採用された。(クリックで拡大)

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◀勢ぞろいしたマジFabクラスの参加車両たち(その1)。最も手前のプロペラ付きのモデルが、筆者のマジFabクラス向け個人参加車両、Fabmula-006 Foozine(フウジン)号。その左の黒いマシンは、坂になるとサイドのローラーを壁に押し当ててジャンプせずに路面に吸い付くように走る機構を備え、3位に入賞。水色と白のツートンの車両は、準優勝したオーガナイザーの1人でデザイナーの根津孝太さんのマシン。(クリックで拡大) photo ◀マジFabクラスの参加車両たち(その2)。コースの側壁に動輪を押し付けて移動する側面駆動タイプの車両や、製作者が漕ぐ自転車のペダル回転数によって走行速度が変化するもの(左上の2両編成の電車のようなマシン)も登場した。なお、今回のマジFabクラスでは、黒光りボディを持つガンセキスポーツが優勝した。(クリックで拡大)

カルFabクラスには、3Doodlerを利用した車両がもう1台参加した。筆者のものよりも自由な発想で造形されたボディは、カラフルな折り紙細工をイメージしており、3Doodleの持つポテンシャルがよく分かるものとなっている。

コースの周囲に設けられたブースでは、大会関係者やスポンサー企業による展示が行われ、こちらも見所満載だった。中でも、マジFabクラスの優勝賞品ともなったデスクトップ切削マシンのKitMillは、参加者垂涎の的で、オートデスクのFusion 360チームもアルミ削り出しのマシンを持ち込んだことから、次回はこうした造形手法のマシンも勢力を伸ばしそうだ。

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◀昨年のカルFabクラス優勝者の圓田 歩さんがこの1年余りをかけてFusion 360を使って生み出した車両たち。手前のナッチャンは、娘の小春ちゃんのスケッチを元に造形され、奥様もカッティングシートやラインストーンの飾り付けで協力。また、その左の車両は、本レース前のワークショップに参加した小春ちゃんが着彩したバキュームフォームボディを搭載している。(クリックで拡大) photo ◀圓田さんのマジFabクラス参加車両。塗装とデカールによって、まるでプラモデルのような仕上がりだ。また、前後のステーや四隅のガイドローラーもUVプリンタやレーザーカッター、CNCマシンなどを駆使して自作されている。(クリックで拡大)


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◀スポンサー企業の1つ、XYZプリンティングのブースには、プロのデザインユニットt-o-f-uとのコラボレーシションによる赤黒ツートンカラーのコンセプトモデルの姿も。(クリックで拡大) photo ◀t-o-f-u製作による実際のマジFabクラス参加車両は、こちらの中央のLIVE eye。中央上部にレーザーポインタを搭載し、天井を見ると走行中の車両位置がわかるという仕掛けだ。隣のLIVE earは、Bluetoothスピーカーを搭載して、音楽を再生しながら走るというもの。(クリックで拡大)

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◀毎回、大量の車両を送り込んでくるホンダのデザイナーチームの新作でもっとも目立っていたのはサーフボードとサーファーをモチーフとする手前中央のSUMMER MAN 2016。その左に見えるブルーとシルバーのTAK-TEKチームのマシンは、チタン合金の板金ボディと削り出しのアルミホイールを持つ、ロブスターモチーフのLOBSTRIKER。また、右側のターンテーブル上の車両は、航空機のエンジニアがデザインしたプロペラ推進機構を持つが、惜しくもわずか数センチでリタイヤ。(クリックで拡大) photo ◀Fusion 360チームが、ほぼすべてのパーツをアルミ削り出しで作り上げたこの車両は、個々のタイヤを独立した4個の手巻きのモーターで駆動するモンスターマシン。完成が本線ギリギリとなり、スタート後に1ミリも動かないという出落ちに。(クリックで拡大)

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◀左のスケッチをよく見ると、側面が半円断面ではなく直角に切り立った形状も検討されていたことがわかる。(クリックで拡大)


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◀賞品などを提供するスポンサーブースの様子。マジFab優勝賞品は、オリジナルマインドのデスクトップ切削マシン、KitMill。サイズは小さくとも、金属やカーボンファイバーも削れる本格ツールだ。(クリックで拡大) photo ◀日本初の国内開発・生産のパーソナル3Dプリンタ、atomを手がけるGenkeiのブース。奥に見えるのは、英国でボルボがサイクリストの夜間走行の安全のためにLifePaintの名称で配布したこともある反射スプレー、ALBEDO 100を扱うスキャンジャップの展示。(クリックで拡大)

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◀ALBEDO 100のインビジブル・ブライトは、服や靴、紙などに塗布しただけではほぼ無色だが、自動車のラインとフラッシュなどの強い光があたると、再帰反射(反射光を光源方向に戻す)を起こし、洗濯や水洗いで除去できる特殊な塗料。他に、家畜などに塗布しても安全なホース・アンド・ペットと、グレーの塗色で耐久性のあるパーマネント・メタリックがある。(クリックで拡大)

なお、最後にレース車両ではないのだが、コースのVR撮影用に筆者が製作したFabmula-008とその撮影結果も紹介しておこう。カメラ部の重量や走行の確実性を考慮して、高い登坂能力を持つワイルドミニ四駆をベースとしているが、そのままでは前のめりとなったり、張り出したタイヤがカーブでつかえてしまうため、それなりの改造を加えている。

Fabミニ四駆コースをドライバー視点で見ると改めてその過酷さが分かるが、これを見て興味を持たれたなら、次回にはぜひ読者の皆さんも自作車両で参加されることをお勧めしたい。


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◀レース用ではないが、コースの360度VRビデオ撮影のために製作したFabmula-008。低速で力強く坂を登れるワイルドミニ四駆のシャシーをベースに、先端部分にVRカメラのGiroptic 360を搭載できるようにし、重量バランスのために電池ボックスを最後部に移設している。コースのインタラクティブなVRビデオは、Chromeブラウザでにアクセスすることで見ることができる。(クリックで拡大)

 






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