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コラム

欧州、デザイン散歩:第8

Msrch, 2020:廃プラスチックに新たな命を与えるPolimeerの活動
喜夛倫子

オランダ在住のプロダクトデザイナー、喜夛倫子さんの欧州レポートをお届けします。
毎月ヨーロッパの街角を巡る、喜夛さんのデザイン散歩をお楽しみに。

イラスト
[プロフィール]
喜夛倫子(Kita Tomoko):プロダクトデザイナー。オランダ・アムステルダムを拠点に活動。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具デザイン学科卒業。Michael Young Studio、Kohler社のロンドンデザインスタジオでインターンを経験。日本のデザイン事務所で5年間、国内外の地場産業のプロジェクトなどに携わる。ロイヤルカレッジオブアートを中途退学し、2016年にT Magpie Design Management /Tomoko Kita Studioを設立。ヨーロッパを中心に美術館、教育機関、展示会でワークショップを行っている。2003年よりヨーロッパの展示会で作品を発表。Shogitoはイタリアで永久所蔵品されている。素材への興味から、応用化学の学位を持つ。



2020年1月に中国が廃プラスチックの輸入禁止を発表し、東南アジアでも間もなく禁止される模様です。日本を含め自国の“マテリアルリサイクル”を他国に輸出することで完了させてきた国々では、いよいよ自国の廃プラスチックに向き合うことを余儀なくされています。アムステルダムのサーキュラーデザインスタジオ「Polimeer」(ポリメア)は、廃プラスチックを地産地消させる取り組みを続けています。Polimeerの創業者にお話を伺い、その再生プラスチックのプロジェクトをいくつかご紹介したいと思います。

●サーキュラーデザインスタジオ「Polimeer」


Polimeerは、イタリア出身のAlessandro Iadarola (アレッサンドロ・イアドロラ) 氏とオランダ出身のBob Vos (ボブ・ヴォス)氏により2016年に創業されました。

2015年のデザインユニットを結成以来、プラスチックゴミ100%でできた大理石のような風合いのマテリアル「Polimarble」を独自の製法で開発し、美しいクラフトや家具を提案するなど、アムステルダムで生み出された一度役目を終えたプラスチックたちを再生させる取り組みをしています。また、ローカルデザイナーとしてアムステルダムのリサイクル促進プロジェクトを牽引しています。

「プラスチックは人が産み出したマテリアルの中でも、特に素晴らしい素材であると僕らは考えています。色やテクスチャーが自由に付けられ、多様な製造方法によって、様々な形状へと短時間で形成できる。私たちにとって、一度使われた廃プラスチックは大切な資源です。回収したプラスチックを美しいプロダクトとして新たな価値を与えたいと考えています」とアレッサンドロ氏がプラスチックへの思いをお話しくださいました。

その言葉の通り、彼らのアプローチにはプラスチックへの思い入れを感じ、Polimarbleの絵の具を散らしたような躍動感のあるマーブルは、元の素材よりも美しく、これまでの再生プロダクトのイメージを覆します。

●ソーシャルハウスの表札

この色彩豊かに色が入り混じる表札は(写真1、2)、アムステルダムのソーシャルハウスに掲げられています。その美しい模様は、カウンシルに住む人々の、それぞれの生活の中で使われたビニール袋を用いてPolimeerにより生み出されたものです。

アムステルダムと近隣の街の低所得者にソーシャルハウスを提供する運営局ROCHDAKEなど4社とコラボレーションし、ローカルリサイクルを促進するためのソリューションを探すプロジェクトを行い、この表札が製作されました。

アムステルダムのソーシャルハウスでは、移民や他の地域から引越してきた新しい住民が多いこともあり、「コミュニティーに加われず人とつながる機会を十分に持てない」、「アムステルダムが推進するプラスチックリサイクルの習慣が根付いていない」などの問題を抱えていました。このリサイクルプロジェクトは、自分たちの力で生活をより良いものにしたという体験を近隣の人と共有してもらい、結果としてソーシャルハウスの住民の人々のローカルリサイクルを促進することを目的としています。各家庭の暮らしの中で使われたビニール袋。違うバックグラウンドを持つ人々の持ち寄ったさまざまな色が流れるように混じり合い、1つひとつ違う美しい風合いを生み出しています。

Polimeerは、この他にも定期的にアムステルダムのリサイクル率が低い開発エリアでの回収促進のための教育プロジェクトや、デザインに敏感なエリアでPolimarbleを使ったアートプロジェクトなどを行い、各々に自分が恩恵を受けた後のプラスチックをどう扱うのか、アムステルダムの人々に問うています。Polimeerによりアムステルダムで回収されたプラスチックから生まれたキーホルダーは、市内の美術館やアムステルダム中央駅構内のポップアップショップで販売されています(写真3)。

●ゴーストプラスティックを利用したプロジェクト

Polimeerによると、暮らしの中で生み出されるプラスチック廃棄物への市民の意識は目に見えて改善されてきているそうです。実際、欧州委員会が2030年には廃棄プラスチックの55%が再利用されるように決定したり、この3、4年ほどの間にオランダでもプラスチックの使用制限や、リサイクルを推進するためのプロジェクトが盛んに行われたりしています。アムステルダムでプラチック回収の習慣が浸透した今、Polimeerの新たな挑戦について伺いました。

「現在、アムステルダムに本社を置くBio acetateを使用したメガネメーカーace&tateとともに、このゴーストプラスチックの利用した製品の開発を進めています。生産や配送の段階で使用され廃棄されるプラスチックは、商品が店に並ぶまでにすでに廃棄されているため、その存在が気づかれにくく見落とされやすいため、僕たちはゴーストプラスチックと呼んでいます(写真4)。ランダムに市中で回収されたプラスチックと違い、このメーカーのゴーストプラスチックは素材がポリエチレンのみであることが保証されているため、そこから再生利用し生まれたクラフトを国際基準をクリアした製品として市場に提供することが可能となります」。

●プラスチック1トンプロジェクト

Polimeerの2人(写真5)がデザインユニット5年目を迎える今年、2020年末までにオランダ国内で回収した1トンの廃プラスチックをリサイクルする事をミッションとする新たなプロジェクトを立ち上げました。その一環として、1トンの廃プラスチックの一部がPolimarble製の雑貨へと再生され、今春からオンラインショップで販売が予定されています。
https://www.polimeer.com/

地域に密着したプラスチックの再生利用プロジェクトを続けるPolimeer。彼らの取り組みの先にあるものが、「デザインは廃プラスチックの地産地消のソリューションとなり得るか」という問いに対する答えとなってくれるかもしれません。

このコラムに関する他の写真は、こちらのリンクよりご覧いただけます。
https://www.tomokokita.com/column-images



 


▲写真1:さまざまな色合いの美しいサイン。(クリックで拡大)


▲写真2:サインが掲げられたソーシャルハウス。(クリックで拡大)


▲写真3:回収されたプラスチックから生まれたキーホルダー。(クリックで拡大)


▲写真4:ゴーストプラスチックの一部。(クリックで拡大)




▲写真5:PolimeerのAlessandro氏とBob氏。(クリックで拡大)





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