●自転車の進化形
環境先進国として知られるオランダ。人々の環境への意識が高いことで知られ、主要な交通手段として自転車が広く浸透しています。世界一自転車普及率が高いと言われるだけあって、日本でお馴染みのシティサイクルだけでなく、2人乗りのタンデム(Tandem)や、寝そべって漕ぐリグフィッツ(Ligfiets)、カーゴバイクとしても知られるバクフィッツ(Bakfiets)など、さまざまなデザインの自転車が街中を走っています。
箱型の荷台がついた輸送用の自転車バクフィッツは、こどもと一緒に外出する際や、日用品や食料の買い物、引っ越しといった日々の暮らしの中で頻繁に使われており、子育て世代の生活必需品の1つとなっています(写真1)。今回は、その中でもオランダのか「子供を乗せ用のバクフィッツ(Bakfiets)」についてレポートしたいと思います。
日本で一般的な「子供乗せシートを付けたシティサイクル」や「シティサイクル」は、オランダでは纏めて「ママフィッツ」と呼ばれています。オランダでは、このママフィッツよりバクフィッツに子供たちを乗せて出かける家族をよく見かけます。乳児から7歳くらいまでの子供を乗せていることが多く、オランダの伝統衣装として知られる木の靴「クロンプ」(Klomp)の形や、シンプルな木製箱製のもの、カスタマイズして屋根に覆われでコックピットのようなカプセル状になっているものなどさまざまなデザインが流通しています(写真2)。
アムステルダムでバクフィッツを多く取り扱う自転車店「JUIZZ」で、子供を乗せるタイプの「バクフィッツ」の特徴や仕様と、日本の「子供乗せシート付きのシティサイクル」(以下ママフィッツ)との違いについて教えていただきました。
https://juizz.nl/locatie/amsterdam/
●バクフィッツ(Bakfiets)の特徴
・低く安定した重心
箱が車輪の半分の高さに設置されており、重心が低くなります。このため、より簡単に転倒しないようにコントロールすることができます。万が一、子供が落下した場合、落下する高さがママフィッツの半分となるため、リスクが減少します。地面により近い位置で、しっかりと固定された木箱の枠に四方を囲われ、自分の身長に近い位置で移動するほうが、子供たちも安心感があるようです。
・子供の環境が分かりやすい
子供の座席となる箱が、前方に設置されています。走行中、子供が視野から外れにくく、ハンドル周りや後方に子供シートが設置されているママフィッツと比べて、目線の先にいる子供たちの状況が確認しやすい。立ち上がり防止や事故対策としてシートには必ず子供用のシートベルトがついています(写真3)。
・ボックスシートのサイズと最大積載重量
複数の子供を箱の中に一緒の乗せることができます。多くのバクフィッツは120kgまで積載することができるため、多いもので6人シート付きのバクフィッツも流通しています。また、乳児用カゴ(pram)などに入った赤ちゃんを乗せることができ、規定の重量さえ超えなければ、オランダの法律下では大人でも箱に乗せることできます。
・価格帯&装備
新車価格で約900ユーロ(11万円弱)から流通しています。電動のものが主流で、この店舗では4,500ユーロくらいのバクフィッツが売れ筋とのことでした。また、バクフィッツは雨除けの屋根をオプションでつけるなどのカスタマイズが盛んです。オランダで、子供シートを1つ付けたママフィッツで約300ユーロくらいから、電動だと1,500ユーロほどで買えるのに比べて、バクフィッツはその価格帯の2~3倍になります。
・乗り心地(運転)
JUIZZの一番の売れ筋のUrban Arrow社の電動バクフィッツに試乗したところ、始めの踏み込みの際ペダルに重量感じるものの、二輪にも関わらず重心が安定しており、自転車初心者でも乗りこなせました(写真4)。ハンドルは、重いものの左右にブレにくいと感じました。
ただ、車体自体がかなり重く、急な坂道での走行、特に下り坂ではコントロールが難しくなると考えられます。
●Babboeのバクフィッツ
アムステルダムの街を走るバクフィッツの中でも、もっともお手頃な899ユーロの製品を製造販売しているメーカーBabboeにもお話を伺いました(写真5)。
https://babboe.nl
Babboeは、子育て中の親目線での開発とサービスが特徴のメーカーで、自宅までエンジニアを派遣するなど修理サービスにも力を入れているオランダのメーカーです。
「子供のためにバクフィッツが欲しい。でも高すぎる」と感じていたオランダの若い父親たちが集まり、2006年に4人で開発をスタートしました。2007年品質を保ちつつ低価格に抑えた製品を完成させ、試乗会で各都市を周りオンラインショップでの直販をメインに展開を始め現在に至ります。
暖かみのあるブナ材でできた座席となる箱は、角はすべて丸く処理され、子供が自分で登って乗れるようにデザインされています。また、Shimanoのギア、電動自転車にはヤマハのモーターなど、日本の人にも使い馴染みのあるメーカーの部品が使われています。より安定した快適な運転できるようタイヤの厚みを増やすなど、価格を抑えながらもながらも安全で、子供たちが長きにわたり学び楽しめるようなシンプルなディテールが施されています。本社の担当者によると、現在のところ日本への発送はしていないそうですが、日本の市場開拓に前向きであるとのことで、今後日本でもBabboeのバクフィッツが見られるかもしれません。
天候や地理的環境、そして各々の道路環境や法律に合った自転車、日本では「子供乗せシート付きのシティサイクル」が、オランダでは「子供乗せ用のバクフィッツ」がこれからも改良され重宝される続けることでしょう。
幸せと感じている子供の割合が世界一と言われているオランダのバクフィッツ。低い重心による安定性や、子供たちの乗車スペースの広さ、走行中に子供たちを見守りやすいなどのバクフィッツの特徴が、日本の「子供乗せシティサイクル」のさらなる進化のヒントになればと思います。
オランダの暮らしで使われている自転車の写真は、こちらのリンクよりご覧いただけます。
https://www.tomokokita.com/column-images
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▲写真1:大型バクフィッツ。(クリックで拡大)
▲写真2:木靴型の子供のせバクフィッツ。(クリックで拡大)
▲写真3:シートとシートベルト。(クリックで拡大)
▲写真4:Urban Arrow社バクフィッツ。(クリックで拡大)
▲写真5:Bobboeのバクフィッツ。(クリックで拡大)
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