1本の線から平面や立体を生み出す「Knitting Technology」。11世紀ごろに中東の人々によって開発され、ヨーロッパには14世紀ごろに伝わりました。魚網やレースなど、オランダ文化に欠かせない古くから馴染みのある技術の1つです。
この「Knitting Technology」を建築物や空間と融合させるオランダ人デザイナー、Petra Vonk(ペトラ・ヴォンク)氏とそのデザインをご紹介します(写真1、2)。
ファッション業界で15年ほどキャリアを築いたペトラ・ヴォンク氏は、自身のデザインしたニットを衣類の生地としてではなく、より長いライフサイクルのものに使えないかと考え、「Knitting Technology」を建築物、空間、プロダクトなどのデザインに応用したデザインを提案するようになりました。
以来「Knitting Technology」の新たな可能性に挑戦し続け、そのデザインは編まれたことによるテクスチャの温かみや華やかさを建築やインテリアに加えるだけではなく、ニットの特性を生かした実用的な機能を備えていることを特徴としています。
●Knitted Facade/大人のための学校を包む巨大なニットの壁
オランダには、学業を事情により修了できなかった人のためのVAVOという教育機関があります。教育を受け直し、中学や高校の卒業資格を取りたい大人のための学校です。
ペトラ・ヴォンク氏は、建築家Mariette Adriaanssen氏の依頼により、ティルブルフという繊維産業で栄えた街にあるVAVOの校舎のリノベーションプロジェクトで、建物の顔となるファサードを覆うニットの外装パネルをデザインしました。
校舎は、レース状に編まれたニットのパネルで覆われ、繊維産業で発展したティルブルグという街の歴史を象徴する建物へと生まれ変わりました(写真3)。
ニットの特徴的なテクスチャを表面に出すために、ニットの現物がパネルの樹脂の最後の層に埋め込まれています。
「パネル製作の過程は非常に難しい挑戦となりましたが、300平方メートルもの大きなニットの壁を作る! という美学が原動力となりました」とペトラ・ヴォンク氏。この半透明のニットパネルにより、教室の隣接する駐車場が視界から遮られ、またパネルの持つ防音効果も手伝って、室内の生徒たちが授業に集中できるようになりました。巨大なニットが、室内に差し込む日差しを和らげ、穏やかな空間の中で勉強に励む大人達を優しく包みます。
●PLECTURE /パーティション
PLECTUREシリーズ(写真1)は、より心地よいオフィス環境を実現するためにデザインされたパーティションです。閉塞感を感じさせることなくプライバシーを確保し、吸音効果を持つことで知られるフェルトを3D構造に編んだ構造により、周囲の騒音を劇的に低減します。
また、それぞれのオフィスのインテリアに合わせた大きさにカスタマイズしてオーダーすることができ、素材のフェルトは、地球環境に優しい生産が可能なThe Knitwit Stable社と提携して生産しています。すべての生産プロセスにおいてサステイナブルに、責任を持って製品を提供したいと考え、透明性のある組織作りを行っています。
オランダにはウール加工業者がないため、100%オランダ製のウールをベルギーで洗浄し、イタリアで加工されフェルトになり、オランダで縫製しパーティションになります。環境への影響を抑えるため、伝統的な循環可能な手法でウールを加工しています。
●PILLOWPOEF/漁網を使ったプフ
「PILLOWPOEF」(写真4)は、空間デザイナーのJanneke Hooijmans氏とコラボレーションプロジェクトし「ニットの伸縮性を最大限に利用したプロダクトを作る」というアイデアにより生まれました。3つのクッションが4枚のニットだけで固定されており、他の構造を使わないというコンセプトに基づいてデザインされています。最後のレイヤーのニットは、丈夫なオランダの魚網「visnet」を用いています。
※リファレンス
https://www.petravonk.nl/
https://en.plectere.nl/
https://theknitwitstable.nl/
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▲写真1:Petra Vonk(ペトラ・ヴォンク)氏とPLECTURE。(クリックで拡大)
▲写真2:Petra Vonk氏のデザインしたフェルト。(クリックで拡大)
▲写真3:校舎を覆うニットの壁。(クリックで拡大)
▲写真4:PILLOWPOEF。(クリックで拡大)
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