pdweb
無題ドキュメント スペシャル
インタビュー
コラム
レビュー
事例
テクニック
ニュース

無題ドキュメント データ/リンク
編集後記
お問い合わせ

旧pdweb

ProCameraman.jp

ご利用について
広告掲載のご案内
プライバシーについて
会社概要
コラム

欧州、デザイン散歩:第9

October, 2021:アムステルダムのデザイン状況
喜夛倫子

オランダ在住のプロダクトデザイナー、喜夛倫子さんの欧州レポートをお届けします。
毎月ヨーロッパの街角を巡る、喜夛さんのデザイン散歩をお楽しみに。

イラスト
[プロフィール]
喜夛倫子(Kita Tomoko):プロダクトデザイナー。オランダ・アムステルダムを拠点に活動。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具デザイン学科卒業。Michael Young Studio、Kohler社のロンドンデザインスタジオでインターンを経験。日本のデザイン事務所で5年間、国内外の地場産業のプロジェクトなどに携わる。ロイヤルカレッジオブアートを中途退学し、2016年にT Magpie Design Management /Tomoko Kita Studioを設立。ヨーロッパを中心に美術館、教育機関、展示会でワークショップを行っている。2003年よりヨーロッパの展示会で作品を発表。Shogitoはイタリアで永久所蔵品されている。素材への興味から、応用化学の学位を持つ。



デザインイベント「GLUE」が、9月17日から20日までアムステルダム市内各所で開催されました。「GLUE amsterdam connected by design」をコンセプトに、アムステルダムに拠点を置くデザイナー、建築家、メーカー、ショールーム、ギャラリー、大学をデザインでつなぐイベントとして、コロナの真只中の昨年2020年に初めて開催され、今年で2年目となります。

オランダでは、夜間外出禁止令や店舗営業禁止令など、厳しい措置が長らく取られていましたが、現在は国内の規制のほとんどが解かれ、この夏にはマスク着用義務も緩和されています。

GLUEの出展者のデザイナーやメーカーの方々に、緩和の前後での変化と、これからの展望についてお話を伺いましたので、GLUEの展示会の特徴と合わせてレポートいたします。

●「GLUE amsterdam」の特徴


・展示サイン
市内各所で開催される展示会には欠かせない、会場の目印となるバナー。ミラノでは垂れ幕や、のぼり旗、ロンドンではスタンドパネルが使われているのを見かけます。GLUEでは、壁面に立体的に取り付けるポップアップのバナーが使われています(写真1)。

このバナーは、A3ほどのサイズにも関わらず、左右正面のどの角度からも表記が見え、好きな高さに簡単に取り付けられるため、街の景観を損なわないのに見つけやすいという特徴があります。また、三角に固定するため、悪天候で知られるアムステルダムの突風や強い雨の中でも安定して目印としての役割を果たしています。

・Map
出展者のインデックスは、アルファベット順、出展者番号順での記載に加え、来場者が最適な移動ルートを取れるように、移動手段毎に、最寄り駅順やエリア順に分類した記載もされています。また、各々の移動手段で、どのルートを取れば効率用よく回れるか、インフォグラフィックで地図を見れば一眼でわかるようにデザインされています(写真2)。

・TV
今年から、アムステルダムのローカルテレビ局が加わり、ジャーナリストたちによる50名以上のデザイナーやキュレーター、ショップオーナーなどへのインタビューを「GLUE TV」として放映しています。GLUE TVは、どんどん減る観光客に代わり、アムステルダムの経済は再び地元民によって回り出しているという現状にインスパイアされ、「The City is Ours」(この街は私たちのもの)をテーマにしています。

・イベント
オープンスタジオや、ショールームでのデザイナー新作発表、著名なオランダのデザイナーとの懇親会、講演会などのイベントが開催され、屋外イベントでは専門書の出版を記念して、オランダの伝統衣装のキャットウォークショー&トークが行われました(写真3)。

国外からの人の往来がなくなったことを逆手に、内側に目を向け、効率よく互いの活動をつないで、アムステルダムの街の魅力を磨く機会にしてしまう、オランダの逞しさを感じる 『GLUE amsterdam』。美術館や大手メーカー、デザインスタジオからの協賛を得ており、出展者161企業という規模ながらも、地元TV局も加わり、アムステルダムが一丸となって取り組んでいる様子が窺えます。

●「GLUE amsterdam」出展者へのインタビュー(抜粋)

ロックダウン以降、今回が初めての展示会出展ですか? 初めてではない場合、規制緩和された現在と、以前の厳しい規制下での展示と比べて何が変わりましたか。また、今後の見通しを教えてください(写真4)。

・イザベル・クイロガ氏(照明&家具デザイナー)
実際に近くで見て触ってもらって、自分の作品について来場者と話をすることの大切さを感じています。昨年のGLUEと、今年はロッテルダムでもコロナの規制の中、展示をしました。マスクをして1.5m距離を開け、人数制限を設けての展示を行いました。来場者がいても近寄れず、会話をしたり説明をしたりする機会が思うように持てませんでした。今回はマスクもなく、厳しい人数制限もありません。何よりも自分の作品について来場者と話し、直の反応を得られることが大きく違います。これからについては本当にどうなるか分からない。ただ、どんどん状況が良くなっていくことを願っています。
https://www.isabelquiroga.com/

・シェリル・レイスナー氏(照明デザイナー)
ロックダウン中は、フルリモートワークになったことで、デザインプロセスの進行が停滞し、とても難しい状況が続きました。常にチームで働く私たちにとって、他の同僚やクライアントと、同じ場所にいることが必要です。同じ時に、同じ物を見て、同じ事を聞くことで、各々が同じレベルでの理解ができるからです。このため、かなり早い段階から、オフィス出社の形態に戻す判断をしました。海外大手企業にデザインが買われたり、カリブのアパートの共同デザインプロジェクトへの打診があったりと、国際的なプロジェクトがいくつか動き出しました。ようやく良い時期がやって来そうです。
https://sherylleysner.com/

・キース・コナイン氏(オフィス家具会社「Koning +Neurath」オランダ店営業マネジャー)
来年は別の病気が流行るかも知れないし、天災が起こるかも知れない。僕たちはこれからもこれまでと同じく、今できることをやっていくだけです。
https://www.koenig-neurath.com/nl/

・ローランド・ピーターシュミット氏(デザイナー)
ダウン症の人たちと羊農場に住み、羊の毛を刈り、彼らと羊毛製品を作って販売するプロジェクトに携わっているのですが、コロナが蔓延してから工場は閉鎖しています。まずは作業場を再開するための準備を進めようと動き出したところです。前の状況に戻るまでには、しばらく時間が必要です。安全第一で再開させていきたい。その後に、また新たなプロジェクトをはじめていきたいと考えています。
https://www.ro-smit.com/


それぞれの出展者が、さまざまな状況を抱えながらも、先へ進もうとする姿が印象的でした。

コロナで一度は完全に止まってしまったアムステルダムの街と、それによって速度を落としたアムステルダムのデザイン業界と観光業界。再び大きく動かすための最初の歯車を回すには大きなエネルギーが必要です。

「GLUE amsterdam」は、業種を超えた人々が、この街をデザインで動かしたいという思いを重ね合わせ、それを大きな動力として、一丸となってアムステルダムの街の魅力を底上げに取り組んでいるデザインイベントでした。



 


▲写真1:GLUEのポップアップバナー。(クリックで拡大)


▲写真2:GLUEのマップとサイン。(クリックで拡大)


▲写真3:オランダの民族衣装のキャットウォーク。(クリックで拡大)


▲写真4:Isabel Quirogaの作品(左)、Roland Pieter Smit氏と織り機(右)。(クリックで拡大)








Copyright (c)2007 colors ltd. All rights reserved