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コラム

建築デザインの素 第36回
SNSがオフィスをシェア化すると…
デジタル・シェアード・ワークショップの誕生

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



■シェアハウスではなくてシェアオフィス

今回は、ベタな建築とICTのおはなし。

日本の建築デザイン界ではシェアハウスが人気だが、世界的に見ればシェア化が話題になっているのは、シェアオフィスの方かもしれない。

アメリカを中心に始まったコワーキングスペースやシェアオフィスのトレンドは、日本でもオフィスの新しいあり方として認知され始め、さまざまなタイプのシェアオフィスが出現している。多くの若手デザイナーにより計画された「SHIBUYA CAST](写真1)も、こうしたオフィス空間のシェア化を踏まえた大手デベロッパーの最近の動向として位置づけられそうだ。

オフィスは、20世紀末から21世紀初頭にかけての「メガフロア」や「アウトフレーム」といった単一企業による「ワンルーム」的利用を想定したデザインから、異なる企業に属する個人が同一空間をシェアして働くための新しいオフィス空間を求める時代になったようだ。

■SNSがオフィスをシェア化

シェアオフィスの本場アメリカでは、SNSの登場がオフィスのシェア化を加速したといわれる。

おそらくは、SNSに限らずICT(Information and Communication Technology)を利用したコミュニケーション手段が、物理的制約を超えたコミュニティの形成を可能にしてしまったからではなかろうか。少々乱暴なストーリー展開となるが、僕ら自身の生活で考えてみよう。

「職場コミュニティ」と「地域コミュニティ」
かつては、職場とは別に、生活の場、すなわち住居を核とした地縁的ネットワークが僕らの生活の中の大きな基盤となっていた時代があった。地域コミュニティとか単にコミュニティと言われるつながりだ。僕らは会社における職場コミュニティと地域コミュニティの二層の間を往復して生活していた。

「SNS的コミュニティ」の誕生
それが、核家族化や未婚化、そして都心居住の回帰により、地縁的なつながりは薄れ、同じマンションの隣に住んでいる人の顔すら満足に知らないことが当たり前になり、都会では地域コミュニティが消えつつある状況へと至った。それを補完するものとして登場したのがSNSだ。僕らが普段実感している通り、SNSを通じた世界中の知人とのネットワークは、地域コミュニティに代わる新しい「SNS的コミュニティ」を瞬く間に形成してしまった。また面白いのは、SNS的コミュニティは地域コミュニティと相反する関係にあるというよりも、SNS的コミュニティを通じてFace to Faceの地域コミュニティを活性化している相互補完関係にあるという。SNSの登場で、僕らは職場コミュニティとSNS的コミュニティと地域コミュニティの三層のコミュニティを行き来しながら生活をするようになった。

「SNS的職場コミュニティ」の場としてのシェアオフィス
今度はさらに、SNS的コミュニティで非地縁的なコミュニティ形成のリテラシーを向上させた人々は、仕事をSNS上に展開することで職場コミュニティを場所性という呪縛から解き放ってしまい、より柔軟なフットワークと創造性に富んだワークプレイスを求め始めた。そうした要求への答えの1つがシェアオフィスと言えるだろう。

オフィスがシェア化されると、僕らはリアルな空間であるシェアオフィスで形成される職場コミュニティと、SNS上のSNS的職場コミュニティと、SNS的コミュニティと、地域コミュニティとの四層のコミュニティの間を行き来して生活を送ることになるが、SNSというインフラストラクチュアのおかげで、四層間の移動は意外に容易で自然。このあたりの感覚は、本コラム「建築デザインの素」の読者の皆さんであれば既知の通りだ。

SNSの発展と普及により、オフィスは物理的コミュニティの制約から切り離され、シェアオフィスは誕生した。

■SNSやICTが変化させる建築は、オフィスだけじゃない

まあ、ちょいと端折っていえば、SNSはこんな具合にオフィスを変化させてきたと言えそうだ。でも変化する建築タイプは、オフィスにはとどまらないはずだ。たとえば、都会のマンションの一部はスモールオフィスとして使われてきたわけだが、これまで述べてきたようなSNSやICTの影響で物理的なオフィスが細分化する傾向はこうしたスモールオフィスのユーザーですら、マンションの個室よりもさらに小さなシェアオフィスを志向させるトレンドを生んでいるようだ。当然、オフィスユースが主流であった都心の一部のマンションは、変化せざるを得ない。

しかしこんな玉突き衝突的な変化は、SNSやICTがもたらすであろう建築タイプの本質的変革から比べたら、小さな小さな変化にすぎないのかもしれない。

僕自身は、現時点では当たり前のものと考えられている、工場、物流倉庫、研究所、オフィスという建築タイプの区分が大きく揺らぐんじゃないかと思っている。

キーワードは、インダストリー4.0とマスカスタマイゼーション。すべてのモノ作りが、インダストリー4.0の掛け声のもと、20世紀的なマスプロダクションから21世紀的なマスカスタマイゼーションへとシフトしている。その中では当然、モノだけを作っていた工場、モノを保管していただけの倉庫、モノを設計していただけの研究所、そして会社をオペレーションしていただけのオフィスは解体され、「必要なモノを、必要な時に、必要なだけ」生産する新しいシステム=建築タイプが再統合されるはずである。

僕がイメージしているのは、ICTとAIとロボティクスで高度に武装され、SNSを通じて高度にシェア化された工房=デジタル・シェアード・ワークショップ(DSW)。

シェアオフィスはインダストリー4.0の進行とともに、DSWへとさらに変化していくのではなかろうか。そんなことを考えている。

イラスト
▲写真1:SHIBUYA CASTの夜景。(クリックで拡大)


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