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コラム

建築デザインの素 第41回
泰明小学校のブランド制服に学ぶ

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



■ブランド制服

泰明小学校の「ブランド制服」が話題になっている。

公立の小学校でありながら、高級ブランド服の代名詞ともなっているアルマーニ製の総額9万円に及ぶとも伝えられている制服を採用したことで、保護者からの非難の声が上がっているという。まさに、Webニュース映えやワイドショー映えのする事件だ(笑)。

アルマーニに決定する前に、銀座に店舗を置くバーバリー、シャネル、エルメスらの高級ブランドに校長自らが電話をした(3社からは反応がなかったようであるが)というから、念には念を入れてブランド制服の実現にこぎつけたようだ。事件の詳細は、真実とフェイクを織り交ぜつつ今後報道されていくだろうが、ここは僕が勝手にこの事件を深読みしてみようと思う。というわけで、ここから後の内容は僕の勝手な妄想なのです。


■ブランド制服で入学者を制御する

今回の報道について友人たちとしゃべっていて、僕自身が一番納得できた状況分析仮説は、「泰明の校長はブランド制服を採用することで、急増しつつある泰明小学校への入学希望者数を、それとなく抑制しようとした苦肉の、それでいて寝ぼけた策だったのではなかろうか」というもの。

泰明小学校は、東京・中央区の銀座にある。中央区では、入学可能な小学校をいわゆる学区で縛るいわゆる「学区制」に加えて、他学区への入学を認める「小学校特認校制度」というものがあるそうだ。元々は少子化により都心に位置する小学校の定員割れに対処するための施策であったようだが、住宅の都心回帰により学生数が戻り、さらに泰明小学校などいくつかの学校は人気を集め、倍率が高まり始めたようだ。泰明小学校は、公立小学校にもかかわらず人気校化しているのだ。

ところが、泰明小学校は人気校化したことで、古くから泰明小学校に通われている地元と銀座の方々、そして先生方が予想していないような学生が集まる学校になり始めてしまったのではなかろうか。そんな状況の中で、学校やOBが期待するような生徒のみが泰明小学校を志望するような状況をつくりだすべく、高額なブランド制服を設定したのではなかろうか、というのが僕の友人が立てた仮説である。僕には、すこぶる状況を正しく読み取った仮説のように思えてならない(もっともこれは、まったく根拠がない僕たちの憶測なので、これを読んで気分を害された方がいらっしゃったらお許しください)。

もちろん、ここで泰明小学校がとった奇策は、制服代を支払うことが不可能な学生を排除するという、差別行為にもつながる不当なものであるので、安易な現状肯定は許されない。しかし一方で、ブランド制服によりエクスクルーシブな状況をつくりだそうという行為は、最近は忘れかけている「ブランド力」の正当な使い方を僕らに思い起こさせてくれたのではないか、と僕は考えている。


■ブランドとセグメント化

本来「ブランド」とは、ターゲットとすべきセグメントを明確化することが重要であり、その結果としてそのブランドが提供するものが他とは差別化されるものであるはず。一般に広く受け入れられるものになった時点で、ブランドではなくなり、コモディティ化されたモノになりはてたはずである。

しかし昨今では、遡及すべきセグメントを設けずにできるだけ広い顧客層をターゲットとしながらも、提供するサービスや商品だけを同業他社から差別化することを目的として、それをブランディングと呼んでいる。これはブランディングとは名ばかりのコモディティ化にしか過ぎない。

今回の事件で興味を惹かれたのは、泰明小学校は公立校でありながら、学生を特定セグメントの家庭出身の子息へと絞る、すなわち「泰明小学校のブランド化」を図ったことにある。また、ブランド化のために、アルマーニという高級ブランドを使ったことである。「ブランドによるブランドのデザイン」を試みた点である。

一般的には公立小学校は特定セグメントをターゲットにブランド化されるべきものではなく、むしろコモディティ化されるべきものと思われている。だが僕自身は、この多様化の時代にあっては、公立校であっても特定セグメントを明確にして、それに向けてブランディングされるべきであると思っている。今回の問題は、泰明小学校側が特定セグメントの明確化とそれを社会と共有するプロセスをスキップして、唐突に既存ブランドの力を借りたブランド化を狙ったところにあったのではなかろうか。

加えて、もはやアルマーニというブランドは値段が張るもののすでにコモディティ化されすぎてしまい、泰明小学校を特定のセグメントとしてブランド化するにはいささか物足りず、単に成金趣味に見えてしまったことも、突っ込みどころをつくってしまったようではあるが。


■デザインのブランド化

デザインにおいても、そこに必要とされているものが特定のセグメントのためのブランド化であるのか、広く対象を広げたコモディティ化であるのかを適切に見極め、進めていく必要があると思う。

最近では企業のアイデンティティを構築するために「ブランディング」という言葉が多用されるが、特定のセグメントに特化して遡及を目指すのではなく、広く一般大衆への遡及を目指している以上は、そこで必要とされるのはブランディングじゃなくて、実はコモディティ化への戦略だ。

今は何でもコモディティ化される時代であり、有名ブランド品もその波に乗りコモディティ化され、誰もがブランド品に手が届きそうな時代になっている。しかし本来ブランドとは、社会の中の特定セグメントに対して排他的にうったえ、そして受け入れられるものであったはずである。グリコなら庶民の、アルマーニならセレブのためのブランドとして特定の所得とテイストを持ったセグメントのためにあったはずである。そしてブランドは排他性があったからこそ、特定セグメントに属さない人々から憧れのまなざしで眺められ、特定セグメントを象徴するシンボルであった。これが現代では、有名ブランドすらがコモディティ化され、特定セグメントとの結びつきが弱くなり、ブランドはみんなのものになり果ててしまった。

しかし、この多様化が叫ばれる現代で、すべてがコモディティ化する方向でよいのだろうか。僕らはもう一度、デザインを提供するセグメントをきちんと特定して、ブランディングを目指すべきなのではなかろうか。

泰明小学校の事件をきっかけに、「ブランド化をデザインすること」について、チラリと考えてみた。



イラスト
▲写真1:桐朋学園調布キャンパス一号館。ブランド化に役に立っているか否かは不明であるが、音楽大学としての桐朋学園のブランドを意識したデザインを心掛けたつもりである。(クリックで拡大)

イラスト
▲写真2:桐朋学園調布キャンパス一号館。ブランド化に役に立っているか否かは不明であるが、音楽大学としての桐朋学園のブランドを意識したデザインを心掛けたつもりである。(クリックで拡大)


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