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コラム

欧州、デザイン散歩:第4

October, 2019:光を通す新しいカタチの無垢材の椅子「DC10」
喜夛倫子

オランダ在住のプロダクトデザイナー、喜夛倫子さんの欧州レポートをお届けします。
毎月ヨーロッパの街角を巡る、喜夛さんのデザイン散歩をお楽しみに。

イラスト
[プロフィール]
喜夛倫子(Kita Tomoko):プロダクトデザイナー。オランダ・アムステルダムを拠点に活動。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具デザイン学科卒業。Michael Young Studio、Kohler社のロンドンデザインスタジオでインターンを経験。日本のデザイン事務所で5年間、国内外の地場産業のプロジェクトなどに携わる。ロイヤルカレッジオブアートを中途退学し、2016年にT Magpie Design Management /Tomoko Kita Studioを設立。ヨーロッパを中心に美術館、教育機関、展示会でワークショップを行っている。2003年よりヨーロッパの展示会で作品を発表。Shogitoはイタリアで永久所蔵品されている。素材への興味から、応用化学の学位を持つ。



●今だから作ることのできた「DC10」

アムステルダムのカナル沿いにあるAmbassade Hotelにあるライブラリースペースで出会った、美しい佇まいの椅子「DC10」をご紹介したいと思います(写真1)。

無垢材でできたフレームは、手を添えると導かれるように滑っていく、流れるような曲面でできています。この椅子は曲線でつながった1つのフレームと、メッシュの座面のみで構成されており、そのしなやかな全体のフォルムの印象の通り持ち上げると軽く、洗練された印象を与えることに成功しています。初めて「DC10」を見た時、ミッドセンチュリー(Scandinavian Mid-century modern)のデザイナーたちが、作りたくても作れなかったものを見たと思いました。

この椅子は、ミラノを拠点とするデンマーク出身の建築家ニルス・スバイエさんと日本出身の工業デザイナーの猪田恭子さんのデザインデュオ、INODA+SVEJEによりデザインされました。

ミラノのブレラ地区にあるショールームで、猪田氏に「DC10」が生まれた背景について伺うことができましたので、レポートしたいと思います。

●INODA+SVEJEのデザインとミラノ

ミラノのデザイン業界では、常に新しい設計で驚きを生まなければ、デザインとして認められないという暗黙のプレッシャーがあり、猪田氏はこのプレッシャーがINODA+SVEJEのデザインに良い作用をしていると感じるそうです。

新たな可能性を見出して検証し、進化に貢献する研究者のように、イノベーティブにデザインを探求し続けることが求められるミラノ。無垢材の家具が進化したと感じさせる、ミラノだからこそ生まれた「DC10」のフレームの構造とメッシュの座面を見てみましょう(写真2、3)。

・フレームの構造
DC10を白黒写真で見ると、その繊細な曲線とフレームの軽やかさに、無垢材でできていると思わない方もいらっしゃるのではないでしょうか。何よりも、無垢材の椅子にあるはずの貫がどこにも見当たらないことに驚かされます。

発表当時、まだこのような無垢材フレームだけでできた椅子は前例がなく、デザイン開発することは新たな挑戦であり、デザイナーにとって、そしてメーカーにとっても新たな挑戦でした。INODA+SVEJEは、微細な調整を重ね続け「DC10」を完成させました。CNCミリングマシンを使うことで、緻密に計算された強度を確保しつつ、カーブを短時間で削り出し、熟練した職人の手によって繊細な調整を加えることで、人が使って気持ちの良い美しく滑らかな曲面となるように仕上げされています。

このように、新しい製造技術と職人の技との絶妙なバランスとその表現への挑戦により、温かみのある曲線と新しい構造を持つ「DC10」は生まれました。

・メッシュの座面
座面には木材は使われておらず、フレームに張られたメッシュのみが座面となっています。このため、当然ながらこの椅子は光を通します(写真4)。手をかざすと、その影がフロアーに映り、この光と影を扱うINODA+SVEJEの感性にさらに驚かされます。

「この薄く丈夫なメッシュ素材を座面にしたところにミラノのデザイナーらしさがあると私たちは感じています」と猪田さんが仰るとおり、新しいフレームを完成させた上に、さらにコンセプトを掘り下げていく、INODA+SVEJEのストイックなまでの探究心が感じられます。

フレームとの境目は工芸品のように美しく繊細に仕上げられており、薄いメッシュの座面は、その繊細なディテールに反して、座るとがっちりと身体を支えてくれます。新たな素材を用い、そのマテリアルを最大限に生かすことへのこだわりが垣間見えます。

●職人たちの技術とクリエイティビティ

「DC10」は、日本の徳島の宮崎椅子製作所で製造されています。その曲線の美しさと細部のクオリティの高さに加え、前例のない構造の椅子にチャレンジし、それを海外市場に出すという革新的な会社が日本にも存在することは頼もしく、そして嬉しく思います。

INODA+SVEJEは、職人の方たちと直接打ち合わせをし、製造するために何ができるかアイデアを出し合い、その場でデザインをディベロップさせることができたそうです。

職人の方々とデザイナーの感性の擦り合わせができるかどうかで、家具の細かなディテールに違いが出てきます。仕事柄、私もヨーロッパやアジアのメーカーの工場とのミーティングに立合うことがありますが、宮崎椅子製作所との開発でのお話を伺い、職人とデザイナーが現場でディベロップしていく手法は、クリエイティブな職人が活躍するイタリアのメーカーのようだと感じました。新しいことに挑戦し、そのための技術を工夫し磨いていく、人の感性が主体となったものづくりの現場で「DC10」は製作されています。

丁寧に吟味し尽くしたラインやディテールを積み重ね、新しいデザインにチャレンジし生まれた「DC10」。お話を伺い、進化しないものに厳しいミラノのデザイン業界という環境がINODA+SVEJEのデザインをさらに洗練させ、クリエイティブな感性を持って開発するメーカーの職人の方々とその技術力が、家具の進化を後押ししたということが分かりました。

こちらのコラムに関する他の写真はhttps://www.tomokokita.com/でご覧いただけます

●Reference:
INODA+SVEJE
http://inodasveje.com/wp02/
宮崎椅子製作所
https://www.miyazakiisu.co.jp/


 


▲写真1:Ambassade Hotelで出会った「DC10」。(クリックで拡大)


▲写真2:無垢材のフレームは流れるような曲線でできている。(クリックで拡大)



▲写真3:機械と人の手との絶妙なバランスによる構造。(クリックで拡大)



▲写真4:座面がメッシュなので光が通る椅子。(クリックで拡大)





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