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コラム

建築デザインの素 第44回
石川初さんの言葉に学ぶ

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



■石川初さんのTwitter

ランドスケープデザイナーであり、慶応義塾大学の教授でもある石川初さんは、12,000人を超えるフォロアーを持つ人気ツイッタリアンだ。ウイットに富んだ口当たりの良いツイートの中に巧みに仕込まれた、物事の本質を突く指摘が人気の秘密なんだと思う。僕を含めた多くのフォロアーが、石川さんのツイートを楽しみにしている。

先日も、こんなツイートが発信された。

『課題「インスタ映えする建築」:インスタ映えする建築を設計してください。インスタ映えをすべてに優先させ、設計後にCGや模型写真などをインスタに投稿して映えを実証してください。同時に、インスタ映えが優先されることで建築の何が犠牲となり、機能や性能が劣化したのか説明して下さい。』

面白い。そう思ったのは僕だけじゃなく、その証拠にすでに260人の人々がこのツイートをリツイートし、1,000人を超える人が「いいね」をクリックしている。

どこが面白いかを解説するほど野暮な話はないのだが、「インスタ映え」というもはや社会現象ともなっている行為に対して、直接は肯定も否定もせずに、この課題を受け止めた人が「インスタ映え」というものを再考し、向き合わせてしまう力がこのツイートにはある。石川さんらしさに溢れるものだと思う。

しかし、このツイートの本当の恐ろしいところは、「インスタ映え」のところを、自分たちが普段何気なく善し悪しを判断していながらも、どこかで引っかかっているキーワードを入れてみたくなるといった、悪魔のような誘惑にみちているところだ。



■「インスタ映え」を「金儲け」に変えてみた

例えば、僕ら組織事務所の人間は、友達のアトリエ建築家たちから、酔っぱらった勢いで言われる「お前らの建築は、金儲けの片棒を担いでいるだけじゃないか!」などという、心ない言葉にぐさりと刺され傷ついたりしている。その一方で「まったくその通りだ、情けない」と思ってみたり、「いやこれこそ社会に求められるもの」と肯定してみたり、「建築とは常に時代の覇者とともにある運命なのだ」とか飛躍した話でごまかそうとしたりと、お金と建築デザインのはざまで揺れ動いている。そんなわけで、僕は「インスタ映え」のところを「金儲け」に入れ替えてみたくなった。

すると石川さんの課題文は、以下のように化けた。

『課題「儲かる建築」:儲かる建築を設計してください。儲けをすべてに優先させ、設計後にその建築をマーケットに投入して儲けを実証してください。同時に、儲けが優先されることで建築の何が犠牲となり、機能や性能が劣化したのか説明して下さい。』

見事な適応力だ。「金儲け」という行為に対して、直接は肯定も否定もせずに、この課題を受け止めた人が「金儲け」というものを再考し、向き合わせてしまう課題となったではないか! 恐るべし石川初、といった感じだ。


■今度は「デザイン」に変えてみた

「金儲け」以外でも、なんでも悩んでいるキーワードがあれば、「インスタ映え」の代わりに入れ込んで課題を書き変えて、眺めてみることをお勧めする。たとえば、「建築デザインの素」というタイトルになっているこのコラムの課題はまさに「デザイン」であるから、これを入れて課題文を作ってみよう。こんな感じだろうか?

『課題「デザインされた建築」:デザインされた建築を設計してください。デザインをすべてに優先させ、設計後にCGや模型写真などを建築メディアに投稿してデザインされていることを実証してください。同時に、デザインが優先されることで建築の何が犠牲となり、機能や性能が劣化したのか説明して下さい。』

なんだか、デザインに対して含蓄を感じさせる課題文になった感じがしなくもない(笑)。


■アフォリズム

こんな言葉遊びをしている時にふと思い出したのは、強烈なアフォリズム(短く鋭い格言)は、長年にわたり語り継がれ、言葉遊びにより変化を加えられつつも、意外に次の世代のデザインをけん引する道しるべとなってきた事実だ。

例えば、ルイス・サリバンは「形態は機能に従う」という強烈なアフォリズムを発し、後にコルビュジェがそれを「機能的なものは美しい」と変化させ、丹下健三はさらに「美しいものだけが機能的である」と逆転することで、モダニスムの枠組みにおける機能とデザインと美学の関係が議論されてきたことは有名である。

他にも、ミースファンデルローエは、「Less is more」と言ってミニマルを称賛し、ヴェンチューリは「Less is bore」と一捻りして複合的で複雑なものへの志向を示し、それに触発されさらに乱雑な自分の机の状況を肯定しようと試み、僕は「Mess is more」と言ってはみたが、まったく話題にはならなかった(笑)。自分自身の言葉力不足を感じた。

こんなことを書きつつ、改めて、石川さんの言葉に対する別次元のセンスを感じ敬服している。いつか「形体は機能に従う」や「Less is more」に匹敵するような、この時代にあるべきデザイン思潮を鋭く描写する、強烈なアフォリズムを僕らにたたきつけてくるに違いない。要注意、いや要注目だ。






イラスト
▲「仕事場やワークプレイスは、使って、汚してなんぼのものだ!」との思いから「汚せるオフィス」をコンセプトにデザインをさせていただいた乃村工藝社。最初は「Mess is more」というコンセプトを思いついたが、同僚に言うのが恥ずかしくて言い出せなかった(笑)。3色に塗り分けたランダムなブレースや、乱尺張りのカーペットで、最初から散らかった雰囲気づくりを狙ってみた。(クリックで拡大)


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