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欧州、デザイン散歩:第11

April, 2022:アムステルダムのアップサイクルとプロダクトデザイン
喜夛倫子

オランダ在住のプロダクトデザイナー、喜夛倫子さんの欧州レポートをお届けします。
毎月ヨーロッパの街角を巡る、喜夛さんのデザイン散歩をお楽しみに。

イラスト
[プロフィール]
喜夛倫子(Kita Tomoko):プロダクトデザイナー。オランダ・アムステルダムを拠点に活動。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具デザイン学科卒業。Michael Young Studio、Kohler社のロンドンデザインスタジオでインターンを経験。日本のデザイン事務所で5年間、国内外の地場産業のプロジェクトなどに携わる。ロイヤルカレッジオブアートを中途退学し、2016年にT Magpie Design Management /Tomoko Kita Studioを設立。ヨーロッパを中心に美術館、教育機関、展示会でワークショップを行っている。2003年よりヨーロッパの展示会で作品を発表。Shogitoはイタリアで永久所蔵品されている。素材への興味から、応用化学の学位を持つ。


サーキュラーエコノミー政策がEU評議会で承認されて以来、EU加盟国は、国を挙げて循環経済の実現に向けた取り組みを推し進めています。その中でも、オランダは先駆的な国として知られ、デザイン業界でも、不用品を価値あるものに変えて市場へと循環させるアップサイクリングプロジェクトや、歴史的建築物などを、その時代ごとに必要な実用的な空間として活用する、リパーパシングプロジェクトなどが盛んに行われています。

今回は、アムステルダムから、「タイムレス」をコンセプトにアップサイクルした照明をデザインするインテリア&照明デザイナー「Sheryl Leysner /シェリル・レイスナー氏」と、「ゴミの地産地消」をテーマにしたアップサイクルプロダクトの専門店「The UPCYCLE」をご紹介します。

●インテリア&照明デザイナー、シェリル・レイスナー氏


シェリル氏はウィリアム・デ・クーニングアカデミーでインテリアデザインを学び、著名なイデザインスタジオで経験を積んだ後、2011年にアムステルダムで、7人のスタッフとともにさまざまな建築プロジェクトに携わる「Sheryl Leysner interior architecture & project management」を設立しました。会社設立と同時にクライアントのためにデザインを始めたアップサイクル照明が好評を得て、自身のブランド「Ruwe Bolster」を立ち上げ、10年になります。

一度原料に戻してから別の製品へと循環させるリサイクルに比べ、廃棄品の持つ構造や特徴を用いて新しい使い道をデザインするアップサイクルでは、元のプロダクトの特徴が反映されやすいという側面があります。古い時代のプロダクトには、人が実際に手を触れて確認し、調整する工程が多い分、作られた時代ごとのデザインスタイルや製造方法の特徴が、そのディテールに表れます。シェリル氏は、そのディテールをプロダクトの素材の1つとして組み込み、タイムレスな照明をデザインしています。

シェリル氏は、その空間のストーリーを伝える照明をデザインすることを得意としており、オフィス機器や、楽器、鏡など、安価なビンテージ品やセカンドハンド品をマーケットやチャリティーショップなどで探し出して、場所の背景を物語る照明を製作しています。バーのために製作した、さまざまな形のクリスタルのウィスキーデキャンタでできた照明は、その表面の凹凸がキラキラと光を反射させ、年代物のお酒を味わう楽しみを深めてくれる大人の空間を演出しています。(写真1

シェリル氏は、ミュージシャンとアーティスト、サイエンティストのために建てられたリタイアメントハウスの、アーティストたちが暮らす空間と、そこで使うアップサイクル照明をデザインしました。居住するアーティストたちのアートを使って各部屋の玄関ポーチに灯される照明を製作し、食堂や図書室、ピアノのあるコモンスペースの照明は、それぞれの空間に合った細やかなディテールが楽しめる不用品をアップサイクルしてデザインされています。

一線を退いた芸術家たちが、自分の感性を表現する機会を持ち続けながら豊かに過ごすことができるように、居住者以外も利用することができるレストランはギャラリーを兼ねており、居住する画家たちの最新作が展示されています。(写真2、3

これまで、古い不用品をアップサイクルしたカスタムメイドや、少量の生産が主だったシェリル氏の照明ですが、ビンテージのお皿を2枚重ねたデザインの照明が好評を得て、マスプロダクションされることになりました。産業廃棄物として処理される予定だった陶器工場で出た不良品や傷物をアップサイクルして製造されます。シェリル氏にとって、新たな試みとなるこの照明は、ZARA HOME社から3,000個が販売される予定です。

●ゴミを地産地消する
アップサイクルプロダクト専門店「The UPCYCLE」

「ゴミの地産地消」をコンセプトにしたアップサイクルプロダクトの専門店「The UPCYCLE/ ザ・アップサイクル」がアムステルダムの中心地にオープンして、今年で11年目となります(写真4)。

「アムステルダムのゴミを減らしたい」と思いをひとつにした、後の共同経営者となるデザイナー3人を含む4人の若者たちは、当初、街にあふれる廃棄自転車でリユースビジネスを始めたいと考えていました。ところが、廃棄自転車を修理する過程でも、消耗部品などのゴミを大量に出すことが分かり、ゴミを減らしたい4人は、リユースできない廃品を使って実用的なプロダクトをデザインし、市場に循環させるアップサイクルの専門店「The UPCYCLE」を起業しました。

「The UPCYCLE」は、もう使い物にならないと世界が諦めてしまったゴミたちをクリエイティビティの餌に、永続的な価値を与えることをミッションにしています。アップサイクルされているのは、アムステルダムの廃棄物が99%、残りの1%もオランダの別の場所で出されている100%オランダ産のゴミです。自分たちで回収したゴミは、ソーシャルワークショップと呼ばれる自閉症や身体に障害を持つ人たちが働く工房や自分たちの手で製品へと生まれ変わります。

店舗では、不用品に使われている素材の特性を最大限に利用しつつも、元のプロダクトのディテールを残したユニークなアップサイクルプロダクトを購入することができます。自転車大国オランダらしい自転車のタイヤチューブを再利用したポーチやベルト、レコードに熱を加えて成形したボウル、広告バナーを縫ったカバン、解体した家の端材で作った巣箱は、オンラインでも購入が可能です。

オリジナルの製品の他に、オランダのスーパーには必ずある、ジュース絞り機から出たオレンジの皮や、カフェで出たコーヒーの出涸らしを使った洗剤など、ゴミの地産地消をコンセプトに持つ他社ブランドのリサイクル製品なども扱っています。また、自分でアップサイクルプロダクトを作ることができる体験型ワークショップを定期的に開催しており、地域に密着したアップサイクルの促進に貢献しています。

時を経た不用品をアップサイクルすることにより、その時代ならではのディテールや作り手の感性を現在に循環させて「タイムレス」な照明をデザインするシェリル・レイスナー氏。日々大量に生み出され続けるゴミを、同じタイムラインですぐに「地産地消」し、地域に密着したアップサイクルを推進するThe UPCYCLE。それぞれのデザインにおける、アップサイクルへのアプローチの仕方をご紹介しました。


※リファレンス
シェリル氏の照明ブランド:
https://ruwebolster.nu/go-with-the-flow-surfboard-lamp/

ザ・アップサイクル:
https://theupcycle.nl/




▲写真1:バー&ビンテージの食器の照明。(クリックで拡大)


▲写真2:シェリル氏&リタイアメントハウスのギャラリーカフェ。(クリックで拡大)


▲写真3:アートやセカンドハンド品を用いた照明。(クリックで拡大)


▲写真4:アップサイクルしたプロダクトの専門店「The UPCYCLE」。(クリックで拡大)








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