●オランダの街中を走る2人乗りマイクロカー
山がなく土地の高低差がほとんどないオランダでは、お年寄りもお金持ちも、妊婦さんも自転車に乗ります。混雑した自転車レーンと対照的に、車道はガラガラというのがアムステルダム中心地の通勤風景です。そんな自転車移動がデフォルトのアムステルダムで、最近よく見かけるようになったのが、自転車レーンを走る2人乗りの小さな4輪車、マイクロカーです。
マイクロカーは自動車に分類されないこともあり、さまざまなバックグラウンドを持つ企業が参入しているため、設計に各社のプローチの違いを垣間見ることができます。ゴルフカーのように開放的でサイドドアがないタイプもある「Biro」、チョロQを彷彿とさせるおもちゃの車のような「Canta LX」など、そのデザインはバラエティに富んでいます。古い町並みが残るヨーロッパの都市では、道幅が狭く駐車スペースも限られているため、中心地で買い物や、2人での移動に最適な乗り物として今後伸び盛りの市場となっています。
今回は、そんなマイクロカーの中でも、キックボードの「マイクロスクーター」のメーカーとして知られるMicro mobility System社による「Microlino(マイクロリーノ)」について、その特徴をいくつかご紹介したいと思います。経営者であるヴィム・アウボーター氏(Wim Ouboter)が、より環境に優しく、場所を取らない、もっと毎日を楽しくしてくれる、車でもバイクでもない乗り物が必要だという思いから「Microlino」は開発されました。以下「Microlino」開発の特徴を紹介します。
●約70年前のコンセプトをリバイブし2019年へ
第2次世界大戦後、マイクロカーブームを牽引した「isetta(イゼッタ)」をご存知でしょうか。街中の移動で場所を取らない、小回りが利く乗り物の必要性を感じていたヴィム氏は、シンプルな機能を持った小さい車「isetta」にインスパイアされ、Microlinoを開発しました(写真1)。
バブルカーの愛称で親しまれたisettaのコンセプトに、約70年後のテクノロジーを搭載させ、新たにデザインされた「Microlino」は、戦後の復興に希望を持った人々の知恵や、当時の人が感じた新しい暮しのスタイルを現在へと翻訳したプロダクトであると言えます。isetta特有の、ドアの内側に車のハンドルが付いた前方から開くドアや、サンルーフはMicrolinoでも見ることができます(写真2)。 1950年代に人々が体験したisettaとの暮らしや、その窓越しに見た景色に思いを馳せながら、ドライブを楽しむことができます。
ヨーロッパで販売されるMicrolinoは、isettaの故郷でもあるイタリアのTazzorini社により生産されます。。
●実用性を重視した製品開発
Microlino開発プロセスについて、製品発表の際、車の使用実態のリサーチを元に、省スペースをモットーに、搭載機能は代用できないものに絞ることで、コンセプトに忠実かつ攻めた価格設定が実現したと紹介されています。
実際、特に内装は極めてシンプルなデザインになっています。また、ミラーとヘッドライトは裏表に装着された1つのパーツとなっており、インストルパネルは必要最小限のスイッチとメーターのみのシンプルな構成、バッテリーは120km/215kmから選ぶことができますが、普通の電気自動車などに比べると小さな容量とするなどの工夫が見られます。サンルーフと冷却システムとしての換気扇が装着されていますが、エアコンはなく、スマートフォンで対応できるカーナビや音響システム備わっていません。
これらの機能を簡素化した代わりに、Microlinoは以下の特徴ある機能が備わっています。
◯駐車の際は、歩道に向かって垂直に駐車することで、1台の駐車スペースに3台駐車することができ、フロントドアから歩道にそのまま降りられます(写真3)
◯収納は、内部の機能を絞った結果、後部のトランクにはヨーロッパのP箱(ビール瓶のコンテナ)が2つ収納できるスペースを確保されています。
◯最高速度は90kmであるため、推奨はされていませんがハイウェイに乗ることができるスピードを出すことができます。
◯ 消費エネルギーは、他の電気自動車に比べて、生産時、使用時のエネルギーを約60%カット。
◯ヨーロッパの一般家庭で使われている、普通のスマートフォンなどを充電するソケットで4時間で充電することができ、電気自動車用のチャージングステーションだと1時間で充電が完了します。
アーバンサイクルとしての実用的な機能に的を絞って開発を行い、それ以外はアグレッシブに効率化を図ることで、機能においても分かりやすい特徴をもった設計となっています。す。
●開発チームを若い年代で構成
開発チームは、ヴィム氏の息子であるオリバー氏とマーリン氏を含む20代30代の若いメンバーを中心に構成されています。車体の色を決めるにあたり、購買意欲のあると仮定できるfacebookの友達登録者にアンケートをとり、4,000人から返信を元に現在の7色を決めるなど、開発プロセスにもその傾向が表れています(写真4)。
ヴィム氏は、この若いチームの力を頼もしく思うと話しており、ご子息が率いる若いチームに開発のイニシアチブを取らせたことで、長期のプロジェクトとなるであろうマイクロカーの開発において、新たな製品開発の一翼を担う若手人材の育成と世代交代に成功しています。
今回ご紹介したMicrolinoは、70年前の名車のコンセプトと意匠の一部を受け継ぐという、キャッチーな外観を持つ一方で、アーバンサイクルに適した機能を備えた実用性の高いマイクロカーであり、未来を見据えた若いチームにより、次の時代のニーズに応える新たな製品開発も期待できることが特徴のブランドでした。
開発する企業によってデザインの特徴が大きく異なり、それぞれが魅力的な個性を持つマイクロカー。今後どんな新しいデザインが出てくるのか楽しみな市場です。この秋、Microlinoは、日本でもお披露目されるそうです。
詳しくは、以下をご確認ください。
https://microlino-car.com/de/microlino
アムステルダムを走る他のマイクロカーの写真は、こちらでご覧いただけます。
https://www.tomokokita.com/micro-car
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▲写真1:走行中のMicrolino。(クリックで拡大)
▲写真2:上から見たMicrolino。(クリックで拡大)
▲写真3:駐車スペースも1/3。(クリックで拡大)
▲写真4:microlinoのカラーバリエーション。(クリックで拡大)
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